ふわりふる真珠、月の都の異邦人｜リアクション

ふわりふる真珠、月の都の異邦人

「ほら、これ！　なかなか良く撮れたと思うのよね！」
　そう言って見せたのは、屋台で子どもと何か話す陽太の姿だった。陽太はつばめに会う直前、飴の屋台を覗き、何種類かの飴をもらっていたのだ。
　無邪気な横顔になっていた自分を見、くすぐったい気持ちになりつつ彼はほんのりとひかる『真珠飴』を先生にプレゼント。
「え？　いいの？」
　陽太が頷くと、つばめは嬉しそうに「ありがとう」と微笑んだ。
「あ、陽太先輩だ～！」
　２人が声のした方をむくと、桜庭円とサキリ・デイジーカッターがいた。どうやらお茶会が終り、こっちへ来たようだ。
「円ちゃんとサキリ君も来たんだね。２人は何か買ったの？」
「ううん、これからだよ。白虎の絵とかあるといいな～って」
「僕は、茶器を探しに行くんです」
　円とサキリの言葉に、つばめは楽しげに頷いて微笑む。そして、気をつけて行ってね、と背中を押した。そして、陽太と共にしばらく一緒に回ろうとする。だが、そこで何かに気付いた陽太はつばめに一言わびると駆け出した。

　たくさんの人で溢れる縁日を眺め、『星ランタン』を手に瓢はくすくす笑った。傍らの銀穣は、碧南になにやら説明しているようで、瓢から注意がそれている。これは好都合だ、と瓢はにやり、と笑う。彼は前回の戦いでマタタビに酔った銀穣に引っかかれている。ようは、その仕返しがしたかったのだ。
（そぉれぃ！）
　瓢は隠し持っていたマタタビの枝をぽぽいっ、と楽しそうに投下する。すると、それに反応したのか、何人かの白虎族がしっぽを立ててやってきた。
「マタタビだ！」
「マタタビだわっ！」
　あっという間に縁日は混乱に陥り、虎化した者たちがころんころんと幸せそうに転がっている。だが、肝心の銀穣の姿はない。
「えっ？！　ええ？！」
「こちらですっ」
危機を察知したのだろう、銀穣は碧南を軽々と抱え屋台近くの木に飛び移る。そしてマタタビで騒ぐ人々から速やかに離れていった。
「！　逃げられたようだねぇぃ……」
　騒ぎから小柄な身体を利用して抜け出した瓢は、あっ、と言う間に姿をくらました銀穣と碧南に対し不満げに息を漏らす。彼は肩を竦めると残りのマタタビをぽいっ、と放るとその場を後にした。
　実は、銀穣は陽太の放った粘土細工に突付かれた事で瓢の企みに気付き、危機を脱したのだ。
「だ、大丈夫？」
　宮の近くまで戻ってきた碧南は、息を切らせた銀穣を心配する。でも彼は笑顔で「大丈夫」と答えた上で彼女の手を取る。
「次は、どこに行きますか？　お連れいたします」
「それじゃあ、庭園まで案内してもらえるかしら？」
　碧南の言葉に、銀穣は笑顔で頷いた。

　マタタビが屋台でまかれた事に関しては、後に宮の兵士達と出くわした寝子島の住人たちがどうにかよっぱらった面々を別の場所へと連れて行く事で落ち着いた。騒ぎを聞きつけて白鋼自ら民衆を落ち着かせるべくやって来たが、瓢はその頃、既に姿をくらませていた。
「……してやられたかな」
「仕方ない。あの少年を少し探すとしよう」
　陽太が悔しげに呟けば、白鋼はため息混じりに言う。真央はぐでんくでんによった白虎族をもふりながら「お祭りに巨猫さまに遭遇でうれしいのだ！」とご満悦モードである。一方、何が起こったのか推測した修は、やれやれ、とでも言う表情で肩を竦めた。
「十中八九、【彼】だろうね」
　サキリもやれやれ、と相槌を打つ。清一郎は事情をサキリと修から聞き、こっちもため息を吐いた。
「折角の祭やのにな。粋やないわぁ」
「もう１人、だれかつけておくべきだったな。迂闊だった」
　白鋼は自分の失態だ、と頭を下げる。そして、その場に居合わせただろう人々に声を掛けていくのであった。