寝子祭前日談　～準備はどうだい？～｜リアクション

寝子祭前日談　～準備はどうだい？～

（確かに、壁に花の絵とか描きましたが……、本物だって欲しくなるじゃないですかぁ！）
　元々花が大好きな彼女としては、譲れない部分もあった。因みにこの花々の手入れをするべく、今宵は仲間たちと共にここに泊まる予定である。
　美咲紀が少し休憩しようとお茶を飲んでいると、別の場所からポニーテールの少女と背の高い……どう見ても侍のコスプレっぽい男性が姿を現す。
「ふぅ……こんな感じですかね？」
　そう言ったのは魔法使いの部屋を作っていた日々野結衣香。そして、傍らで肯いた男性は、彼女のろっこん『武士召還』（発動条件：時代劇のテーマを口笛で吹く）によって召還された戦国時代の武士である。
　魔法使い役である彼女は「どうせなら日本史が大好きな外国の魔法使いに……！」と考え、あれこれと部屋をデコレーションしていたのだ。

～結衣香のデコレーション～
１：パーティションにこげ茶色の壁紙を貼りつける。
２：英語の先生から貰った英字新聞と、地理の先生から貰った世界地図、インターネットで見つけた素材（無料）の魔方陣を貼り付ける。

「次はローブですねっ！　ござるさん、お手伝い、有難うございます」
　彼女は傍らの武士に礼を述べると美咲紀に家庭科室へ行くことを告げる。目的はミシン。部屋作りの次は魔法使いのローブ作りだ。文芸部も掛け持ちしている彼女は、そっちでの出し物でも使えるよう、落ち着いたモスグリーンの生地で作る事にしていた。

　休憩を終えた真央は家庭科室へやってきた。陸上部の模擬店で出すメニューの試食及び、クッキー製作のためである。
　今回はクッキングペーパーでシューズと鉛筆の型を作り、輪切りにしたアイスボックスクッキーの上にココアパウダーをバッと振ってから焼く『ステンシルクッキー』にチャレンジだ。
（うーん、２００食は見込んだほうが良いのかなぁ……？　陸上部はランニングシューズ、新聞部は鉛筆が良さそうなのだ？）
　手を動かしつつも考える真央。結局作れるだけ作る事にして愛らしいステンシルクッキーが出来上がる冷めたところでミニ袋に入れてカラータイでしめておく。
「喫茶店の方のメニューも手際よく出来たのだ。ちょっと誰かに試食してもらうのだ～」
　真央はるんるんと辺りを見渡し、見知った顔を見つけて顔をほころばせた。

　サキリと刀、弥生が少し話していると、いつの間にか家庭科室はにぎやかになっていた。真央がスポーツ喫茶で作る軽食の試食を作っていたり、少しはなれたところで結衣香がミシンを丁寧に掛けてなにか作っていたりしている。
「丁度いいトコにいたのだー。よかったら試食してみるのだ？」
「いいのですか？　わぁ、とてもいい匂いですねぇ……」
　真央が結衣香に声をかければ、彼女はうっとりとライスバーガーの香りに瞳を細める。彼女は刀たちにも気づき、出来立てのライスバーガーを手に手招きしていた。
「刀ちゃんたちもどうなのだ？　ほかにしらたきパスタもあるのだ」
「いいのか？　ちょっと食べてみたいな」
　興味を持ったサキリがそう言えば、真央は笑顔で「サキリちゃんも食べるのだ！」とうなづく。そうすれば他の人たちも試食を持ってきてくれて、皆で試食会に。
「こういうのって楽しいのよね」
　弥生がくすり、と笑えば、皆で思わず笑いあう。そうこうしているうちにいい時間となり、刀は当初の目的を果たすべく席をはずす。
　刀は冷蔵庫を確認し、使用に関しての説明を委員から受けた。これで食べ物の保管に関しても大丈夫だろう。
「こんなもんかな……」
　程なくして準備がある程度終わる。額の汗を拭って一息つく刀が廊下から教室をみていると、八神修とすれ違った。
「大変そうだな……」
　そういえば別のところでも忙しそうにしていたな、と思いながら刀は後片付けを始めるのだった。