――? ? ?
「ここは……?」
ふと、
小日向 つばめは我に返った。自分は先程まで自宅で写真の選別を行っていた筈なのに、と不思議そうに辺りを見、息を呑む。というのも、そこが月の光が満ちる、不思議な部屋だったからだ。
水晶で作られたテーブル、ガラス張りの壁、大きな2頭の白い虎。そして、彼女の目の前には……、白い髪の若い男がいた。
「目覚めましたね、私の姫」
そういった男は、にっこり笑って跪き、うやうやしくつばめの手を取ろうとした。つばめはその手を払い、不審そうに見る。
「何のマネかな?」
「姫、そんな連れない事を言わないでください」
男は寂しげな顔でそういい、僅かに目を細める。つばめは、その銀色の猫目と自分の黒い目を合わせ、言葉を待つ。
「私は、貴女に助けられた猫です。まぁ、正確には虎なのですがね。貴女がたからしてみれば異世界となる場所から来た、白鋼(しらがね)と申します。これでも、月の王を務めている者です」
彼はそういい、恭しく礼をする。つばめは僅かに溜息をつき、どうすればここから出られるのか考えるも、白鋼はそっ、とつばめの手をとって、にっこり笑ってこう言った。
「助けてくれた貴女に、私は惚れてしまいました。是非私の妃になってください」
「?! ちょっ、ちょっといきなりそう言われても困る! それに私、まだ結婚とか考えてないし……」
「ならば、是非私を夫に選んでください。後悔はさせません」
白鋼はそういって切実そうな眼差しを向ける。つばめはそれでも彼の申し出を受ける気になれなかった。仕事が面白いのもあるし、まだやりたいこともある。それに、こんな強引な手を使うなんて……。
(どうしよう! どうしたら……。誰か、助けてくれないかなぁ……)
そう願いながら空いた手でカメラに触れる。と、僅かにカシャッ、カシャッ、と音をたてる。しかし、必死に願うつばめには何が起こっているのかわからなかった。
そんな時、ふと白鋼がちらり、と外を見た。大きな2頭の虎も同じ方向を見る。つばめが窓の外を見ると、何人かの人が虚空を歩いているのが見えた。
「どうやら、貴女を取り戻しに来た人たちがいるようですね」
彼はそう言ってつばめを抱きかかえると、そのままふっ、と部屋から姿を消した。
(これは、どういう事?)
呉井 陽太は何故か夜空の中に佇んでいた。眼下には寝子島の街が見える。まるでガラスの床の上を歩いているようだ。
不思議に思いながら辺りを見渡すと、どうやら透明なドームの中に自分がいる事に気付いた。空に浮かぶ満月の光が、天井を明るく照らして反射している。そして、大きなアンティーク調の鳥篭が、浮かんでいた。その中にいたのは……、なんと担任であるつばめである。
「こ、小日向先生!?」
「あ~、陽太君! なんか、異世界の月の王様って人が私をお嫁さんにしたいって……。でも、私はそんな気まったくないのよ!」
つばめは困った顔で柵を握り、助けを求める。しかし、陽太が近づこうとすると、ばちっ、と音をたてて弾かれる。
「さて、どうするかなぁ……」
陽太が考えているうちに、数名の人々が同じように姿を現した。そして、1匹の虎が陽太へと歩み寄る。
「君たちだね。つばめ姫をとりもどしにきたのは」
「ひ、姫?!」
陽太が困惑していると、虎は1人の若者へと姿を変えた。着物にも見える豪奢な衣服を纏った若者は、にこり、と笑う。
「我が名は、白鋼。異界の月の王だ。私は、命を救ってくれたつばめ姫と祝言を挙げるべくここへ来た」
そう言う白鋼は、不敵に微笑んで陽太達を見る。いつのまにか、白鋼の傍には、2頭の大きな白い虎が唸りを上げていた。
「私たちに勝つ事が出来れば、つばめ姫を返そう。ただし、負けた場合は……私が貰い受ける」
白鋼はそういうと、何処からとも無く、2本の大きいナイフを取り出し、虎と共に襲い掛かってきたのだった。
――はたして、つばめの運命は……?
菊華です。
今回は囚われてしまったつばめ先生を助けてもらいます。
難易度:★★★
(判定が少し厳しめです。成功を目指すなら気を引き締めてください)
※難易度について、くわしくはマスターページをご覧ください。
ガイド補足
現在の状況
みなさんは、小日向 つばめの「助けて欲しい」という思いに反応したカメラ(に宿った神魂)によって虚空に浮かぶ透明なドームの中に転送されました。
持ち物は転送前に持っていたものという設定で2つほど持ち込めます。
(正し明らかに武器になるものはアウトです)
因みに、つばめとの面識についてはあるか無いか無関係にランダムに転送されております。
異世界の月の王、白鋼は異世界へ迷い込んだ際、猫に化けて寝子島に潜伏していました。所が地域の猫たちに追われ、そこをつばめに救われたのでした。
それがきっかけで惚れてしまい、今回のような強行に出たようです。
(PL情報:白鋼の故郷ではこうして花嫁を迎える儀式を行うようです)
敵情報
白鋼:戦闘中は戦いやすい衣になります。
黒曜石らしき刃を持つ大きめのナイフと青白い光線で戦います。
青白い光線に接触した部分は凍ります。
白虎:フツウの虎より一回り大きい虎、2頭です。
人の言葉が解っているようです。
舞台に関して
虚空のどこかにある、透明なドームです。
寝子高の校庭ほどの広さがあります。高さはざっと10mほどです。
その東側に人が1人は入るだろう大きな鳥かごがあり、小日向 つばめが入っています。
重力は地上と変わりません。また、どんなことがあってもドームは破損しません。
蛇足
白鋼の外見は、なかなかの好青年です。
つばめ先生は、中華風で華美な衣を纏っています。
それでは、よろしくお願いします。