濡羽色の空と踊れば｜リアクション

濡羽色の空と踊れば

【飛んで火にいる秋の鳥】

　山田勘三郎はひとまず部室棟の物陰に捕まえたカラスを置いてから、再びカラスに戻って、部室棟周辺を飛んでいた。
（ん？　なんだかカラスの動きが変わったぞ？）
　何やら数多くのカラスたちが一斉に部室棟の建物内部へ向かって飛んで姿が見受けられるようになった。
（こりゃいったいどういうこと……むむ？）
　と、次の瞬間、また勘三郎の視界にあるものが飛び込んできた。

（あれは――フ・ラ・イ・ド・チ・キ・ンだ！）

　何故か何人かの女子生徒がフライドチキンを持って部室棟にカラスたちを引き寄せていたのだった。
（可愛い女の子にフライドチキン！　行くしかねぇよな！）
　勘三郎のテンションはＭＡＸになった。
　やはりどう考えても罠だったが、そこは《はらぺこガラス》の副作用でやや仕方がない部分があるのだった。空腹は人の思考力を（以下略

　勘三郎はおびき寄せられるままに部室棟に入ると、山盛りのチキンに目を奪われた。
『あのこれはどう考えても罠だと思うんですが』
　そのとき部室棟に何故か一羽だけ言葉の通じるカラスがいたが、勘三郎は気にもとめなかった。

（うおー！　チキンうめー！　ん？　こら、てめぇ、それは俺のチキンだ、横取りすんな！　あ、おい、やめろ、羽をむしるんじゃねぇ！　痛い、やめろ、お願いやめて――アーーーーーーーーッ！）

　勘三郎の絹を裂くような悲鳴が響き渡ったのと、さきほどの言葉の通じるカラスがあきれた様子で外へ飛んでいったのは、ほぼ同時の出来事だった。