寝子祭前日談　～準備はどうだい？～｜リアクション

寝子祭前日談　～準備はどうだい？～

　刀はサキリと弥生に挨拶をし、パンケーキを見た。焼きたてのパンケーキをサキリ自身も試食していたのだ。
「中々美味そうだな」
「よかったら食べてみる？　クラスで出す食べ物の試作なんだ」
　いい匂いだ、と笑う刀に、サキリが進める。じゃあ１口、と口にした刀は僅かに微笑んだ。口の中に広がる柔らかな味は、どこか心を落ち着かせる。
「美味い」
「本当？」
　刀が素直にそう言えば、サキリの顔色がぱっ、と明るくなる。そんな２人の様子に弥生もまた表情を明るくする。
「サキリ君、もっと自信もっていいわよ」
「はいっ」
　サキリは、力強く頷いた。

「うーん、形から入るとこう、かなぁ」
　　シーサイドタウン・某所。維都月茉菜はアジア系のお洋服が揃う雑貨店へ足を踏み入れていた。彼女が所属する射撃部は新聞部と手を組んでゲームイベントを主催する。彼女はそこで占い師の役をやるべく衣装を探しにきたのだ。
　あれでもない、これでもないと探しているうちに暗めの赤が美しいローブと入り口用にとアジアンテイストな柄の布、服をいくつか購入した。財布には厳しいものの全てはイベントを成功させるためである。
　お店の人が「寝子祭の準備でしょ？　ちょっとおまけしとくよ」と言って幾らか負担は減ったもののそれでも辛いものは辛い。だが、茉菜の顔に後悔の文字は無かった。
「普段のコーディネートじゃ、まず着れないね。でも欲しい雰囲気はいかにも怪しいって感じだし、コレでいい感じ！」
　晴れやかな笑顔のまま、足取り軽く歩く茉菜。そのまま顔見知りがいるコンビニでダンボールをもらい、自分が作った『だんぼーるはうす』の在庫も合わせてどうにかこうにか寝子高へ向かうのだった。
　その途中でバテそうになるも、通りかかった後木真央と羽生碧南に手伝ってもらって、どうにか運ぶ事が出来たそうな……。
「ありがとう、真央ちゃんと碧南ちゃんには感謝しても仕切れないよぉ～」

　そんな真央だが、実は修程ではないにしろ中々ハードスケジュールだった。彼女は陸上部でのスポーツ喫茶も手伝うべく双方の買出しを行っていたのだ。
「えーっと、買い出し混ぜるな危険なのだ。陸上部用は茶色猫巾着、新聞部用は黒猫巾着に資金を入れて、買い出しバックも茶色と黒に分けて混ざらないようにしなければなのだ～」
　という具合に小さな身体であれこれ買い物を行い、さすがに１度では無理なので同じ部活の友達の手を借りたり往復したりしていた。また双方の設営にも携わるという力の入れようで心配する者もいた。
「大丈夫なのだ。真央ちゃんは柔じゃないのだっ！　でも、心配してくれてありがとうなのだ」
　真央はにゃふっ、と胸を張って笑顔を見せる。それでも感謝の気持ちも忘れない。他にもやりたい事が一杯あるのか、真央は興奮した子猫のようにあちこちくるくると回って仕事に当たっていた。
　その途中でダンボールや荷物を運ぶ茉菜と出会い、碧南と共にお手伝いして学校へ戻ってくる。一度射撃部と新聞部のイベント会場まで来ると、真央は少し離れてちょっと休憩。お茶を飲みながら今日のスケジュールを確認する。
（次は、ライスバーガーに使う整形用の型作りと、商品の試食なのだ？　材料は家庭科室に準備済みなのだ）
　真央は元気に家庭科室へと駆け出す。今日はやる事が一杯ある。のんびりしている暇はないのだ。

　一方その頃。射撃部と新聞部の合同イベント会場では着々と準備が整っていた。花の賢者を演じる事になっていた椿美咲紀は自宅から花の鉢植えを運んだり、飾ったりと慌しかった為かちょっとお疲れモードである。
　プラスチックの植木鉢に入れて持ってきた花々を寄せ上風にして飾れば、小さな花園が出来上がる。その完成度に満足感を覚えながら額の汗を拭う美咲紀。