体力をつけよう　～初冬編～｜リアクション

体力をつけよう　～初冬編～

　時子が夏朝から眼を離すと、今度は赤い髪の少女と緑色の髪の少女が話しているのが見えた。少し離れたところでは、どっかで見たような女性がゆっくり泳いでいる。
「あれは……」
　時子は、そう呟きつつ様子を見る事にした。

「ん～！　たまには水泳で体力をつけるのもいいよね！」
　と、桜庭円はチラシを手にスポーツセンターへやって来た。受付でスポーツ飲料を貰うと、早速スクール水着に着替えてプールへと来た次第である。
「冬でも泳げるのが温水プールの強みよね。水泳は全身運動だから体力づくりにもってこいだし」
　その後のご飯も美味しいのよね、と神薙焔がくすっ、と笑って頷く。２人は偶然更衣室で隣同士になり、こうして一緒に体操をしていたのである。
「よっし、体幹を鍛えるぞ！　体幹！」
「気合入ってるわね、桜庭ちゃん」
　体操が終り、そんな会話をしつつ泳ごうとプールへ近づくと……先に泳いでいる人の中にどことなく見覚えのある女性が居た。痩せてはいるが、健康的な顔色をしているものの、妙に会った事があるような気がした。

「あの人……もしかして、尾棹実理さんかしら？」
「実理さん？　……わぁ、見間違えたなぁ！」
　円が実理の様子を見てそう言うと、焔は「ええ」と相槌を打って言葉を続ける。
「社会復帰のためにあれこれしてるって星ヶ丘で聞いたけど……。あれ以降話した事もなかったしそっとしてて……ううん、やっぱり、気になるから話してみようかしら？」
　悩みつつ首を傾げる焔に円はうん、と頷くと「おーい！」と声を掛けて手を振る。声を掛けられた実理はというと、最初はきょとん、としたものの、ややあってゆっくりと上がってきた。
「こんにちは。もしかして……あの時の……方ですか？」
　実理はおそるおそる問いかける。何となく察したのだろう。焔と円は頷き、改めて自己紹介。
「やっぱり、尾棹さんでしたか。あの後病院に運ばれたと聞いていたので、心配していました」
「病院でも姿が見えなかったから心配してたんだけど元気そうで良かったよ！」
　２人にそう言われ、実理は申し訳無さそうに苦笑した。「あの時は、ご迷惑おかけしました」と頭を下げると焔はその時の事を思い出す。
「迷惑？　ううん、Avenger撃てたのは面白かったわよ。ああいうココロの風邪は、真面目なヒトにはままあることよね。無事ならなによりだわ」
　彼女の言葉は、実理には意外だったらしくきょとん、としていた。円はそんな彼女に笑いかける。
「水泳で体力づくりをするの？」
「うん。まぁ、少しずつやっているんだけど……コツとかある？」
　実理の問いに円はうーん、と考える。さすがに伊達に運動系の部活で部長をしているわけではない。
「焦らない事じゃないかな？　長く泳ぐ事も大事だけど行き成りは何でも難しいし。『前の自分より長く泳ぐ』って事を繰り返せばいいんじゃないかな？」
「前の自分より……」
　実理は感心したように頷き、言葉を繰り返す。円は「自分に勝つ！　これだね」と笑い、ややあって、「ありがとう」と頷いた。