ふわりふる真珠、月の都の異邦人｜リアクション

ふわりふる真珠、月の都の異邦人

起：月の都でお茶会を

　異世界の月へとやってきた寝子島の人々は、ぼんやりと輝く雪と、華やかな喧騒に興味を引かれていく。案内役となった青年、銀穣に導かれ一堂は一度白鋼と謁見する事になった。
　前回の詫びを述べた後、白鋼は柔和な顔で微笑んだ。
「今回は、よく遊びに来てくれた。ぜひ、のんびりと祭りを楽しんでいって欲しい。帰りはまた、銀穣を頼るといい」
　一同の前で銀穣が頭を下げる。彼は帰る際にまた集合をかけることを告げると、解散となった。
　果たして、どのような一日になるだろうか？

＊　＊　＊　＊　＊

　――お茶会。

　女中たちに案内されたのは、綺麗な花で飾られた広間だった。ちょうど庭園にも面しており、部屋から見える池には愛らしい魚が泳いでいる。また、テーブルから少しはなれた場所では琴や琵琶など楽器を奏でるもの達の姿もあった。その音色に瞳を細めつつ、呉井陽太が感心したように庭園を見た。
「寝子島では見たことがない鳥もいるねぇ」
「こっちのお菓子も気になる……」
　宇崎宙太郎は豪勢な食事が出ると考えていたが、想像以上においしそうだったのだろう、目が釘付けになっていた。その様子に白鋼は楽しげに微笑む。
「点心師が腕によりを振るっておる。望むなら土産に包もう」
「ホント？！」
　宙太郎はぱっ、と顔を輝かせる。が、そこで思わず苦笑したのが陽太だった。まぁ、なんにせよ挨拶は大事だよね、と彼は眼鏡を正してにこやかに笑う。
「お招きありがとうございまっす♪　この間は戦ったり何だりだったけど、今日はゆっくりとお祭りを楽しみまっす」
「あぁ。是非楽しんでいってくれ。このようなもてなしで喜んでいただけるかはわからぬが……」
　白鋼がそう言いながら席につけば、他の面々も思い思いに席に着く。
　サキリ・デイジーカッターは置かれた白磁の茶器に目を細めながら興味津々と言った様子で急須などを見つめていた。茶道部に入っているためか、ここでの作法も気になるらしい。
　その傍ら、桜月は赤いパーティードレス姿で、女中たちからまるでお姫様のようだと言われて照れていた。
「衣服はこれでもよかったかしら？」
「凄く似合っているよ」
　月の問いにサキリが頷いていると、後木真央が目を輝かせて桜庭円と共にお菓子を見ていた。揚げ菓子や蒸しパンのような物の他、ゼリーやら、クッキーやら、饅頭のようなパイやら……まさにご馳走である。
「どれもおいしそうなのだ。さっそく食べたいのだ～」
「そうだねぇ～。……あ」
「？　どうしたの？」
　不思議に思ったのは傍らの十朱此方が首をかしげていると、円は鞄に入れた漫画を見、少し真面目な顔で呟く。
「白鋼に地球側の恋愛についてレクチャーできたらって思って少女漫画持ってきたんだよね。でも、今思ったら参考にならないかもって」
　彼女の言葉に固まる真央と此方。話が聞こえていたのだろう、陽太は少しだけ苦笑しつつもぽん、と円の肩を叩いた。
「まぁ、渡すだけ渡してもいいんじゃない？　興味持つかもしれないよ～」
「そうだねぇ。読むだけでもいいかな。異文化交流的な感じで？」
　そう話している合間に、お茶の準備も整い、いよいよお茶会のスタート。静かに注がれたお茶を口にしながら、皆で早速お菓子を食べる事になった。

「うめぇ……！」
　宙太郎は、揚げ菓子を一口齧り、満面の笑みでそう言った。地球でも親しまれている食べ物が多いが、確かにとても美味しい物ばかりだ。見たこともない果物や菓子もあったが、それらもほっぺたが落ちるかと思うほどである。
（白鋼は所作がとっても綺麗だ。見習わなくちゃ）
　白鋼の動きを見て、サキリが感心したように頷く。彼は時折女中にここでのマナーについて聞きつつ穏やかにお茶を味わい、もっと茶道について学んでみようかな、とも考える。
「このお茶、飲んでいるとおちつくのだ。何なのだ？」
　真央が白鋼に問うと、彼はゆっくりとお茶を飲み、
「そちらでいうキンモクセイという花に近い物と香草だな。マタタビを配合することもあるが、こちらを使うと聊か酔いやすくなる」
　と答えてくれた。真央はそれを聞き「えっ？」と僅かに声を漏らす。実はお土産として持参していたのである。彼女は赤猫バックから持ってきたマタタビとマタタビ茶、水筒を白鋼へと差し出した。
「真央ちゃん、喜んでもらえるかとおもって用意してきたのだ。マタタビ茶は健康茶として売ってるのだ。血液の循環をよくして冷え性改善なのだ！」

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