ぱちり。ぱち、ぱちと、数度弾けた
茜色の光。
諸々の理を超え、三度目となる移動の後に、さまよう旅人たちが目にしたものは……
森。
「キレーなとこだねぃ」
ぐるり、と首を巡らせた
呉井 陽太。細い目で周囲を見渡せば、ここがどうやら、岩盤の中にぽっかりと開けた、
地下洞か何かであることが分かりました。
けれど、それだけではありません。
「樹の実とか、花とかが、みーんな光ってて……だからこんなに、昼間みたいに明るいんだなぁ」
あまりにも巨大な洞窟の中で、のびのびと豊かな緑を生い茂らせる樹々は、滑らかな花弁を持つ薔薇のような花を咲かせていたり、あるいはまるでランプのような大きなほおずき状の実をつけていたり……またあるいは、ほわほわとした胞子めいた綿毛を、そこらじゅうをふわふわと漂わせていたり。
それらがみな、小さな星か太陽のように、自ら光を放っているのです。
まぶしい白、あるいは
淡い青色に明滅する
発光植物たちに照らされた森は、まるで電飾に彩られているかのよう。
「うーん? 見当たらないナァ」
そんな中で、
志波 武道は少々、思案顔。
「あれ、どーしたのん武道君。何か探してる?」
「イヤー、これまでたどってきた世界には、どっちにもあの石があったからな。もしかしたら、ここにもあるかと思ったんだが……ん?」
と、その時でした。
「……う、うわあぁぁ……その石をぉぉ、わしらにぃぃ……近づけないでおくれぇぇ」
ちょっぴり間延びした、低い声。頭上から聞こえた声に、ふたりが振り返ってみますと。
そこには……
顔のついた、でっかい樹!
「き、樹がシャベッタァァァァァァ!?」
わさわさと身体中の葉っぱを震わせながら、何やら怯えた様子の大きな顔と目が合いまして、武道くんは大げさに仰け反りました。幹に目鼻や口、絡み合う枝は腕や手のように動き、二本の根を足のようにして歩く、全長十数メートルはあろうかという、それは人型の樹木とでも呼ぶべき生き物のようです。
困った顔の樹の視線の先には、うにゃん? ととぼけた様子で首を傾げた、
この旅の導き手であるらしい、白黒毛並みのヘンな猫、
アルク。
「ってこの石のこと、知ってるのん?」
陽太が指差したのは、アルクの首元できらめく、
茜色の宝石です。これまでの旅においては、行く先々で見かけるこの石が、どうやら重要なキーとなるものであるらしい、と分かってきたところで、武道もそれを確かめるために先ほど、この世界にも同じものを探していたのでした。
ただ、
「うぅぅ……それはぁぁ……わしらはぁぁ、その石をぉぉ……」
陽太の問いに、大きな樹は顔の上の眉毛っぽい部分をくいとハの字にして、もごもごもご。口ごもるばかり。
「……あー、ダメダメ! 『ツリーアン』たちは、あんまり上手くモノを考えられないんだから」
子供のように、甲高い声。不意に足元から聞こえた声に、ふたりと、それに白黒猫がくるりと振り返ってみますと。
そこには……
小さな角のはえた、キツネ?
「き、狐もシャベッタァァァァァァ!!」
「そりゃあ喋るわよ……で、あなたたちはどなた? 頭のてっぺんにだけ毛がある猿なんて、珍しいわねー」
ついとどこか上品な仕草で背をそらして見せた子ギツネは、大げさに仰け反った武道くんを涼しげに眺めて言いました。
気付けば周囲には、しゃべる子ギツネが『
ツリーアン』と呼んだ樹木人たちが旅人をこわごわと覗き込み、それに……
足が六本もある鹿のような動物や、
翼を持つタヌキやら
硬そうな甲殻を背負ったクマやら、
体毛をカメレオンよろしく変化させるリスっぽい小動物とか、もう明らかに
ドラゴン的なシルエットのトカゲとか。
奇妙で不思議な動物たちが、ずらずらり!
そんな、見るからに地球のイキモノじゃない面々が口々に、
「あれれ、新入りかなー?」
「へー、何だか変わってるね」
「仲間が増えて、嬉しいな!」
武道や陽太を見ては、何だか楽しそうな声を上げるのです。
「まっ、新入りっていうなら、歓迎してあげないとね!」
子ギツネが小走りに、どこか高いところにあるらしい足場の縁へと駆け寄ります……ふたりはその時になってようやく、自分たちが今、あまりにも大きくて頑丈な、葉っぱの上に立っているのだと気付きました。
子ギツネがくるり、振り向いて。にっこり!
「ようこそ、あたしたちの楽園へ♪」
覗いた光景は、発光植物の光に照らされて明るく、そして賑やか!
葉っぱの足場をツタや蔓によって作られた橋が繋ぎ、それらが重なり合って階層を形作り……あちこちに見える、大きな水たまりはまるで、
プールのよう。
半分に割った植物の茎によって、上から下へと滑り落ちるように形作られたコースには水が流れていて、これは、そう……
ウォータースライダー!
樹々のうろには
休憩所のようなものもありまして、美味しそうな果物や、樹の蜜か何かでしょうか? 飲み物まで用意されているのです。
動物たちはそれらで楽しそうに遊んだり、奔放に駆け回ったり、くつろいだり……そこは自然の中に作られた、まさしく一大
レジャーランド!
思えば
前回の世界では、少々ハードな道行きともなりました。中には小さいながらも怪我をした人もいるわけで、ここらで少しばかりリラックス、羽を伸ばしたり身体を休めたりしておくのも、悪くは無いかもしれません。
「ま、そーいうことなら……」
「イッチャウー?」
「いっちゃおーかねぃ♪」
歩き出した彼らのあとを、ふにゃあと気の抜けた声で鳴いた白黒猫が、ててて、と軽快に追いかけていきました……首元にきらめく、茜色の光を揺らしながら。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
ガイドへは、呉井 陽太さん、志波 武道さんにご登場いただきました。ありがとうございました!
(ご参加いただける場合は、上記のシーンに寄らず、ご自由にアクションをかけて下さって構いませんのでっ)
前回までのあらすじと、このシナリオの概要
白黒の変わった猫、アルクと一緒に異世界を旅する『さまよいアルク』シリーズの、こちらは第三章となります。
なお第一章、および第二章では、大まかに以下のような出来事がありました。
不思議な猫『アルク』と出会ったことで、異世界へと連れてこられてしまった寝子島の
住人たち。
第一の世界、清々しく美しい海と空を擁する街では『豊漁祭』が催されており、旅芸人
の一座や、有翼船を駆る漁師たち、空を泳ぐ空魚たちとも触れ合いました。
第二の世界、昼は熱風吹き荒び夜は険しい冷気に包まれる荒野では、とある若い夫婦の
旅路を助けました。屍人(スカベンジャー)と呼ばれる生き物たちの襲撃を切り抜け、
月と星を映す鏡面湖を駆け抜けた彼らは、過酷な環境で生きる夫婦へ希望と決意を
届けました。
ふたつの世界を通り抜けるうち、彼らはアルクの首輪に取り付けられている茜色の宝石が
ローシルティウムという名であり、一方では人々の拠り所となりながら、一方では人々に
滅びの脅威をももたらしていることを知ります。
謎が深まる中、アルクがひと鳴き。彼らはひとつの世界を後にして、次なる世界へと
旅立ちました。
上記を踏まえまして、今回アルクに連れてこられたのは、地下洞窟の中に生い茂る森と、そこに作り上げられたプールや滑り台などを擁するレジャー施設のような場所。地下の岩盤をくり抜いて作られた空間ですが、そこらじゅうをきらきらと光を放つ発光植物が照らしていて、まるで地上の昼のような明るさです。
今回の世界には、前回のように皆さんの脅威となるような何かはひとまず見当たらないようですので、骨休めということで。思い切り遊んだり、ちょっぴり変わった動物たちと触れ合ったりと、ゆっくりくつろいで楽しんでいただければと思います。
ちなみに、この施設にいる大きな樹木人、『ツリーアン』たちは、アルクの持つ茜色の宝石について、何か知っているようなそぶりです。あるいはそれについて、確かめてみるのも良いかもしれません。
アクションでできること
アクションには、舞台となる地下洞に生い茂る大樹林の中で、行きたい場所を以下の【1】~【4】の中から1~2つ選びいただき、そこで何をするかをご記入ください。
また今回は、そこら中に動物たちがおり、一緒に遊んだり触れ合うことができます。彼らは地球の生態系のものとはどこか似ているようで違っていて、それぞれに見たことのないような形態、特性を持っていたりします。
ガイドに登場したものは一例ですので、もし他にも、こんな動物を見てみたい! 触れ合ってみたい! といったご希望がありましたら、ご自由に考えていただいてOKです。キョーレツな肉食獣で周囲の動物を見境ナシに襲いまくる、とかそーいうのでなければ、概ね登場させていただきますので~。
※なお、現地で使われている言語(文字、音声)を理解するには、近くにアルクがいる必要があります。
放っておいても彼はついてきますが、あまり足は速くないようです。必要なら抱きかかえる等したほうが良いかも。
【1】プールやウォータースライダーで遊ぶ
地面に掘った穴や、あるいは巨大な葉っぱや花のくぼみに、汲み上げた地下水を溜めたプール。小さく浅いもの、長大なものなど数か所があります。手入れが行き届いているようで、水は常に清潔です。
湧き水と植物の茎を使って作られたウォータースライダーは、比較的傾斜の緩やかなものから、かなりの高低差で複雑に入り組んだハードなものまで、いくつかのコースが楽しめます。
ちなみに、水着をお持ちでない方は、意外と器用な樹木人『ツリーアン』にお願いすることで、丈夫で滑らかな肌触りの葉っぱを使ったピッタリのものをあつらえてもらえます。
【2】薬草湯につかる
巨大な倒木の幹や切り株などをくり抜いた空間へ満たした地下水を地熱で温め、様々な薬草を浸したお風呂。切り傷や擦り傷に効き、疲労回復にも効果があるとのこと。
プール等からは少し離れて奥まったところにあり、静かにゆったりとつかることができます。
ちなみに諸々の事情により(らっ!倫とか様式美とかで)、こちらはオス・メス別、ということになっております。あしからず。
【3】休憩所でまったり
樹のうろの中にある休憩所。並んだテーブルの上には美味しい木の実や果物、澄んだ水や、樹の蜜を使ったジュースなどがあり、飲食しながら身体を休めることができます。仮眠所もあり。
また、休憩所を出てすぐ側には広い芝生の空間があり、動物たちと走り回ったり寝転んだりと、自由に過ごしていただくことができます。
【4】その他の場所へ行ってみる
その他にも、動物たちや皆さんが癒されそうな何かがあるかもしれません。あまり不自然なものでなければ、思いついた場所などご自由に指定していただいても構いません。
また、施設の周囲は厚い岩盤に囲まれていますが、ある場所には『ツリーアン』がちょうど通れるくらいの穴がぽっかりと開いており、そこから外へ出ることができそうです。ただ、彼らは動物たちや誰かが外へ行くことを、あまり快く思ってはいないようです。
その他、上記に加えて、
・不思議な猫アルクについて思うこと、疑問など
何かありましたら、合わせてお書きいただけましたら。
『さまよいアルク』シリーズとは?
寝子島に現れた一匹の猫、アルクの持つ不思議な力によって、色々な異世界を探訪していくシリーズシナリオです。
訪れることになる世界は様々で、穏やかで優しい世界もあれば、険しく危険な世界もあるかもしれません。
そうした世界を巡るうち、アルクの力に秘められた謎など、明かされていく秘密もあることでしょう。
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
なお、こちらの第三章からご参加いただく場合は、
・実は第一章、第二章の世界にも参加していたが、別行動をしていた。
・同じタイミングで連れてこられたが、時空の歪みにより出現するタイミングが遅れた。
・気付いたらいた。理由は良く分からない。
等々、お好きな形でご自由にどうぞ。あまり深く考えなくても大丈夫ですので!
●舞台
異世界。巨大な地下洞窟の中に息づく大樹林と、そこへ『ツリーアン』たちが手を加えることで、動物たちの癒しの空間が形成されています。
足場は芝生か、高所は大きく頑丈な葉っぱによって構成され、蔓やツタで作られた橋がかかり、各所には動物たちが利用するプールや滑り台、食事処や寝床などがあります。
施設の外がどうなっているかは、動物たちは知らないか気にしていないようです。
なお、ある程度の時間が経過すると、アルクの持つ能力により、参加者は次の世界(次のシナリオの舞台)へと移動します。
●NPC
○アルク
寝子島に突然現れた、不思議な猫。身体の右半分の毛が白、左半分が黒で、茜色の綺麗な宝石をあしらった首輪を身に着けています。
現状ではその原理は不明ながら、アルクは2つの特別な力を持っています。
・1つは、異なる世界を渡り歩く能力。
・もう1つは、世界によって異なる言語を相互翻訳し、周囲の人々へと伝える能力。
どちらも、アルクの意思などには関わらず、自動的に発動する力のようです。そうした力を除けば、普通の猫と変わりません。
ちなみに、7~8歳くらいのオス。のんびり屋で物怖じしない性格らしく、誰にでもすぐに懐きます。
あ、特に水が嫌い、とかは無いようです。
○ツリーアン
全長十数メートルの、人のような形の大樹たち。樹木人とも呼ばれます。動物たちが楽しむ様子を、慈愛の眼差しで見守っています。
間延びした口ぶりはのんびり大らかで鈍重に見えて、実のところこの施設を作り上げ、管理運営しているのは彼らであり、意外にも手先は器用です。
身体に生えている葉っぱや木の実、枝振りなど、それぞれに個体差があるようです。中にはある程度しゃべりが達者なものなどもいるかもしれません。
なぜか、アルクの持つ宝石を怖がっている様子。
○動物たち
施設のいたるところで見かける、地球の生き物とは少々違った形、特徴を備える、多種多様なしゃべる動物たち。種類は実に様々でありながら、いずれもこの施設を仲良く、のびのびと楽しんでいます。
外から来た新入りにも寛容で、すり寄ってきたり、人懐っこく遊びに誘ってきたりします。
●備考や注意点など
※上記に明記されていないNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
以上になりますー。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております!