島風にノボリがパタパタとはためく、よく晴れた日曜日。
旧市街の路面店の店先を掃除していた初老の男性が、見知った少年が遠くからやってくるのを見つけて手を振っていた。
「康子ちゃんとこのミルクホールの! こんにちは、えっと——」
「イリヤです。こんにちはおじ様、いつも伯母と兄がお世話になってます」
「買い物かい?」
「はい! これを買いに行きます」
イリヤはポケットから出したスマートフォンの画面に、メモを広げた。そこには文房具を中心とした買い物のリストが書かれている。イリヤは少し前に海外から寝子島中学に編入したばかりで、入学してから改めて必要になった学用品を準備しなければならなかったのだ。
リストには伯母の康子に頼まれた自宅のレトロ風喫茶ミルクホールで使用するものも含まれているが、島に来て間もない少年がこの全てを探し出せるだろうか。
「どこで何売ってるか分かるのかい?」
心配してくれる男性に、イリヤは今度はSNSの画面を見せた。『買い物にいってきます』のイリヤの書き込みに、同窓らしきアカウントたちが反応している。
「分からなくなったら、これで学校の人に、お店の場所を教えて貰います。看板の字も読めるし、大丈夫です」
「ほー、最近は便利だねぇ。ところで今日は双子のお兄ちゃん達は居ないんだね」
「だから門限までに帰らないと、いけません」
「何時だい?」
「4時です」
「それはエリセイ兄さんが言った時間で、レナート兄さんは4時半って言ってました。康子伯母様は夕ご飯までに帰ればいいと言ってくれました」
門限が三つある事は謎だが、そのどれかに間に合えばいいのだろう。
「成る程な、まあ分かんない事があったら旧市街——いやいや、寝子島の奴なら親身になってくれるだろうし大丈夫だろう。気をつけて行ってきなさい」
「はい、行ってきます!」
嬉しそうにニッコリと微笑んで、冒険に出かけるような早足を見送った男性は、改めて掃除を始めようと店のノボリの後ろに回り——悲鳴をあげる。
サングラスにマスクにキャップという怪しすぎる出で立ちの二人組みが、ノボリの後ろに隠れていたのだ。
「お、おい——」
声をかけようとした店主に「シーッ!」と合図して、二人組の一人が自分のマスクとサングラスを剥ぐ。
「俺ですよおじさん、レナートです」
「ああレナちゃんかい。ということはそっちはエリちゃんね。肝が冷えたよ、一体どうしたのそんな格好で」
「イリヤは一人で大丈夫って言ってたんですが、俺たち可愛い弟が犯罪に巻き込まれないか心配で心配で心配でストーキングしてたんです!」
キリッと言い放たれても……な言葉に男性が呆気に取られている間に、もう片割れのエリセイが「そろそろ行かないと」と、レナートを急かした。
「それじゃ失礼します」
* * *
イリヤが外へ出て行った頃、同じ旧市街にあるミルクホールでは、康子がぼんやり考え事をしている。もう中学生なのだからと送り出してみたものの、いざ姿が見えなくなると心配で仕方がない、親心のようなものだ。
「——イリヤは大丈夫かしら。まあ大丈夫よね、男の子だもの」
うんっと自分に頷いて、康子は仕事に戻っていった。朝から早々にパソコンを抱えてきた常連客に、休日で外食を楽しむ家族客、観光客にと、ミルクホールは今日も忙しくなりそうだ。
今日はどんな1日になるのだろうか。
皆さんこんにちは、東安曇です。
今回のシナリオは、PCがはじめてのおつかいに出かけたイリヤを導いて、買い物を成功させてあげる事が目的です。サブストーリーとしてミルクホールでの行動を取ることもできます。
シナリオ内で買い物シーンに登場するPCは、『自分の働いている店や施設でイリヤに出くわし、店の紹介をしてあげる』『友人としてイリヤの買い物に付き合ってやる』ことがメインの行動になります。詳しくはサンプルをご覧下さい。
こちらは多少外れた行動を取ることは出来ますが、中学生男子が訪れないであろう施設での行動などは反映出来ない可能生が高いのでご注意ください。
同じ目的地で複数の場所が候補にあがった場合は、アクションの次第で組み合わさったり、片方を優先させたりと判定致します。
また多くのお客様にご活躍頂く為、1人で幾つものサポートをすることはご遠慮下さい。
ミルクホールのシーンに登場する場合、PCはお客様としての登場となりますが、シナリオ『MILK HALL』でアルバイトをしていたPCに限り、アルバイトとして働くことが可能です。
【お買い物メモ】
イリヤの持っているお買い物メモには以下の内容が書かれています。こちらのメモの買い物を達成させてあげるのが目的では有りますが、必ずしもここにある通りに進まなくても構いませんし、代用品の提案や他に必要なものを付け足しても問題ありません。
以下の品々についてイリヤはどんなものを買ったら良いのか分かっていなかったり、下手をすると名称だけでなんのことやらさっぱりなものすらあります。
・ラインマーカー、下敷き:緑と赤があると良いと教えてもらいました。
・修正テープ、付箋:名前だけ教えてもらいました。
・実習で使う布:調理実習で使う三角巾を作る為に必要なようです。
・電子辞書:学校でクラスメートに勧められました。
・靴:サイズアウトした為。屋外での体育の授業に使えるものが良いようです。
・ジュニパーベリー:康子に頼まれました。
・綿棒:康子に頼まれました。
・ドーナツ:康子に頼まれました。本人が食べたいだけでしょう。
【NPC】
以下のNPCにアクションをかけることができますが、PCと別の場所に登場するキャラクターと関わることは出来ません。
▼買い物に出ているキャラクター
『イリヤ』
寝子島中学3年1組所属。三兄弟の三男。素直で思ったことをストレートに述べるが、思慮深い性格です。
▼上記をこっそり追いかけているキャラクター
『エリセイ』
寝子島高校2年3組所属。三兄弟の長男。イマイチつかみどころの無い性格をしています。
『レナート』
寝子島高校2年2組所属。三兄弟の次男。面倒見のよい(?)イケメン天然(?)人たらしです。
▼ミルクホールにいるキャラクター
『寺島 康子』
ミルクホールの店主。三兄弟の伯母。明るく優しいちょっとした美人です。朝から働いていたので双子が居なくなったことには気づいていません。
『パソコンを抱えた常連客』
ミルクホールのカウンター席でパソコンの画面を熱心に見ては、時に頭を抱えている派手なロリータ服の常連客。どうやら小説を書いているようです。
実は寝子島高校1年1組所属の、大道寺 紅緒という少女で、寝子島高校の学生及び高校に関わりのあるのPCは彼女だとわかるでしょう。
死にかけた顔をしているので、声をかけてあげると良いかもしれません。彼女のする注文の内容はPL側で適当にあげてしまって構いません。