ふわりふる真珠、月の都の異邦人｜リアクション

ふわりふる真珠、月の都の異邦人

　一方その頃。尾鎌蛇那伊は東屋から少しはなれた場所で花を愛でていた。そうする姿はさながら貴人の一人にも見えるだろう。それほどまでに、彼は溶け込んでいた。
（屋台では、あんな事になったけれども……のんびりたのしませてもらうわよ）
　蛇那伊はゆっくりと天を見上げる。ふわふわと降る真珠雪が、花びらとは違う色合いを見せてほんのりと輝き、その光によって花はまた違った表情を見せる。その雅な空気を壊さぬよう、ゆっくりと歩けばどこからとも無く琴の音が聞こえてきた。恐らく、宮の何処かで誰かが弾いているのだろう。
（ここが庭園でなければ、静かに瞑想したり、武の鍛錬を積めそうなんだけど……）
　弁えるべきよね、と内心で苦笑しながらも、心のどこかでは残念に思いながら、彼は散歩を楽しむ。と、ふわり、と甘い香りが漂ってきた。

　縁日から庭園へやって来た志波武道は東屋でお茶を飲む碧南と美咲紀を見かけた。給仕をしているのは、初老の執事。確か名を透と言っただろうか。武道は、先日の戦いで透と対峙している。
　武道が声をかけると、透はにこやかな笑顔で一礼する。そして、お茶をどうぞ、と椅子を勧めてくれた。お言葉に甘えてお茶を頂けば、ほんのりと甘い香りがする。
「月光桜のお茶です。気に入っていただけたならば幸いです」
「これはこれでほんのり優しい気持ちになるねぇ」
　武道がほっこりした気持ちになると、彼は眼鏡を正して透に声をかける。
「それにしても……あの時はびっくりしたぜぇ☆　麻痺らせてなんとかってトコだったけど、結局は皆のおかげだったわけだし。純粋なタイマンだったら負けていただろうなぁ～って思っているんだよネ」
　武道の言葉に、透は僅かに苦笑する。
「我々白虎族は、強い者と戦うことを好みます。特に男性はその傾向が強いのです。そして、その強さを示す事で大切な物を守れることを表現したがる癖もあります。故に、白虎族の多くが、武術を嗜み鍛えていくのです」
　故に、やりすぎてしまうきらいもある、と透は恥ずかしそうに言い、武と礼儀を重んじる風潮を語る。
「ふぅん。そういえば、結婚したい相手の親族と戦うって言っていたよネ？」
「ええ。私も妻を迎えるとき３０人ばかりと戦いました。危うく、義理の父に倒されかけましたが、ギリギリなんとか勝てましたね」
　その話を聞き椿と碧南が意外そうな顔になるも、白虎族の婚姻話には興味があるようだ。何でも、求婚してきた相手が気に入らない場合、娘達は護符を買って父親に渡し、祈る事で男を退けているそうな。
（白鋼さんは、地球人もそうなのだろうと思っていたのでしょうね）
（なるほど、そうなっていたのか……）
　美咲紀と武道は前回、白鋼が地球に来たときの事を思い出し、なるほど、と相槌を打った。
　その他にも風習などを聞き、武道たちは地球との違いに関心を示す。
「この世界は、白虎族だけなのかな？」
「いえいえ、朱雀、玄武、青龍、麒麟と全部で５つの種族が存在し、それぞれ流儀が変わって行くのです。ただこの月で生まれた者は若いうちは『恋に流されやすい』傾向にあるようですね」
　透の言葉に、３人は少し目を丸くする。そうしていると、蛇那伊も近くを通りかかる。透は彼にも声をかけ、月光桜のお茶を振舞うのであった。

　その頃、桜月は庭園で真珠さがしをしていた。ふわり、ふわりと降る雪はどことなく優しい感触がして、花の白とはまた違った色合いがして、思わず創作意欲が増す。服のことが頭を占めようとするが、雪を触っていて目的を思い出すと真剣に真珠を探すのだった。
（いけない、いけない。しかし、手触りがいいわ……）