寝子祭前日談　～準備はどうだい？～｜リアクション

寝子祭前日談　～準備はどうだい？～

破：楽しむための準備をしよう（模擬店等編）

　サキリ・デイジーカッターの中学時代は、グレていた為かちょっと殺伐としている。色々と危ない橋を渡るような生活をしていた為、彼は文化祭を楽しむという事がなかったそうだ。
（大丈夫、かな）
　殺意をうっすらと滲ませる、鋭い眼。作り笑いはできても自然な笑顔が苦手な顔。そして、喧嘩や刃物の扱いには自信があっても、それ以外はどうも苦手という事で、彼はとても緊張しているようだった。
　彼の所属するクラスは、宇宙と魔法使いをテーマとした喫茶店をする。だから、軽食やお菓子を作ったりお茶を入れたりといった技術の練習は重ねてきた。けれど何か足りないような気がして、不安で仕方がなかった。
（もうすぐ本番なんだよな。……上手く接客できるかなぁ）
　悶々と悩みながら歩いていたサキリだったが、ばったりと茶道部の顧問である樋口弥生と出くわす。
「あら、サキリ君。元気がないようだけれど、大丈夫？」
「……先生、あの……よかったら、お店に出す軽食、試食してくれないかな？」

　場所を家庭科室に移し、お店で提供予定のパンケーキを作るサキリ。その様子を、弥生は穏やかな笑顔で見つめている。
「手際がいいわね」
　そう言われ、サキリはどきっ、とする。ほめられるとは思っていなかったのだ。彼は少し嬉しくなりながらも、気を引き締めて調理を進めた。
　程なく完成し、弥生の前に出そうとした時。彼女からこんな提案が。
「よかったら、接客するときのように出してみて」
　彼女は此処へ来る途中で、サキリから悩みを打ち明けられていた。それ故に、らしい。
「は、はいっ」
　弥生の言葉にサキリは緊張気味に頷く。そしてトレーに皿を載せ、静かに接客。料理の名前を言って注文したものかの確認をし、そっとテーブルへ。「ごゆっくりどうぞ」と軽く一礼したところで弥生が頷いた。
「心配する事ないわよ。自然な笑顔で対応しているわ」
「えっ……？」
　思いがけない言葉に、サキリは目が丸くなる。弥生はぽん、と彼の肩を叩いて微笑んだ。
「そんなに緊張する事はないわ。クラスの友達もいることだし。しいて言うなら、もう少し肩の力を抜く事かしらね」
　サキリはなんだか胸の中がほんわりと暖かくなり、小さく微笑んだ。
　その時、家庭科室の戸が開く。現れたのは、御剣刀だった。

　少し時間をさかのぼる。刀はクラスで行う模擬店の準備を行っていた。彼が所属するクラスでは二面喫茶（ごく普通の喫茶スペースとホラーチックな喫茶スペース）をする事になり、教室を二分するように調理場を作るところから始まった。
（結構、暗くなるなこれ……）
　ホラー喫茶にする場所は、暗めのカーテンを使用する。その付け替え作業をしていたのだが、予想以上に光が遮断されて見えづらい。だが、照明を何か使えば食事を取るには問題はないだろう。
「もう一方は、明るい印象の方がいいよな……」
　普通の喫茶スペースには、生地もやや薄めで明るい色をチョイス。花や絵も飾れば街角にあってもおかしくないすてきな喫茶店の完成だ。
　そして当日使用する紙コップや紙皿の準備を整えているうちに、刀はある事を思いつく。最近よく街で見かける黒板タイプの看板を使ったら雰囲気が出るのではないか、と。
　用意できないかと相談したらクラスメイトの中に数名同じ事を考えた者がいたらしく、既に購入済みだった。後は当日のおすすめを書くだけだ。

「えーっと、パフェとかがあるんだったらグラスか？　だったら洗い物用のタライとかいるよな……」
　調理場の準備に戻った刀がメモを片手に準備を整えていると、ふと、食べ物の管理について気になった。
（やっぱり冷蔵庫とか使わないと危ないよな。アイスは溶けるし……）
　そこで担任である島岡雪乃に相談をしたところ寝子祭関連の食べ物ならば家庭科室の冷蔵庫を借りる事が出来る事を教えてもらった。そこで冷蔵庫がどんなものか確認するべく家庭科室へ来たのである。