クリスマスのあしおと｜リアクション

クリスマスのあしおと

「先輩は牡蠣とほうれん草ですよね、お待たせしました。これって何作るんですか？」
　英二に材料が入ったビニール袋を手渡され、志波武道は参考に印刷してきた類似のレシピを見せた。
　その全ては牡蠣とほうれん草の入ったクリームシチューだ。
「これをトマト味にしたいんだよね。
　緑と赤と白ってまさにクリスマスカラーダモノ☆
　大まかな味の組みあわせは出来るんだけど、いざ実際に作る、となると俺詳しく知らない事多くって……。
　技術ばかりは一夜漬け無理だった！　すまんが手伝い宜しくお願いしたい！」
「おっけおっけー。俺らも何回か作った事あるよこれ。トマトシチューじゃなくてただのクリームシチューだけどね」
　快諾するエリセイに、武道はレシピのホワイトソース作りの箇所などを示した。
「特にこことかこれとか、双子さんオネガイシマス」
「はいはーい、料理なら任せて」
　レナートは答えながら、既に牡蠣を塩水で洗い始めている。
「誰かワイン取ってきて、白」
「玉葱とマッシュルームもー」
　早々に飛んだ双子の指示に、英二と直治、師呉がキッチンを駆け出した。

　市橋誉は学校で話しを聞き、手伝いを申し出た一人だった。
　誰にも言ったことは無いが、彼の将来の夢は、『ジャズピアニストになって、自分の喫茶店を持つこと』だ。今回の目的といいミルクホールの年代物らしい雰囲気といい、彼の目標に合致している。
「初めまして、今日は来てくれて有難うございます」
　丁寧に挨拶をしてきたイリヤへ、誉は首を横に振った。今日のことはきっと無駄にならない、腕試しにもなることだし、と考えていたのだ。
「喫茶店のメニューを考えるなんて、素敵な機会だ」
　そう答えて作業に戻った彼の手元にあるいちじくやレーズンのドライフルーツとナッツを練り込んだ生地を見て、イリヤは小首を傾げている。
「これは何を作ってるんですか？　パン？」
「シュトレン、ドイツの菓子パンだ」
「聞いたことがあります。ドイツと、голландский……オランダ！　で、Advent（アドヴェント、待降節）に少しずつ食べますね」
「ブターシュトレンか。それって作るのに時間掛かるでしょ」
　背後からそう聞いてきたエリセイの言う通り、シュトレンは本格的に作ると二日、三日を越えてしまう。誉が作っているのはそこまでのものでは無いものの、手間が掛かるのは確かだ。
「洋酒に漬け込んだドライフルーツを練り込むから、作る手間はそれなりだけど、日持ちする所も良い」
　誉は言いながら打ち粉をして軽くまとめると、型を取り出した。シュトレンは楕円状にしたものが基本だが、シフォンケーキ型のような円形や、山のように内側が高くなったシュトレン型で形作るものもある。
　しかし誉が持参していたものは、エリセイもシュトレンでは見たことが無いものだった。
「これはかわいいですね！」
　とイリヤが完成系を予想して感嘆したのは、ハートや星などの様々な型だった。
「星は華やかだろう。丸がクリスマスリース風、ハートは恋人向けってとこか」
「焼きあがるのが、楽しみですね」