寝子島☆飛行船の浪漫譚？！｜リアクション

寝子島☆飛行船の浪漫譚？！

結：その勝利はだれの手に？

　飛行船が、着陸したのは寝子島と小笠原諸島の間にある風切島という島だった。その広いグランドに降りると海軍・陸軍が協力してけが人の治療を始める。三宅葉月もまた、念のため治療を受けた。
（……あなたも災難だったわね）
　葉月は、飛行船を見上げ、内心で声をかける。だが、どうにか無事に……とはいいがたいものの、飛行船も墜落せず処女航海は終了したのだ。
　それでも、みんなの表情は暗い。
「リッカルド殿は？」
「現在、落ちたと思われる海域に捜索隊が向かっております」
「ただ、日没時間まで間もなく、その上天候が聊か崩れ始めているため難航しそうです」
　黒崎俊介の問いかけに、北里雅樹と優木遥斗が苦々しい表情で報告する。飛行船から連れ去らわれた中沢リッカルドは、未だ見つかっていないのだ。それを傍らで聞いていた永田孝文も、表情が険しい。
「それだけじゃないわ。事態は嫌な方向に流れている」
　椎井莉鳥は表情を険しくして、設計図が奪われていたことを報告した。

　当初、八神修はどこかに設計図を隠すつもりでいた。しかし、その暇を奪われるような形で鬼崎あやめに島岡雪乃を連れ去らわれたのだ。
　そして、彼女を捕らえた際……ボディーチェックをした者は、その設計図を見つけることができなかった。
「設計図が……」
　神薙焔は愕然とその場に崩れ落ちる。壬生由貴奈と桜庭円が心配そうに寄り添った。だが、五十嵐尚輝の表情はそこまで落ち込んでいない。
「いずれ、盗まれる覚悟はしていました。……恐らくファルコ窃盗団もまた飛行船を作るでしょう。だが、手を拱いているつもりは全くありません」
　尚輝はそういうと、修と顔を見合わせて頷きあう。そして、テーブルに広げられたのは……鳥のような印象を持つ、のちに『飛行機』と呼ばれるものの図であった。
「これが……新たな発明ですか？」
　御巫時子が「きれい」と思わず呟く横で、風雲児轟もまたそれが飛ぶ姿を見たい、と心から思った。
「ほぉ、面白れぇ」
　そう言ったのは三角巾で左腕を釣った亮だった。どうやら幹部との戦いで、彼は腕の骨を折っていたらしい。
彼はニヒルな笑みを見せると修たちへと言い放った。
「……俺にも一枚噛ませろよ」

　一方、とある無人島。
「……ったく、目覚め悪いな……」
　どうにか生きていた御剣刀は、気を失っているサキリ・デイジーカッターの身体を横たえ、顔を横に向ける。水を吐かせた所で応急処置をして、あたりを見渡す。また、リッカルドは意識が回復したのか、濡れた上着を絞っていた。
（……今は体を休めよう）
　火をおこし、サキリの体温に気を配る。そうしながらも無事だった携帯食に口をつけ、飛行船に思いをはせた。
「御剣中尉。貴方には迷惑を掛けましたね」
　リッカルドが申し訳なさそうに言えば、刀は首を振る。幸い、冬でありながら温暖な気候なのか、そこまで辛くはないし、運よく漂流物の中から防寒具になりそうなものを見つけることもできた。呉越同舟になってしまうが、救助を待つ余裕が、少しはできた。
「ん……」
　サキリが目を覚まし、せき込む。刀が背中をさすってやろうとすると、サキリは裏拳を飛ばしてきた。
「あぶねぇな」
「っ！　ここはどこだ！　飛行船は？！　なぜおまえがここにいる！」
「リッカルド殿を連れて滑空したお前を、俺が追いかけたからさ。強風にあおられ、お前とリッカルド殿は海に落ち、気絶していたんだ」
　刀はため息交じりにこたえる。サキリは漂流という現実に愕然としていた。リッカルドは奪えたが、ここでは身代金要求などできない。通信機も壊れて使えなくなっている。
「……礼美様……」
「鷲尾財閥の令嬢、鷲尾礼美が慈善家って事は俺も、リッカルド氏も知っている。お前自身も恩義があるっていうのもなんとなくわかる。……だから、彼女の恩に報いたかったら自棄をおこすなよ」
　刀は持っていた携帯食をもう一つ取り出し、封を開けるとサキリの口に突っ込んだ。
「ぐぬっ？！」
「食っとけ。あと２、３日は食いつなげる。だが、持たせたいなら明日からは釣りとかしねぇとな」
　刀はそれだけ言うと、夕焼けを見つめた。サキリは困惑し、しばらくの間その携帯食を見つめていた。リッカルドは、そんな２人を見、楽しげに笑うのだった。

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