濡羽色の空と踊れば｜リアクション

濡羽色の空と踊れば

【カラスとチキンとマヨと鋼糸】

　常闇月は順調に作戦を遂行していた。
　具体的に何をしていたかと言うと、フライドチキン（こってりマヨネーズつき）を両手に持って、カラスを部室棟の中におびき寄せるためにあちこち走りまわっていた。
（やはりちょっと恥ずかしいですね……）
　フライドチキンを両手に持った女子高生がカラスに追い掛け回されている（ように見える）という構図は、実に滑稽でフツウじゃないと月は思う。
（ですが、もう少しの辛抱です。一度、部室棟の中に誘い込んでさえしまえば――）
「常闇さん、そっちにカラスが行ったわ！　逃がさないで！」
「――わかりました！」
　そうなってしまえば、そこからはもう月の領域だった。
　月はフライドチキンをカラスに向かって投げつけると、次の瞬間にはもう自慢の鋼糸が仕込まれたグローブを装着している。

「――逃がしはしませんっ！」

　刹那、鈍色の鋼糸が縦横無尽に閃く。
　カラスはまるで見えない壁に行く手を阻まれるように動きを止めて、その場に落下する。
「わあっ☆　常闇さんスゴイ☆」
「月ちゃんすげーなのだ！」
　椿美咲紀と後木真央が賞賛の声を送ってくれる。
「いえ、私にはこれくらいしかできませんから」
　月は特に自慢するでもなくふるふると首を振るう。
　別に謙遜でも卑下でもなく、彼女は自分を欠陥品だと思い込んでいるふしがあった。
　だが、だからこそ、彼女は彼女なりに自分のできることを精一杯にやるのである。
　そうして月は美咲紀と真央と協力して、カラスをどんどんと部室棟へ招き入れていく。
「……？」
　と、そのとき、月はガムテープでぐるぐる巻きにされた袋詰めのカラスをいくつも発見した。
「私達のほかにもカラスと戦っている人がいるようですね……」
　月はその袋も部室棟に持っていくことにした。
　このままでも長くはないだろうが、確実にとどめを刺すためにそうすることにした。
　あるいは早く楽にしてやりたいという自分の甘さゆえの行動なのかもしれない。
「あいたたたっ！　こらっ、真央ちゃんの頭はフライドチキンじゃないのだっ！」
「後木さん、今助けますから動かないでください」
「おお、月ちゃん、ありがとうなのだっ！」
　月は適宜自らの身体能力を活かして、カラスを素手で、鋼糸で、捕まえて、その動きを封じていく。
　それから程なくして、
「よしっ☆　頃合いね、月ちゃん、真央ちゃん、非常口から脱出するよっ☆　窓の閉め忘れはないようにね！」
「わかったのだ！」
「了解です」
　美咲紀の指示に従い、月は二人を追って非常口の方へ駈け出した。

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