寝子島☆飛行船の浪漫譚？！｜リアクション

寝子島☆飛行船の浪漫譚？！

　――飛行船内・？　？　？

「うふふ……、貴様にはわからない！　わかるはずもないっ！！」
　音を立てて突き立てられるメス。その痛みに、優木遥斗は歯を食いしばった。【ファルコ窃盗団】の一人、包帯を巻いたメイド――ファントム・レディ――（添木牡丹）が暴走し、適当に選んだ生贄として彼が選ばれてしまったのだ。
（この娘、どうするつもりだ！）
「やめるんだ！　彼が一体何をしたという！！　私を！　私を刺したまえ！！」
中沢リッカルド――本来、遥斗が守るべき人物――が、必死に懇願する。だが、牡丹は彼の頭を踏みつけ、ぐりぐりと床に押し付ける。
「くっ……」
「うふふふ、レディを……我が麗しきレディを侮辱するやつは許さない！　だれであろうと、殺してやる！」
「彼女が何であろうとこの船を貴様らなどに、くれてやるものか！　これは五十嵐博士の努力の結晶なのだから！　たかが我儘娘の戯言にかまけれられるか！」
　敵意を己に向けさせようと、遥斗が叫ぶ。牡丹はゆっくりとリッカルドの頭から足を退けると、無駄のない動きで彼の頭を蹴っ飛ばした。鈍い音を立てて転がり、ドアにぶつかる彼へ、牡丹は容赦なくメスを何度も突き立てる！
「貴様は！　至上で至高の！　我等がレディを侮辱した！　死ね！　死んで償えぇぇっ！」
「ぐぅっ……っ」
　作業服が、床が血に染まる。だが、遥斗は気合で身を起こし、血が噴き出るのをかまわず牡丹の腕に噛みついた。
「きゃああっ！　こ、この……死にぞこないがっ！」
　牡丹はしゅるり、とどこからともなく包帯を取り出し、遥斗へと巻き付ける。そして、もう一方を床に触れるように垂らした。
「！　何をする！！」
　肩に雀を止まらせた五十嵐尚輝が叫ぶ。だが、牡丹はくすり、と嗤って瞳を閉ざした。

　――刹那。

　遥斗の身体に刻み込まれた傷が、飛行船へと移されていった。音を立ててきしむ飛行船。
「「なっ！？」」
「我々に大人しく従えば『無傷』で皆様助かります。しかし、……要求を呑まねば、皆様飛行船と心中していただきますわ」
　思わず声を上げる尚輝と遥斗に対し牡丹は楽し気に嘯き、うっとりとほほ笑む。誰もが息をのむ中、遥斗はどうにか状況を打破するべく隙を窺っていた。

（……これは、どうしたものかしら）
　人質の一人として連れてこられた三宅葉月はため息をついた。目の前にいるのは、かつて己が遭遇した【ファルコ窃盗団】。彼女たちは今、まさに飛行船を危機に陥れた。
（今は、助けが来るのを待つだけ。それが、なんてじれったいのかしら）
　葉月は牡丹を見つめながらも、助けが来るのを祈っていた。

　事の始まりは、２時間前に遡る……。

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