寝子島☆飛行船の浪漫譚？！｜リアクション

寝子島☆飛行船の浪漫譚？！

「外からいければ、素早い解決につながると思ったが……。まぁ、いい」
「また邪魔をする気か」
　サキリはすぐさまろっこんで転移を試みるが、刀もまた素早く迎え撃つ。彼のろっこん『加速』の進化能力は、高速行動中、本来足場にならないものを足場にして行動できる、というもの。
「……無駄だ。大人しく投降しろ、サキリ」
「誰が。それよりも……」
　刀が呼びかける。サキリはそれを鼻で笑い……瞬時に切りつけた！
「踊ってくれるんだろ……御剣中尉！」
　鈍い音が、暴風に飲み込まれる。サキリと刀は、飛行船の外で人外じみた次元の戦いを繰り広げる。音が風に飲まれ、無声劇のような戦いが、風に負けずに繰り広げられる。
　それを知らない焔は、一人孤独に舵をとる。だが、足が震えてきた。この調子では……。
（落ちちゃう、かもしれない）
　だが、その時。彼女は体が楽になったような気がした。だが、落ちたわけではない。誰かが、操縦している。
「焔ちゃん！！　戻って！！　こっちはうちがやる！！」
　操作エリアに作っておいた連絡管から、由貴奈の声がする。焔は涙ぐみながら頷き、元来た道を戻り始めた。

「その調子だ。なかなか筋がいいな」
「まさか飛行船を操縦することになるとは思わなかった」
　操縦席に座っていたのは、由貴奈。彼女は尚輝からアドバイスを受けて飛行船を操縦していた。
「僕自身も飛行船を飛ばしてみたくて練習していたが、ここで役立つとは」
　尚輝が苦笑しているその傍ら、時子と修は傷ついた者達の介抱を試みる。
　牡丹とあやめは海斗たちによって捕えられ、拘束された状態で倉庫に入れられている（もちろん見張り付きである）。
「これで解決するといいな」
「いや、まだ１人残ってるぜ。【斬空の裂切】が……」
　円が期待するように呟くが、轟は彼女を伴って外が見える場所へ連れていく。その窓から見えたのは……空中戦じみたことをする刀とサキリである。
　だが、サキリは徐々に船へ戻るようなルートを辿っている。彼に何か考えがあるのだろう。
「ちょっと嫌な予感がするな！」
　轟は走り出し、円が追いかける。それと同時に、ばりん、とガラスが割れる音がした。視線の先、割れた窓から出てくるサキリの姿が見える。彼が狙うは……リッカルド！

「なっ！？」
「どいてもらう」
　窓から来たサキリが、リッカルドを捕らえる。遥斗が前に出ようとするも、彼は瞬時にリッカルドを気絶させ、首元へナイフを突きつける。
「リッカルドの命が惜しければ動くな」
　サキリは緊急用と書かれた箱からタンデム用パラシュートを取り出し、慣れた手つきでリッカルドを連れ去ろうとした。
　葉月と雪乃は足がすくみ、遥斗も動けずにいる。下手に動くと命が危ない。それは、追いついた轟と円も同じであった。
　反対方向からは莉鳥と雅樹、亮が迫る。それでも、サキリは焦らず外へ向かっていた。が……しかし、その首元に白刃が添えられる。
「動くな。でなければ、斬る」
「追いかけてこないと思ったら……そういうことか」
　サキリは、ゆっくりとそのまま両手を上げようとした。その場にいた者も、（亮と刀以外）安堵の息を吐こうとする。しかし、サキリの目がぎらり、と光った。
「これで終わったと思うなよ？」
　彼はろっこんを使い、リッカルドごと虚空へ転移すると、そのまま落ちていく！
「させるかあ！　凍てつけ、世界よ！！」
　刀が脳裏で撃鉄を落とし、『加速』して追いかける。
「リッカルド様！」
　リッカルドの誘拐を許してしまった。その真実に一同は眩暈が起こりそうだった。特に遥斗は悔しさで胸がいっぱいになる。
　だが、この時、由貴奈と尚輝から放送が入った。
「どうにか、着陸できそうな場所を見つけたよ」
「地上まで、恐らく２０分ほどでしょう」
　これに、客室にいた一般客たちも安堵していた。窃盗団警戒のため残っていた軍人たちは、一般客に混じっていた彼らをすでに拘束し、他の客たちに落ち着いて行動するように伝えていた。
「おつかれさま、ですね」
「お互いに、な」
俊介と孝文は、苦笑しあうと固く握手を交わした。

　しかし、着陸した後。
　あやめと牡丹は姿を消していた。あとに残されたのは、気絶させられた見張りの姿だった。
「……代わってもらったのが、徒になった」
　蒼志はぐっ、と唇を噛み、陽太は倒れた見張りが息をしていることを確認し、手当てを行う。
「問題は、次どう動くかだよ」
　眼鏡を正すと、彼はそこに落ちていた包帯を睨みつけた。

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