寝子祭前日談　～準備はどうだい？～｜リアクション

寝子祭前日談　～準備はどうだい？～

「わぁ、綺麗ですねっ」
「ありがとう、ございます」
　杏奈は照れたように笑い、花へも「よかった、ね」と声をかける。その様子から、彼女がどれだけ心をかけて育てていたか、解る気がした。
「先輩、１ついい？」
「……？」
　碧南の声に、杏奈は不思議そうなまなざしを向ける。僅かな怯えが混じっているような気がしたが、碧南はつとめて明るい声で言った。
「素敵な人以外にはこのお花は見えないから、とんでもない奴に買われる心配ないわよ。だって、このお花にはみんなの心が一杯注がれて、こんなに綺麗に花開いてるんだもの」
　そう言われ、杏奈は目を丸くする。静かに頬を赤くし、漸く「本当、です、か？」と声を搾り出す。碧南は頷いた。
「このお花を買って行く人はそれに共感してくれてる筈。だから、きっと大切にしてくれるよ」
「！　は、はいっ」
　杏奈は少し恥ずかしそうに、それでいて嬉しさを滲ませた笑顔で頷いた。
　そこへ杏奈を呼ぶ声がする。彼女は返事を返すと碧南と目を合わせた。
「ありがとう、碧南、さん。わっ、私……自信が持てました！」
「その意気だよっ」
　杏奈はぺこっ、と頭を下げて入り口のほうへ。碧南もまたポスターの追加を貰うべく実行委員のアジトへと向かうのだった。

「此処は、花の鉢植えなどを売るみたいだな」
「実に見事でござる」
　　響也と零がそう言いながら花の様子などをみていた。杏奈は実行委員の２人に挨拶をすると緊張気味ではあったが「お仕事、ご苦労様、です」と一礼する。
「あちこち回って準備進歩などを聞いていたけど、皆色々と考えているんだな……」
　そう言いながら響也が辺りを見渡せば、秋から冬にかけて咲く花のプランターなどが用意されているだけではなく、ガーデニングに必要な物の見本やアイテムの販売も行うらしい。
　今までチェックした模擬店の様子も気になったのか、杏奈が（勇気を出して）問いかければ、零が色々と話してくれた。
「射撃部と新聞部が共同で出すイベントは、なかなか面白そうでござった。陸上部や文芸部の方も準備はよさそうである」
　彼が回った模擬店の事を思い出しつつそう言えば、杏奈は楽しそうに微笑む。
「当日が、楽しみに……な、なってきました」
「前夜祭も、本祭も、思いっきり楽しみたい。だから、お互いがんばろう」
　響也はそういうと、零を伴って後にする。杏奈は笑顔で一礼し、見送るのだった。

　実行委員会での会議の後、部活動での出し物関連で動いていた八神修は小休止に、とコーヒーを飲んでいた。彼は生徒会役員としての仕事もあるので今日はとても忙しく走り回っていたので一息つきたかったのだ。
　因みに元々体力に自信がない修であったが、こつこつ鍛えているだけあってだいぶマシになっている。
（……鍛えた甲斐があったな）
　その事を急ぎながら感じる修は体育館でがんばる部活のメンバーに宿泊の許可が下りたことを連絡する。そして、進歩状況を聞いた上で不足資材の発注も手早く行った。
　そうしている内に、委員会のメンバーから連絡を受けた修は「また後で来るよ」と言い残してその場を後にした。
　途中、生徒会室に寄って状況を確認した修は、アジトへ向かう途中に由貴奈とばったり出くわした。彼女は修の目を見てぽつり、と呟く。
「無理、してない？」
「無理しない程度には。ちゃんと食事も取っていますよ」
　修はそう笑うも、由貴奈は僅かに首を振る。
「アジトに向かうんでしょ？　もう少し休んで。うちらもそうするつもりだったし」
　そう言った傍から、スタンプラリー関係で学校中をまわっていた優菜も姿を現す。なれない作業をこなしていたため疲れが見えるも、テンションは高い。
「休む事も、大事です。そうですよね？」
　修は参った、という顔になり素直に２人の先輩の言葉を聞く事にした。

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