寝子島☆飛行船の浪漫譚？！｜リアクション

寝子島☆飛行船の浪漫譚？！

「何を！」
「それ！」
　あやめが円へ向かうも、猫型計算機『にゃーくん』から噴き出た蒸気で目が眩む。
「ナイスだぜ、お嬢さん！」
　操縦席にいた窃盗団員を気絶させ、青年が円へサムズアップ。その正体は風雲児轟であった。
　その隙に、優木遥斗は手首のロープを気合で引きちぎり、ゆっくりと立ち上がる。牡丹を含め注目は彼らに移っている。その隙にリッカルドの手のロープをガラスの破片で切り、ほかに救助者はいないかとあたりを見渡した。
　そこで目に入ったのは、雪乃と葉月だった。彼はそっと雪乃の手を取り、葉月に近づくと、耳元で「立てるか？」と問いかけた。
（？）
　この時、だれもが忘れていた。出入口が、開いたままという事に。
　彼はそれをいい事に、葉月の手首に結わえられたロープをガラスの破片で切り、戒めを解く。
　牡丹とあやめ、尚輝、時子らに向けられている注目も、いずれ解ける。遥斗は一つ葉月に頷くと雪乃と手を握らせた。
「わかったわ」
　葉月は戸惑う雪乃に人差し指を立てて「静かに」と伝え、リッカルドと遥斗と共に飛び出した。
「これで、舵は……」
　かわるかな、と言おうとして、轟は眉をひそめた。人質となっていた運転士は、何者かによって気絶させられていた。おそらく、轟に救出されるならば、と先手を打って窃盗団員がおこなったのだろう。轟は歯噛みした。
「ふふ、このまま風に任せて流れていくことでしょう。今ならまだ間に合います。我らのレディに跪きなさい！！
　牡丹がそう叫び、円が時子たちを守ろうと前に立ちはだかる。だが、その時。流れてくる者たちがいた。鈴野海斗と呉井陽太、須崎蒼志だ。
「陸軍准将、黒崎俊介閣下と海軍准将、永田孝文閣下から逮捕状を頂いたっちゃ。既に大半の窃盗団員は確保済みっちゃ」
「大人しく捕まってもらえるかな？　その方がすっごく楽なんだけどね」
「ちなみに、俺たちは飯をおごってもらえる」
　海斗と陽太があやめと牡丹に言い放ち、蒼志がぽつり、と呟く。だが、２人は従わない。あやめは、気絶している操縦士を引きずり出し、穏やかに言った。
「この状況、貴方がたが分かっていないのでは？　この船も少しずつ降りているみたいですし、操縦者がいなければみんな海の藻屑になるかもしれませんよ？」
「さて、どうかな？」
　その後ろから来たのは、八神修と壬生由貴奈の二人だった。由貴奈はいつでもろっこんが使えるようクッキーを準備しつつ、内心で（タイミング悪かったかなー）とか考えていた。
「実はね。裏技があるんだよね、舵にかんしては。ほら」
　由貴奈はそういって、外を見るように言った。確かに、船は徐々に高度を下げている。だが、その先にあるのは……１つの島。
「仕掛けは秘密だよ。ともかく、だれも死なせず、この船の処女航海は終わらせて見せる。その意思に、屈しなよ。技術屋の情熱を甘く見たあんた達の負けさ」
「あら、それはどうかしら」
　牡丹が、よろよろと立ち上がりながら笑う。彼女の脳裏には、１人の白き戦士が思い浮かんでいた。

　そのサキリは、ごちゃついたこの船の中、一人風の音を聞いていた。彼には、空間転移が可能なろっこんがある。その気になれば外でも活動できる。
　今、彼は内心焦っていた。窓の外、炎のように赤い髪が揺らめいて見える。それが何を意味するのか、サキリには直感で分かった。
「よそ見とは余裕だな！」
　新田亮の拳が閃き、サキリは紙一重で避ける。だが、彼はため息を吐いた。
「また、しくじったのか……俺たちは。でも、ただじゃ転ばないさ！」
　サキリは走り出す。目指す場所は、非常用ドア！
「！　行かせないわ！」
　椎井莉鳥がろっこんの電撃でサキリを狙うも、風のようにかわす。だが、そこにいるのは、北里雅樹である。
「邪魔だ！」
　サキリが刃を閃かせ、それをものともせず雅樹が殴り掛かる。確かに当たったはずの、感触。だが、それは空を切りサキリは先へ行っていた。ろっこん『斬空赤刃』は距離が短いほど連続発動が容易になる。
「最初の案とは程遠いが、こっちにだって意地がある！」
　サキリは、次の瞬間暴風にさらされた。それでも、見えた赤い髪……神薙焔を止めなくてはならない。
「添木さん！　鬼崎！　あとは任せたぞ」
　サキリが、焔に迫る。焔は落ちぬよう作業に集中しており、風の所為もあって聞こえていない。
　だが、その先に進むことができなかった。一瞬、反応が遅れて落ちかける。だが、そこに、御剣刀はいた。