【実演！】

　サンマさんのファンと称する人々は数あれど、多喜 美律ほど『ガチ！』なファンには、そうそうお目にかかれないことでしょう。
　日頃から彼の動向には注目しておりますし、出くわしたなら力いっぱいに応援します。もちろん『大行進！　サンマさんファミリーズ』だって初日からバリバリとプレイ中ですし、それにサンマさんの出演するイベントなど、全てきっちりと網羅しているのです。
　そんなわけでして、ゲームキャラが実体化してあちこちに出没中、なんてこの状況。彼女にとっては、
「あっ！　あれって、サンファミの『ブリさん』じゃない！　あっちは『ダイオウイカ様』で……レアキャラの『北海 イクラ』までいるわ……！」
　大興奮、大喜び！　でありました。
「すごい、ゲームの中から飛び出してきたみたい……随分と、気合の入った宣伝イベントなのねー」
　なんて言いつつ美律が歩いておりますのは、寝子ヶ浜海岸沿い。なんでも今日は、『サンファミ』のプロモーションイベントが海岸の特設会場で行われるのだそうでして。そのステージには、主人公を務める寝子 サンマさんご本人も登場する予定があり、彼の出演予定はバッチリ把握済みな美律は、まさに会場へ向かっているところなのでした。
「……あら？」
　と、浜辺にざざんと打ち寄せる白波など横目に、一路会場へと向かう彼女……ふとビーチの真ん中に、見知ったシルエットがあることに気付きました。
　もちろん彼女には、見間違いようもありません。流線形のとんがった銀色ボディの持ち主は、
「あっ、サンマさん！　と、あれは……サンファミの、『ダツさん』？」
　他ならぬサンマさんと、それに桜庭 円＆ダツさん！　がおりました。
　出し物のリハーサルか何かかな？　と思いつつ覗いてみますと、
「うわぁ、ダツさん、帽子取っちゃダメだってば！」
「いえしかし、このままでは前が見えず不便ですから……」
「おいおい、ケンカは良くないぜ～」
　ゲームでも屈指の尖った性能をお持ちのダツさんが、口に刺さったシルクハットをひょいと取り上げ、サンマさんを見た……その瞬間に。光物に突進してしまうという本能により、円が止める間もなく、ダツさんは美しいサンマさんのボディめがけて、しゅばっ！
「ぬぉわっ、あ、危ない、サンマさーーーん！」
　サンマさんのピンチ！　遠巻きながら見守る美律も、思わず手に汗握りつつ、
「ダツさんは攻撃力に特化したキャラクター、威力だけならＵＮＲも凌ぐわ、避けて！　サンマさん！」
「なんのーっ！！」
　サンファミやり込み勢の美律は解説もバッチリ、というのはさておきサンマさん。突進してきたダツさんをがっしと受け止め、そのままぶおんと後方へ、巴投げ！
「わぁ、さっすがサンマさん♪　……って、あ、あれは！？」
　ピンチは続きます……どうやらここには、サンマさんに縁のあるキャラクターが、他にも集まって来ていたようです。
「元かぼちゃ猫団で、今はサンマさんに共感して味方になったけど事あるごとにサンマさんを狙ってる、『小ネコサンマ』に『黒猫のクロちゃん』だわー！」
　説明セリフが示す通りに、後木 真央＆小ネコサンマさん、それに御剣 刀＆黒猫のクロちゃんが、浜辺へ乱入！
「うわーっ、逃げるのだサンマさん食べられちゃうのだホネホネなのだー！？」
「あっ、クロがサンマさんをロックオンしてる……や、やばいぞ！」
　もちろん、サンマさんファミリーは基本的に、彼と一緒に戦う味方でありまして。続いて美律の視界へと現れるのは、
「風来坊という名の方向音痴、『シャケ次郎』！　サンマさんの幼馴染『マンボウくん』に……サンファミきっての人気キャラ、魔法少女『クリオーネ』も！　すごいすごい！」
　やっぱりトラブルに首を突っ込むシャケ次郎と、なんだかんだで付き合いの良い屋敷野 梢。
「ちょっとー、シーサイドアウトレットに行くはずが、何でまたトラブルに首突っ込んでるんですかー？」
「情けは人の為ならず、と言いやして。ちょっくら失礼しやす、姐さん」
「わ、わぁぁー。サンマさんが、た、食べられちゃうよぉー」
「サンマさん強いから、大丈夫よ！　たぶん」
　ヌーボーっ！　としたマンボウくんに、付き添いのお姉さん真境名 アリサ。
「あなたたち、いい加減にしなさーい！　この魔法少女クリオーネが、オシオキよッ！！」
「ひ、日差しがきつい……歩いて疲れた……帰りたい……」
　クリオーネには、寝袋をひっかぶって透明化したエスカルゴ・臼居が付いております、見えませんけれど。
「ダツさん×サンマさん……どぅるっふふふ♪」
「もう、好きにしてくれ……！」
　魚将さんに、いささか疲れたお顔の仇満 帯人も……ビーチには今やサンマさんとそのファミリーたちが入り乱れ、大乱闘の様相を呈しております。と言っても美律には、楽しい仲間たちのじゃれあいにしか見えませんでしたけれど。
　何せ今日は、プロモーションイベントがあるのでして。
「すごい演出だわ！　これはイベントにも、期待が持てそうね♪」
　と言ったところで、ぴんぽんぱんぽーん。ごく近くの特設会場から、間もなくのイベント開始を知らせる、アナウンスが届きました。



「つまりこの『大行進！　サンマさんファミリーズ』は、よりサンマさんの魅力を際立たせながら、ファンの皆さまへと新たな楽しみを提供するもので……」
　スピーカーから響く声は、どうやらゲームの開発者のもののようです。
　イベント会場である浜辺の特設ステージの壇上には、ゲームメーカーの社員さんたちや、コスプレしたキャンペーンガールの方々などがおりまして。さらには、自称国籍不明の謎のハイチ人拳闘士……なんてビミョーな設定がプレイヤーには大ウケの『サンマ・ルーク』とか、サンマさんの彼女と称してはばからないポジティブガールな『イカちゃん』ですとか、人気キャラの着ぐるみなども華を添えています。
　そしてその中には、アルバイト中でしょうか？　八神 修の姿もありました。
「それでは実際に、ゲームをプレイしてみましょうか！　八神さん、お願いしまーす」
「分かりました。まずは『サンマガチャ』を回して、頼れる仲間をゲットしましょう」
　ちょっとした縁がありまして、今回のイベントにスタッフとして参加している修は、手にしたスマートフォンを操作して、大きなスクリーンに投影したゲーム画面を観客へと披露。
　現在は一回無料ガチャのボタンを、修がぺもっとタップした……その、瞬間！　でありました。
　ずごごごご……！　突如としてステージ上へ鳴り響く地鳴りに、もくもくと立ち昇るスモーク！
「！？　何だ？」
　ざわめき始める観客たち……予定には無い演出に、修はスタッフを振り返るも、いずれも戸惑い顔。どうやら、予期せぬハプニングのようです。
（この感じは……神魂か？）
　と、クールな修が経験から即座にそう判断したところで、
「にゃーっはっはっはっは！！」
　……なんかこう、やけに可愛らしい声の高笑いが、煙の中から聞こえてきました。
　すうっとスモークが晴れて、姿を現したのは……頭にすぽっとかぼちゃをかぶった、二足歩行の猫。サンマさんファミリーズの仇敵、かぼちゃ猫団！
「にゃっふっふ。ミーの名前は、カボキャットＡ（エース）！　お前たちをかぼちゃにして、食べてやるのにゃー！！」
（あれは……後で大々的にお披露目されるはずだった、『☆☆☆ＨＮＲ　カボキャットＡ』じゃないか）
　そう、それは今日のイベントに用意され、後ほど発表される予定だったはずのサプライズ。ゲーム中では中ボスとして立ちはだかる強敵が、戦いの末にサンマさんと友情を分かち合い、ついには仲間に！　という劇的な展開……つまりは新キャラクターの実装で、話題性を作ろう！　ということなのでした。
　それを待たずして実体化してしまったカボキャットＡは、ぶわっ！　と両手を振り上げまして、
「どうやらここには、あのサンマもいないようにゃ。ジャマされることにゃくお前たちをかぼちゃにしてやれるのにゃ、くらえにゃーっ！！」
　頭上を仰いだその視線を思わず観客たちが追えば、ふわふわ……ゆっくりと降りてくる、無数の風船。かぼちゃ風船！　『サンファミ』は落ち物パズル風ゲームでして、敵の降らせるかぼちゃ風船攻撃を割ることで、味方が反撃を行うといった流れなのです。
（！　そうだ……この手がある！）
　修は、とっさの閃き。戸惑う観客たちへと、こう呼びかけました。
「このままでは、かぼちゃ猫団に負けてしまう……みんな、風船を割るんだ！」
　イベントだと思わせたまま、どうにかこの場を乗り切るしかない！　修が率先して、シャープペンシルの先などでぱん、ぱぱん！　と風船を割って見せると、観客たちもおずおずとながら、何かしら先の尖ったものを取り出して、ぱぱん、ぱーん！　割り始めました。
「にゃっはっはー、無駄な抵抗はやめるのにゃ！　そーれ、どんどん行くにゃー！」
（く、数が多いぞ……全て割れるか？）
　どうやらイベントの一環だと思ってくれたらしく、楽しそうに風船を割っていく観客たちと共に、修もシャーペンを突き出しますけれど……ゆらゆら、降りてくる風船の数は、あまりに多数！
　このままでは、みんながかぼちゃにされてしまいます……大ピンチ！