【お三夜】きぐるみづくしのお猫様｜リアクション

【お三夜】きぐるみづくしのお猫様

（あれ？　あそこにいるのは、織美ちゃんかな）
　綾辻綾花は、早朝に立ち寄った寝子島神社で見知った背中を見つけた。
　同学年で、同じ家庭科同好会の佐々東織美だ。
　なにやら深刻な顔で熱心に祈っている。
　綾花は猫手帳を鞄にしまい、織美に声をかけた。
「織美ちゃん、おはよう。随分早いね」
「おはようですっ。綾花ちゃんも早いね。やっぱり、お願いごとっ？」
「やっぱりってことは、織美ちゃんは何かお願い事をしていたの？　いまも、熱心にお祈りしている感じでしたけれど……」
「うん、ちょっと、神頼みしたくなっちゃって」
「そうですか。私でよければ、聞いてもいいかな？」
「わわっ、ほんと？　神様がお願い事を聞いてくれたのかなっ、ずっと、困ってたのっ」
　がしっ。
　織美が綾花の手を握り締める。
　そうしてそっと、口を綾花の耳元に寄せて、ごにょごにょごにょっ……。
「えぇっ？」
「しーっ、綾花ちゃん、しーーーーーっ！」
　内容に驚いて一瞬声を上げる綾花の口を、織美が慌てて手で塞ぐ。
「声を上げてごめんなさい。でも、それは……」
「うん……驚いちゃうよね……」
　顔を真っ赤にして俯く織美に、困惑する綾花。
（サラリーマンに一目惚れというのは、意外でした。でも、サラリーマンといっても年齢はまちまちです。相手の方がご結婚されていなければ問題ないはずです）
　一瞬困惑したものの、そこはそれ。
　友達が困っているのだ。
　できるだけ協力してあげたい。
「その方のお名前はもう知っているのですか？」
　ひそひそと、周囲に聞こえないように注意しながら、綾花は確認する。
「ううん、ぜんぜんっ。名前も、年齢も、どこに住んでいるのかさえ……あ、でも、結婚はしてないの、それは左手を見て確認しちゃった。恋人がいるかどうかまでは分からないけどっ」
「そうですか。そのサラリーマンは、いつも、こちらへ？」
「夜にたまに見かけてる。でも、いつもなのかな。あんまり夜遅くにはこれないから、たまにしか……」
　しょんぼり。
　目に見えて、織美は肩を落とす。
（女子高生が夜間に何度も出歩けませんよね。となると……）
　ぴんっ。
　綾花の脳裏にひらめくものがあった。
「織美ちゃん、張り込みましょう」
「張り込み？」
「そうです。そのサラリーマンに比較的多く会える日は何曜日ですか？」
「えっと、火曜日かな」
「それなら今日ですね。織美ちゃんがここにこれる時間は朝と、学校が終わって同好会も終わったあとです。つまり、遅くとも１９時です。きっと、相手の方は火曜日は残業がないのではないでしょうか」
「あんまり会えないのは、残業で遅い日って事かっ。それなら、今日はすれ違わないように、同好会が終わったらすぐにここにくるっ」
「そうですね、私もご一緒しますよ」
「綾花ちゃんありがとっ」
　ぶんぶんぶんっ。
　綾花の両手をぎゅうっと握って喜ぶ織美。
（早く猫ちゃん達に会いに来てみて良かったです）
　友達の笑顔にほんわかとする綾花だった。　

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