【お三夜】きぐるみづくしのお猫様｜リアクション

【お三夜】きぐるみづくしのお猫様

（あっちゃー、とりあえず、着ぐるみを脱がせないとだよ）
　鈴原天音は、目の前に広がる光景に軽く溜息。
　右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても。
　着ぐるみ姿のお猫様で溢れているのだ。
（いっぺんに何匹もは無理だから、とりあえず一匹ずつだよ）
　寝子島神社の境内に鞄を置いて、天音は着ぐるみお猫様の捕獲を試みる。
「っと、こら、いい子だから、逃げないでほしいんだよ」
　すぐ側にいた一匹を抱きかかえようとするも、着ぐるみお猫様はするりと腕をすり抜けてゆく。
　着ぐるみで動きづらいだろうに、それでも素早くしなやかなのはお猫様である所以なのか。
　天音は軽く肩をすくめ、鞄の中から小袋を取り出す。
　着ぐるみお猫様はもちろんのこと、神社の野良猫達の耳がぴんっと立った。
「でも実は、準備ばっちりなんだなー。ほらほら、みんな、ご飯だよー」
　小袋の中から天音が取り出したのは、煮干。
　しかもお猫様用の大ぶりサイズ！
　天音が煮干しの尻尾をつかんでふりふりした瞬間、わっと猫が群がってきた。
「こらこらこら、落ち着いてだよ。ちゃんとみんなの分もってきているんだから。そうそう、いい子いい子。仲良くみんなで分けるんだよー？」
　小袋から次々と煮干を取り出して、天音はお猫様達が喧嘩をしないように配ってゆく。
（いまなら大丈夫かな）
　着ぐるみお猫様が一匹、煮干を食べ終わって満足そうにのびーっとしているのを、天音はそっと撫でながら抱きかかえる。
「ちょっとだけごめんなんだよー。脱がせてあげるからじっとしててねー」
　お猫様にぴったりサイズの着ぐるみは、脱がせるのも一仕事。
　一匹どうにか脱がせ終わる頃には、１１月だというのに天音は額に軽く汗を浮かべていた。
　そしてむっすぅと不貞腐れる着ぐるみお猫様。
　いや、いまは脱がされお猫様。
「機嫌直して？　実はね、こんなこともあろうかと、猫用おもちゃも持ってきてるんだよー！」
　じゃじゃーん♪
　そんな効果音が流れそうな雰囲気で、天音は境内に置いた鞄の中から、今度は猫じゃらしを取り出した。
　不機嫌顔のお猫様が、「お？」といった表情になる。
「ふっふー、ほーら、思いっきりじゃれていいんだよー」
　ふりふりふりふりっ。
　天音の手の動きに合わせて、右に左にジャンプするお猫様。
　もうすっかり、機嫌が直ったようだった。

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