さまよいアルク　第三章～かそけき生命を慈しむ地下樹木園｜リアクション

さまよいアルク　第三章～かそけき生命を慈しむ地下樹木園

【旅の途中】

　発光植物の放つ光が、まぶしい青と白から、淡く穏やかな赤やオレンジへと変わっていきます。地下洞窟に訪れる夕暮れは、動物たちに安らかな眠りをもたらすためにツリーアンが作り出したシステムでありながらも、やがて訪れる夜は静かに、優しく住人たちを包み込んでいくのでしょう。
「わしらはぁぁ、そうやってぇぇ……この子らをぉぉ、守ってきたんだぁぁ。ずっとぉぉ、ずっとぉぉ……長い間ぁぁ」
『すごく、くろうしたんだろうね。たいへんだったんだね』
　小山内海が、スケッチブックのページへさらさらと書き入れた言葉を見せると、ツリーアンはどこか複雑にも見える笑顔を浮かべて、根本のあたりに丸くなって寝転ぶ動物たちを、手先の葉っぱでさらりと撫でました。
　森の全てが見下ろせる、高台から眺める景色はあまりにも印象深く、芝生に腰を下ろした恵御納夏朝もまた思わずスケッチブックを取り出して、その風景を描き始めました。
「本当は、スマホで写真も撮りたいけど」
『そろそろ、でんち、なくなっちゃう？』
　海の問いに、夏朝は、
「うん。それもあるけど……」
　充電なんてする暇も無く、続く旅に電池の残量も心配ではありましたけれど……それよりも。
「すまほー？」
「しゃしん、ってなあに？」
　ツリーアンたちに任されている仕事も終わり、今は夏朝や海の周りを囲んでくっついて、伸び伸びと寝転んでいる毛玉リスたち。
「……ううん。何でもないよ」
　彼らや動物たちの息づく、この世界の中に……液晶画面が照らす明かりはどうにも、ふさわしくないような。夏朝は、そんな気がしたのでした。
　いつしか海も、夏朝と並んでスケッチブックへ、植物たちの演出する夕焼けと、佇む森、ツリーアン、くつろぐ動物たち……先ほどからその中に紛れてころころとじゃれ合ったりしている、アルクの白黒毛並み。その全てを、さらさら、さらりと描いていきます。
「うわーっ、綺麗なんだよー♪」
　高台へ足を運んだのは、いつも元気。どんな場所でも明るい空気を作り出してくれる、鈴原天音。
「何だか、絵みたいな景色なんだよーっ」
「確かに、描き残しておきたいという気持ちも分かりますね」
　ステッキを新調したオーデン・ソル・キャドーは、淑女の皆々様へ、やっぱり優雅に一礼を。
　木の実やドライフルーツの詰まったポーチや木の水筒を提げているのは、サキリ・デイジーカッターと鴻上彰尋です。夏朝がそれを見て、
「あ……食糧調達、任せきりで、ごめんね？」
「いいよ、アルクを休ませるのだって大事だしね。それに僕は、動物たちを思う存分トリミングできて、満足さ」
　そういえば、周囲の動物たちは揃って毛並みがスッキリ、爽やか！　な感じなのは、ひとえにサキリのハサミさばきのおかげであるようです。
「ともかく、これで当面の水と食料は確保できた。次がどんな世界でも、ひとまずは大丈夫だろう……おっと」
　彰尋もあらためて、芝生の上へと腰を落ち着けますと、途端に人懐っこい動物たちが寄ってきて、すりすり。鼻先を擦りつけたり、身体をくっつけたまま、すやすやと眠り始めたり。
　ひゅう、とひとつ風が吹いたかと思うと、ろっこんを使って飛翔しながら高台の上へひょいと顔を覗かせた、三夜茜。
「よっと。たまには穏やかな遊覧飛行も、良いもんだね」
　芝生へ降り立ったところに、丸くなっているアルクを見つけて、
「束の間のバカンス、楽しかったよ。ありがとね」

　その後も旅人たちは、やがてぱちぱち、ぱちりと茜色の光が弾けて、白黒猫がにゃあと甲高く鳴くまで。
　樹々や動物たちに囲まれて、のんびりと羽を伸ばして、心穏やかな時を過ごすことができたのでした。

　そして再び、次なる世界へ。
「な、ななな……」
　後木真央は、固くてやけにぐらぐらとした足場へ降り立つなり、驚いて声を上げてしまいました。
「なんてこったのだ、がおーが浮いてるのだマジックじゃないのだタネも仕掛けもありませんのだ～っ！？」
　目の前で、召喚デブ猫がおーが、ふわふわ。ぷかぷか！　突然、空中へと浮かび上がったのです。
「っ、ていうかこれ……わ！　わ！」
　慌てた声は、雨寺凛……がおーだけではありません。真央も凛も、ふわふわぷかぷか！　宙へ浮かび始めます。
「ちょ、ちょっと待って、これどうしたらいいのーっ！？」
「このまま昇天するのはご勘弁なのだー！？」
　手足をぱたぱた、抵抗もむなしく。上へ上へと、ゆっくりゆっくり。昇っていきます。
「やあ、これはまた……いやはや。すごいところに来てしまいましたねー」
　空中でじたばたとしていたアルクを、腕の中へ抱き込んだ薄野五月。一緒にふよふよと浮かびながらに、くいと眼鏡を押し上げ、周囲を眺めてみたなら。
　辺り一面、見渡す限りの瓦礫の山。崩れ落ちたビル群、地割れによってぱっくりと分断された道路。黒々とした暗雲は稲光を内包し、いくつも地面から伸びて見えるのは……まばゆく輝く、茜色の光の柱。
　どうやら旅人たちは、またしても、大変な世界へとやってきてしまったようです。

＜『さまよいアルク』　つづく＞

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あとがき

担当マスター：墨谷幽
ファンレターはマスターページから！

　墨谷幽です。さまよいアルク第三章、『かそけき生命を慈しむ地下樹木園』のリアクションをお届けいたします～。

　今回は、癒し！　をテーマに、遊んだりお風呂でのんびりしたり食べたり飲んだりしていただきました。
　人の手が及ばないような深い深ーい森って、やっぱり、神秘的なものを感じてしまいますよね。実はその奥には動物たちの楽園があって、賑やかに毎日楽しく遊んで暮らしてて……なんて光景をふと、森の中に見つけたら？　といった感じでイメージを膨らませてみました。
　後半はちょっぴりしんみりしたりしつつも、癒されていただけましたでしょうか？

　アルクと行く異世界ツアーも、これで３つ目の世界となりました。
　こちらのシリーズシナリオは当初より４～５話構成を想定しておりまして、ここまでの進み具合からして、恐らくは５話目にて完結。ということになりそうです。
　旅も今回で折り返し。皆さまにはもう少しばかり、お付き合いをいただけましたら幸いですっ。

　それでは今回も、ご参加いただきまして、誠にありがとうございました！
　次の旅でもご一緒いただけますことを、心よりお待ちしております～。
　お疲れさまでした！

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