ふわりふる真珠、月の都の異邦人｜リアクション

ふわりふる真珠、月の都の異邦人

　そう思いながら真珠をさがすも、なかなか見つからない。けれども、月は焦らず、ゆったりとした気持ちでいた。
（真珠を彼女にあげたら喜んでくれるだろうか。そうだ、そのままよりもアクセサリーにしたほうがいいだろう。デザインは……）
　どうやら、いつもお世話になっているメイドに真珠をプレゼントしたいらしい。月は相手の事を思いながら、イメージを膨らませている。
　既に真珠を手にした後の事を考えていると、それがよかったのだろう。直径が１．５ｃｍほどのクリーム色の真珠が２つ手の中に転がった。
「！　見付けた……！！　こんなにも愛らしい物なんだなぁ」
　柔らかな色合いに思わず笑みがこぼれる。この調子で見つかるといいな、と月は真珠探しをしながら庭園を行くのであった。

　お茶会を楽しんだ後、武道は透に庭園を案内してもらっていた。サザンカに似た白い花は実に綺麗で、思わず雪のようだ、と武道は落ちてきた花びらを手に笑う。
　散歩の途中で白虎族がまたたびに弱い事を話題にすると、透はくすくすと笑った。
「特に男性がまたたびに酔ってしまいやすい傾向にありますね。成人間近の銀穣には刺激が強かったのか、先日はあのような失態をお見せしてしまったようで、本人も物凄く反省しておりました」
「あの酔い方はほんとうにネコだったねぇ～。でも、色々解って楽しかったよ」
　武道はにっこりして答えながらも少しずつ表情を引き締める。透が僅かに首を傾げるが、武道の表情は厳しいままである。
「次戦ったら、皆能力がばれてる分さらに厳しいだろなぁ」
「でしょうね」
「それでも……」
　何気ない言葉に、透が相槌を打つ。武道は何かを振り切るような意志の強さをもって、顔を上げて口を開く。
「俺達も、『フツウ』を守る為、無理も無茶もしなきゃなんないからね」
　その言葉に透は「ふふっ」と優しい笑いを漏らす。武道はその声に釣られてわらいながら「ナーンテネ☆　お花、綺麗だネ☆」なんてごまかそうとするが、透はくすり、と笑って武道に微笑む。
「貴方様の本分は、この国の騎兵士に似ておるようですな。たとえ手の内が相手に解られていても、日常を守るべく立ち上がる」
　そこまで言い、透は武道の手をとり、深く一礼した。
「貴方様の行く道に月光の導きがありますよう、祈らせていただきます」
　透の言葉に、武道はどこかくすぐったそうに表情をくしゃくしゃにする。でも何故だろう、どことなく嬉しく思うのだった。

　うとうとしていた宙太郎は、ドームの中で夢を見た。それは、彼自身が白虎族の貴人となり、庭園の東屋でお茶を楽しんでいる、という物だった。
（変な夢かもな。でも、風流を楽しむ俺も、なかなかおもしろいな……）
　幼子のような笑みを浮かべ、宙太郎はまどろむ。彼はちょっとしたトラブルが縁日で起こったことなど気付かず、ゆっくりと寝返りをうつのであった。
　そして東屋では、蛇那伊、碧南、美咲紀がお茶をゆったりと飲みながら花を愛でていた。その途中で月も合流し、彼女は見付けた真珠を見せ皆で「よかったね」と言い合いながら和やかに過ごしていた。だが、途中で美咲紀はゆっくりと席を立つ。
「あら？　もう、いいの？」
「はい。私もちょっと真珠探しもしたいと思っていたので。庭園ではなく、別の場所で探してみようと思います」
　蛇那伊の言葉に、美咲紀が答えれば月と碧南も声を掛けてくれる。
「違う色合いのが見つかるかもね」
「気をつけて行ってね。私たちはもう少しここでお花を見てるよ」
　美咲紀が一礼してその場を立ち去ろうとすると、武道と透が戻ってきた。美咲紀は透に礼を述べてその場を去り、２人は笑顔で見送る。
「よい真珠が見つかりますように」
「がんばってね☆　でも無茶はした駄目だヨ？」
「ありがとう！」
　美咲紀はにっこり笑い、ポニーテールを弾ませて歩いていった。