ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団｜リアクション

ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団

【魂】

　浜辺。少女が夕陽と波間へ向かって投げかける歌は、内に息づく想いの全てを詩へと塗り込めたように、しっとりと、重く。
　管弦楽器たちに、ひとつだけ異質なギターから迸る、あふれ出しそうな感情を楽器に押し込め奏でるような……熱を帯びながらもゆっくりとした音色が、少女の喉から絞り出される重厚なロートーンを裏打ちし、支えます。

♪『落陽』

作詞・作曲・歌　黒依アリーセ
演奏　ユメギワ空想楽団

……夕陽が落ちる　海の向こうへ　　　　　
影と景色が　溶け合って行く　　　　　

　　　　　フツウに疲れた　アナタの背中
　　　　　背負った罪が　赤く滲んだ

声を出さずに　アナタは笑う　　　　　
隠した涙が　溢れぬように　　　　　

　　　　　声を出さずに　行けと手を振る
　　　　　隠した弱さが　見えないように

手を伸ばす　たとえそれが　愚かだとしても
手を握る　どれだけ罪に　塗れようとも

アナタの居ない　フツウの日々は　　　　　　　
きっと心が　冷たくなっていく　　　　　　　

　　　　　　　アナタを助けず　生き延びても
　　　　　　　きっと心が　緩やかに死ぬから

耳を塞ぐ　アナタの嘘が　聞こえぬように

目を閉じる　アナタの心が　見えるように

抱き締める　アナタの嘘を　融かすように

抱き締める　アナタの心に　触れるように

消えぬ罪も　二人で背負えば　　　　　　　　　

　　　　　　　　　きっと少しは　軽くなるから

落ちる夕陽を　包み込んで
暗い海は　静かに歌う……

「……残念だけど。やっぱりボツね、この歌は」
　ため息混じりに、アリーセはつぶやきます。
　近く、寝子祭のために書き上げた楽曲でした。彼女の作る他のどの曲とも同じように、彼女の持つ才と情熱の全てを塗り込めたような、渾身のスコアです。
（でも、お祭りには少し、重すぎるもの）
　いささかの未練に胸を浸しながら、そう断じました。
　そうでありながらも……アリーセの心には、どこか、救われたような思いもありました。
（……歌うことは無いと、思っていたけれど）
　後ろを、振り返ります。
　慌ただしく撤収作業を進める、白いスーツの楽団員たち……彼らに対して、戸惑いは当然湧きました。何しろ先の曲は書き上げたばかりで、所属する軽音楽部の部員たちの他には、知る者も無いはずだったのです。
　それを彼らは、何故だか完璧に弾きこなし、思わず口を開いたアリーセの歌を、存分に引き立ててくれました。
（不思議ね……でも）
　寝子島で起こりうる様々な事象に、ひとつひとつ疑問を抱いて突き詰めていたら、キリが無いのも確かです。アリーセにもそれは分かっています。
　それに、何より。
「え？　あの……」
　すっかり片づけを終えたらしく、立ち去っていく楽団員たち……その中のひとり、先ほどに巧みなギターを奏でていた、アリーセとは年の頃も同じくらいの白いスーツの少年楽団員が、どこか熱に浮かされたような瞳で彼女を見て、す、と右手を差し出したのです。
「握手……ということかしら」
　こくりとうなずいた少年の手を、アリーセが躊躇いがちに握れば、ぱあっと嬉しそうな笑顔。ぺこりと大きく一礼してから、ギターケースを背負い、少年は仲間のもとへ駆けていきました。
　歌われるはずの無かった歌が、あんな笑顔を生み出すことができたのなら。
「…………ありがとう」
　アリーセは、少年と彼ら楽団員たちの背中へ、静かに頭を下げながらに伝えました。

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