＜月華＞闘華降煌　～求めよ、さらば与えられん～｜リアクション

＜月華＞闘華降煌　～求めよ、さらば与えられん～

「新田さん。貴方は持てる力を生かし『福玉争奪戦』を制しました。その栄誉を称え、ここに『福玉』を授与いたします」
「あ、ありがとうございます」
　亮は恭しく一礼し、真珠色の水晶を受け取る。ピンポン玉大の水晶はほんのり暖かく、亮を守るように光で包み込んだ。
　乱戦しつつも急いで来たサキリは、眠りそうになっているねむるに肩を貸しながら商社を称え、そのねむるはというと「これで安心して眠れそう」とうとうとしていた。
「この争奪戦は、嘗てこの世界を救った英雄、白虹（びゃっこう）が姫を救う為に敵の軍勢を押しのけて行った、と言われる逸話を元に行われております」
　藍紗はそういいながら亮を初めとする参加者達を見渡し、懐かしむように言った。
　最初はただ聞いていた亮たちだったが……ふと、何者かがこう言った。

　――白虹は、確か『＊＊＊』を裏切ったんじゃあ……。

（……？）
　亮は、その名前に何か棘のような物を覚えた。

　＊　＊　＊　＊

「いやぁ、接戦だった」
「あぁ」
　手に汗握る接戦に、御剣刀と八神修は心から拍手をしていた。瓜山メイと椿美咲紀もまた少し興奮した様子でレースの事を振り返っている。
「お、結果が着たぞ。参加者は全部で１３０人前後、寝子島の面々は全員完走だとさ。優勝者を筆頭に数人が上位に食い込んでるな」
　ライメイの言葉に、ちょっと嬉しくなる一同。だがその後では賭けに勝ったの負けたのだの、物凄く賑やかだった。
　胴元だった修はくすり、と笑って対応を行う。美咲紀は「まだ興奮が収まらないです～
」と冷たい甘酒で火照りを沈めるのだった。

　＊　＊　＊　＊

　レースも終わり、表彰されている頃。
　『贄姫行列』の手伝いをしていた後木真央は、お守りの屋台にいた。その中で目をつけたのが、恋人同士や夫婦で持つとよいとされる比翼の鳥のお守りだった。
「お嬢ちゃん、恋人は一緒じゃないのかい？」
　職人だろう女性の問いに、真央は少し躊躇って頷く。女性は少し考えながら、メノウで作った比翼の鳥を真央の手のひらに乗せた。
「これはね。恋人同士や夫婦が『共に協力し合い幸せになれますように』って祈るモノなんだよ。もし、お嬢ちゃんのいい人が一緒なら名前を刻めるのだけど」
「！　ホントなのだ？」
　真央はその言葉に少し考え、事情を話す事にした。……といっても、掻い摘んで「知り合いの恋人同士のために」という具合だが。職人は１つ頷き、その名前を刻み込んだ。
　職人に礼を述べてお守りを受け取った真央は、少しはなれたところに神社の境内を思わせる場所へ入り、チンチョウゲの植え込みを見つけた。甘く、やさしい香りに目を細めた真央は、その根元にお守り埋める事にした。
　巫女服が少し汚れてしまったが、真央の顔に後悔はなかった。
（瑠香ちゃんと刹弦が、また会えますように。……絶対、瑠香ちゃんは刹弦の傍にいると思うのだ）
　比翼の鳥に刻んでもらった名を思い、真央は祈る。直向に、真剣に祈るその少女の背中を、職人だけが見つめていた。
　桔梗宮への帰り際、真央は職人に呼び止められる。彼女は真央へ「願いがかなうといいね」と小さく言った。その言葉が、真央には嬉しかった。

　＊　＊　＊　＊

　――分かった事があるのだ。
　　　刹弦を助けたいなら、愛憐を助けないといけないのだ。
　　　ううん、愛憐が助からないと、影の貴人は誰も助からないのだ。

　真央は、桔梗宮に戻った後、零と清一郎との会話の中でそう言った。ふと思い出した愛憐の苦悩に満ちた眼差しと、貴人たちの言葉が、真央の心を揺さぶる。
　真央の言葉を清一郎は首を傾げたが、零は「そうなのかもしれない」と相槌を打った。
「んー、『影の貴人』ちゅうんは何なん？」
「まぁ簡単に言ったら『影の魔物』の人型版でござる。ただ、強力な力を持つだけでなく多少は理性的な行動が取れる存在で候。だた、彼らは皆、心に強い未練を持っているでござる」
　零に説明を受けた清一郎は、彼らがかかわった事件を掻い摘んで説明してもらい、「えらい複雑やっちゃな」と思わず呟いた。

　苦しい事を押し付けられて苦しいから抱え込んで

　考えなくて済むから因習に従うのは簡単で

　乗り越えるのは勇気の他にも必要なものが多くて

　真央は、天を仰ぎ、一言はっきりと言い放つ。
「がんばって、愛憐に会わなきゃ、なのだ」
　零は「そうじゃな」と１つ頷き、清一郎も表情を引き締めるのだった。