こどものころのおはなし｜リアクション

こどものころのおはなし

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　１４　ヒーロー・マスカレイダー

　夜も深い時間。
　灯斗南は、祖父と向き合っていた。険しい顔をした祖父に、彼は叱責されていた。“夜回り”のために毎晩のように家を出ているのを、ついに追求されたのだ。
　しかし、どれだけ責められ、問い詰められても斗南は理由を話さなかった。
「…………」
　室内に重い沈黙が落ちる。
　長い沈黙の後、祖父は吐き捨てるように、誰に向けてでもないように、言った。
「やはりあの父親にしてこの子有り、か」
「…………」
「以後、慎むように」
　厳しく言い渡され、斗南は祖父から解放された。

　自室に戻り、膝を抱えて座る。正面にあるテレビの電源を点けると、彼は録画保存してあるマスカレイダー・マルスを再生した。熱い音楽と共にオープニングが始まる。それだけで気持ちが高揚するものだが、今日の斗南の心が動くことはなかった。
　テレビでは、順調にストーリーが進んでいく。だが、彼の意識は物語ではなく、子供の頃の記憶を追っていた。
　つらい、過去の記憶を。

∞

「お父さん、遊ぼうよ」
　両親と本土で暮らしていた、小学生の頃。
　斗南は大多数の子供がそうするように、父を遊びに誘っていた。父は、斗南と同じ赤い色味の髪をしている。斗南の髪色は、父からの遺伝だ。
　父は彼の顔を見ると忌々し気な表情になり、舌打ちをした。
「疲れてるんだよ俺は」
　背を向けられる。だが、子供の斗南はめげなかった。父と遊びたい気持ちが勝っていたから。
「じゃあ、一緒にマスカレイダー見ようよ」
　疲れているなら、と動かなくてもいいテレビ観賞を提案したが、それも父は即座につっぱねた。
「なんでそんな事しなくちゃいけないんだよ」
「…………」
　初めて、斗南の顔に翳りが生まれた。その言葉は確かに、彼を傷つけていた。そんなことには関心無しに、父は暴言を吐き続ける。
「俺はお前らを食わせるためにやりたくもない残業までして働いてるんだよ」
　苛ついた口調でそう言うと、彼は俯く斗南の顔を見て辛気臭いとでも思ったのか「あー、もういい」と声を荒げ、立ち上がった。
「パチンコ行ってくるわ」
　斗南の顔を見返すこともなく、さっさと家を出ていく。
「…………」
　残された斗南は、暗い顔のまま仕方なくテレビをつけた。当時放送されていたマスカレイダーを見続ける。
　幼かったが、彼は知っていた。
　両親が寝子島にいた高校時代、不純異性交遊の末に母が自分を妊娠したこと。それから、両親共に寝子島を出て本土で暮らし始めたこと。
　高校中退の上に抱えた子供、斗南を完全に持て余していたこと――
　学校でも両親のことがきっかけでいじめられ、斗南は孤立していた。子供らしい顔を見せるのは両親の前でだけで、それも、今のような言葉を投げられるとすぐに消えてしまう。
　彼にとっての心の支え。
　それが、マスカレイダーだった。

∞

　――主人公が子供達に呼びかける声が聞こえる。
　いつの間にか、マスカレイダーは次回予告に入っていた。
「あ……」
　意識を引き戻された斗南は、慌ててオープニングまで巻き戻した。そうして最初から、今度はちゃんと内容を頭に入れながら見始めた。