濡羽色の空と踊れば｜リアクション

濡羽色の空と踊れば

【分裂カラスはフライドチキンの夢を見るか】

　八神修は大量の買い物袋を両手に提げて、満を持して部室棟へと戻ってきていた。
「待たせたな。美咲紀、首尾はどうだ？」
「あ、シューくんだ！　うん、準備は万端だよ☆」
　修の問いに、椿美咲紀は満面の笑みを浮かべてＶサインをした。すでに彼女は勝利を確信している。フライドチキンの尊い犠牲を無駄にはできないからだろう。
「よし。常闇、真央、そっちは？」
　修は頷き、今度は美咲紀のすぐそばに控えていた常闇月と後木真央に問いかけた。
「ええ、大丈夫です」
「ばっちぐーなのだ！」
　月が頷き、真央がぐっと親指を立てた。
　三人の自信に満ちた表情に、修も満足そうに微笑む。
「よし、じゃあ最後の仕上げだ。部室棟の床に置いたタライに、この酸性のクリーナー液を注ぎ、その上にこの塩素系のカビとり液を容器ごと浮かべてくれ」
　修は買い物袋からクリーナー液とカビとり液を取り出して三人に手渡していく。
「頼んだぞ。くれぐれもカビとり液の容器は開けないようにな」
「らじゃっ！」
「わかりました」
「りょーかいなのだっ！」
　修の鶴の一声に、三人の女子がぱたぱたと部室棟の中に駆けていった。
「ふぅっ……。これでなんとかなりそうだな……」
　彼女らの背中を見送ると、修は入口の扉を固く閉ざして、ふぅと大きく息を吐いた。
「いや、まだ安心するのは早いな。仕上げは俺のろっこんにかかってるんだ。せっかくここまであいつらに手伝ってもらったんだ。絶対に成功させないと」
　修は右手をぐっと握ったり開いたりして、仕上げのイメージを脳内で固めていく。作戦はそれなりに危険も伴う。失敗はできない。
　そうしているうちに三人が手筈を整えて戻ってくる。
「シューくん、終わったよ☆」
「こちらも配置完了です」
「準備万端整ったのだ！」
　三人が口々に言って、総統の次の指令を待っている。
　期待の込められた眼差しに、
（ますます失敗できないな）
　と、修は小さく苦笑する。
「よし、それじゃあ作戦開始だ。みんなでできるだけ大勢のカラスを部室棟の中におびき寄せるんだ！」

『了解！』

　かくして、八神修の大仕掛けがゆっくりと動きだす。