体力をつけよう　～初冬編～｜リアクション

体力をつけよう　～初冬編～

　亨はすっ、と中段へ竹刀を下げ、基本に忠実な動きを見せる。咲はそれを確かに見抜いていた。僅かな膠着が長い時間のように思えてくるのは何故だろうか。
（次で決まるか。間合いが開いたら……）
（確かに、亨君は手ごわい。だが、ずっと剣道をやってきた咲を舐めないでもらいたいっ）
　其々の思惑を抱えつつも、静寂が破られる。間合いがあき、そこで亨が動き出す。彼は初手同様上段に構えたところから踏み込み、気合と共に突きを放ったのだ。
「はあっ！」
　それを咲は自然と中段で払い受け、返し刀で胴へと強烈な一撃を放った。
　お互いに礼をし、面を取る。と、亨は実に清々しい笑顔を咲に向けた。
「受けていて心地良い剣は初めてだ。お見事です、咲さん。これなら楽しくやれますよ」
「なかなかどうして見事な出前だったよ、亨君。またやりたいものだね」
「……はいっ！」
　咲の言葉に、亨は嬉しそうな笑顔を見せた。こんなところは歳相応の少年のもので、それが咲には少しかわいらしくみえるのだった。

　ボルタリングルームでは、一馬がトラバース（横移動）の練習をしていた。本日のトレーニングにおいて、重点を置いているのはコレなのである。
　壁に組み付き、ある程度上った所で横移動を開始する一馬。いつもの、使うホールドが違うというのはやはり少しわくわくする。どこを掴み、どこに足をかけ、どう体重を移動させれば安定するのか。思考を巡らせつつも彼の体ははたからみればスムーズに移動しているように見えていた。
（選択肢が広いのは、野外で岩と向かい合うのとも近いよなぁ……）
　そう思いつつも気付いたのは、縦の動きとは身体の使い方が違うという点。ホールドの掴み方も、足の保持の仕方も変わってくる所から感心したように目を丸くする。
　体の動きの１つ１つに神経を使いながら１セット終了するとふぅ、と息をつき、タオルで汗を拭う。そして壁を見つめつつスポーツドリンクを口にした。
（さて、もう１セットやるかな）
　そう思っていると……ぴょこっ、と顔を見せる子供がいた。否、小柄な女の子である。その正体は後木真央であった。

　真央はランニングの後、ジムへと足を運んでいた。そしてベンチプレスやラットプルダウンなどを一通りやってみるも、すぐに飽きてしまった。そんな彼女を見かねて蛇那伊がここの事を教えたのである。
「うわっ、壁がカラフルなのだ！　これがボルタリングの壁なのだ？」
「ん？　やってみるのか？」
　一馬が問いかけると、真央は１つこくっ、と頷く。そして他の人がやっているのをみようみまねでチャレンジ。すると案外スムーズに動くものである。
「よっしゃ、俺もいくか」
　真央に触発されたのか、一馬がもう一度壁に挑む。いかに体重をコントロールしてトラバースするか考えつつ動けば、真央もそれを真似してみる。
「おー、一馬ちゃん先輩すごいのだ」
　真央は自然と口にし、壁に挑む一馬を見つめていた。