濡羽色の空と踊れば｜リアクション

濡羽色の空と踊れば

【『混ぜるなキケン』プロジェクト】

　八神修は時計の針を何度も見つめ直しながら、後木真央、椿美咲紀、常闇月の三名が無事に帰還してくるのを待った。
（……少し遅れているな。みんな無事だろうか？）
　バタンッと扉が開く音がして、三人が裏口から出てきたのは、まさにそのときだった。
「シュー君、ただいまっ！」
「仕掛けと窓締め完了しました」
「真央ちゃんカラスに突かれながらも頑張ったのだ！」
　修は、三人の報告を聞いて、にっと笑って頷いた。
「……これで上手くいくでしょうか？」
「ああ、よくやってくれた。あとは俺に任せてくれ」
　月の問いにそう応じるや否や、修は全ての出入り口がしっかりと閉ざされているのを確認してから、部室棟の外周を窓の中を覗きながら走り始めた。
「思ったより大勢いるな。多少手荒なやり方だが――悪くおもうなっ！」
　次の瞬間には修は部室棟の窓ガラスの向こう――タライに満たされた酸性クリーナー液の上に浮かんだカビ取り剤の容器をはっきりと視認すると、自身の『ろっこん』を発動させた。

「分・解ッ！」

　刹那、カビ取り剤の容器がバラバラと音を立てて弾け、中の塩素系液体がタライを満たす酸性液と混じりあう。
　すると、

　な・ん・と・い・う・こ・と・で・し・ょ・う。

　二つの液体が化学反応を起こして、有毒な塩素ガスが発生し、部室棟内を満たしていくではありませんか。

「……何か今、微妙にイラッと来るナレーションが聞こえた気がするな」
　修は「錯覚か？」と首を傾げつつ、そのまま次のタライ、またその次のタライへと分解作業を続けていく。
　やがて、大量の塩素ガスが発生して、部室棟内を満たしはじめると、窓の向こうでカラスが苦しみ、暴れ出す様子が見られるようになる。
　中には必死に窓ガラスを叩き割って部室棟内へ脱出しようとするカラスもいて、
「やはりそう来たか、美咲紀！　殺虫スプレーを！」
「うんっ☆」
　ガシャン、と決死の体当たりで窓ガラスを割ったカラスに対し、修はそれも想定済みと言わぬばかりに冷静に対処する。
　飛びそうとするカラスに殺虫スプレーを噴射して押し返すと、そこで美咲紀がすぐさまガムテープでガラスの割れ目を塞ぐ。
　そうしているとだんだんとガスがまわってきたのか、カラスが一羽、また一羽と床に落ちて倒れていく。
　やがてそれらは黒い粒子となって弾けて、消失していき、ゆっくりとカラスの数が減っていく。
　そんな様子をどこか感心したように見守りながら、
「……すごい。部室棟を使った大胆かつ確実な手ですね……」
　と、月は呟いた。
　そして、

「よし、静かになったな。何羽か撃ち漏らしもあるかもしれんが、残りはほかのみんながなんとかしてくれているだろう。あとは後片付けをするぞ」

「うん☆」
「はい」
「わかったのだ！」

　寝子祭の裏で起きたカラス事件は裏側に隠されたまま静かに事態の収束を迎えようとしていた。

このページにイラストを設定する