中学生の僕がハジメテのオツカイをするので手伝ってくれませんか｜リアクション

中学生の僕がハジメテのオツカイをするので手伝ってくれませんか

　土に霜が降り始めたとある祝日——。

　ランチタイムを迎える前の『ミルクホール』の事務所では、オーナーの寺島康子が、アルバイトを希望して店へきた女子高生——響タルトを前に、申し訳無さそうに眉を下げていた。
　このミルクホールは先日従業員を増員したばかりで、アルバイト募集は行っていなかったのだ。説明を受けたタルトも、康子の説明を聞いて一歩遅かったか、と肩を落とすのだった。
「もう間に合ってるんですか。残念だなあ……」
　溜息交じりの声を聞いて、康子も申し訳ない気分でいっぱいである。
　が、タルトが残念がっていたのは——そもそも彼女がここでアルバイトをしたいと思ったきっかけは、『ミルクホールの三兄弟』の噂を聞きつけていたが為だ。
　何でも彼らはロシアと日本のハーフで、揃って美少年であるらしい。更にとある情報筋から、「上の双子の兄達のスキンシップが過多」「リアルにリバ」、「末弟を溺愛している」「女王様受け」「いや攻め」、「あれは『×』がひとつどころじゃない、三角関係だ！！」と看過出来ない話を聞いて、これはアルバイトをしながら密着取材するしかないと勇んできていたのだ。
　今もちょっとした美人な康子を前に、伯母がこのレベルなら兄弟はどのくらいのポテンシャルを秘めているのだろう——、と真剣に考えていたところである。
　お腐れ方面の目的が果たされなかった事が、本当に、心から、残念でならなかった。
「ごめんなさいね、また次に募集をかけた時は是非きて頂戴」
「はい、その時は宜しくお願いします！」
　ぺこんと会釈して部屋を辞去しかけたタルトは、事務所奥の更衣室から出てきた人影に気づいて足を止めた。
「あっ、武道先輩こんにちは～」
　声をかけられたタルトの同窓の先輩である志波武道は、ロッカーに荷物をしまい込みながら軽く挨拶を交わす。アルバイト希望だったという彼女の話を聞いて、その付近で制服のクロスタイを止めていた鴇波羽衣も、興味を持って二人の会話に入った。
「残念だったね」
　と同情してくれた彼女に、タルトはえへへと笑って首を横に振る。
「タイミング悪かったみたいです」
「気持ちは分かる！　この店雰囲気が良いからな。俺も最初は、旧市街のお店が困ってるなら助け合いって経験のつもりだったけど——」
「そうですね。だからお客としてお茶はして帰るつもりですので」
　接客は宜しくとお願いされて、二人は笑顔で手を振った。
「んじゃ後で、俺らがホール出た時にまたな！」
　
　こうしてタルトが居なくなると、二人は事務所での朝礼を終えて、店内へ出た。今日の武道は、羽衣と同じくホール担当だ。
「宜しくな！」と、改めて挨拶されて、羽衣は大きな目を更に大きく見開いている。
「目標を立ててきたんです」
「おっ、何々〜？」
「少しは心の余裕が出来てきたと思う。
　だから笑顔で、お客様に良い時間を過ごしてもらえるように……、今日の目標は、丁寧な接客！」
「いいねーそれ。俺も頑張るぜぃ！　ちょっとお金も貯めたいし」
　少々冗談めかされて自然な笑顔になりながら、羽衣は店内へ出てホールに向かって元気よく挨拶した。
「いらっしゃいませ！」

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