＜月華＞闘華降煌　～求めよ、さらば与えられん～｜リアクション

＜月華＞闘華降煌　～求めよ、さらば与えられん～

　起：その時に向けて

　――桔梗宮

　贄姫行列の準備は、とても慌しかった。行列に参加する者たちの衣装準備や楽器隊の最終打ち合わせ。そして、今回の『贄姫』である華夜の仕度である。
　今回、準備に参加した後木真央は、今、白虎族の女官と共に衣装を運んでいた。
「うひ～！　これ、案外重いのだっ！」
「しっかりおしっ！　姫様の衣装を落としたら大変なんだからね！」
　恰幅が少々良い壮年の女官は、苦笑しながらもぴしゃり、と注意する。真央は「はいなのだ！」と元気に返事をして箱を抱えなおした。
　真央は華夜と面識があり、それが元でお世話役の手伝いをする事になった。なれない女官服（チマチョゴリに似ている）で緊張はするものの、仕事自体は楽しい。華夜も、見知った顔の真央がいる事で幾分か緊張がほぐれたようだった。
　勿論、真央の他にも手伝っている者がいたし、後から加わる予定のものもいる。信頼できる『寝子島の人々』が手伝ってくれる事に、神官たちも安堵してくれた事は真央もちょっとうれしかった。

　華夜の控え室についたら、丁度禊から戻った華夜の髪を梳き、乾かす。柘植の櫛を手に、丁寧に髪を梳きながら、真央は華夜を見た。どこか儚げに見えるのは何故だろう？
「今回は本当にただのお祭りって考えていいのだ？　潔斎後にその……になったりしないのだ？」
　真央が、不安げに問いかける。と、華夜はくすっ、と笑った。
「笑い事じゃないのだ。呪皇がかかわってたのにそれだけで終わるとは思えないのだ。華夜ちゃんに何かあったら……」
「大丈夫よ。もし、そうなっても兄様や真央ちゃんや寝子島の人たちがいるもの」
　華夜は優しい笑顔でそう言って、真央の頭を撫でる。その優しい感触にそっと目を閉ざす真央に、華夜は頷いた。
　そうしながらも、真央は少し不安げに顔を上げる。やはり呪皇の事が気になる真央としては華夜が冥晶宮から出る前に入る許可を得たい、と言った。華夜は少し考えるが、ややあって首を振った。
　華夜曰く『贄姫』役の姫が祈りのために冥晶宮にいる時は普段以上に警備が厳重なのだそうな。
　不安が拭えない真央に、華夜はやさしい笑顔を浮かべ「何故？」と問いかける。真央は澄んだ瞳で言い切った。
「どんな形であれ、真央ちゃんたちは呪皇とかかわりを持ったのだ。もう、瑠香ちゃんみたいに贄姫なんて出さないし、出させないのだ。だから、華夜ちゃんを手伝いたかったのだ」
　真央の言葉に、華夜の表情が曇る。彼女は僅かに泣きそうになりながら、真央の耳元でそっと言った。
「ありがとう。やさしいのね」
　その声のやさしさに、真央は僅かに不安を覚えた。

「神輿の準備っちゅうんは骨が折れるわぁ」
「そういうものだろう」
　額の汗を拭った須藤清一郎の言葉に、夏神零が笑う。清一郎は他の若衆（若い男性の手伝い組）と共に『贄姫』が乗る神輿の整備や掃除をしていた。
　ちなみに朱雀族となり、赤い翼を生やした零は巫女達に混じって華夜の衣装を出したり、出発前の禊舞に参加していた。彼自身は外見から華夜の世話役が出来るのではないか、と考えた。しかし鼻が利く白虎族や天狼族たちは零が男であると見抜き、警護役もかねて桔梗宮内での仕事を与えられている。今は休憩中である。
「巫女や神官っちゅう事は『穢れ』を知らん女の子がいっぱいおるん思てたけど、ほんまそうみたいやなぁ。頼られるってめっちゃ嬉しいわぁ」
　そういい、清一郎が笑う。今も様子を見に来た巫女たちを見つけて笑いかけ、彼女達が顔を赤くしている姿に表情を和ませる。零は苦笑しつつも楽しげな清一郎の肩を叩く。
「お茶とお茶菓子が出るようで候。いかがかな？」
「かわいい女の子が用意してくれたもんはなんでも嬉しいわぁ」
　零につれられ、清一郎は楽しげに向かっていく。すると、いつの間にか現れた若衆の１人が清一郎の肩を叩く。
「モテるみたいだな、玄武族の兄ちゃんよ。あの巫女達見たか？」
　にやけ顔でからかう若衆が、後ろを示せば、天狼族の巫女たちが恥ずかしそうに手を振っていた。

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