ふわりふる真珠、月の都の異邦人｜リアクション

ふわりふる真珠、月の都の異邦人

　親父は楽しげに笑いながら、真っ赤な満月焼きを武道に渡した。さっそく食べてみると、海鮮の風味と共に唐辛子の辛さが口いっぱいに広がる。辛党の武道でもちょっと辛いと感じるほどだ。
「これ、すっごーく美味しい！　いい辛さだネ！」
「他のトコよりちょいと多めに唐辛子を入れてるからね」
　親父は機嫌を良くしたのか、普通の『満月焼き』と食べ比べてみてごらん、とそれも渡してくれた。辛さの無い『満月焼き』も確かに美味しいが、武道としては『赤月焼き』の方が気に入ったようだった。
「真っ赤なのね……。平気なの？」
　不思議に思った蛇那伊が問いかけると、武道は笑顔で頷いた。

　その頃、『星ランタン』の屋台では御巫時子が屋台の主に色々質問していた。
「あの、縁日は毎日なのですか？　それとも今日限定？　冬に縁日は珍しいですね」
「まぁ、真珠雪の降る日は寒さも厳しくないからな。祭は今日だけだから縁日も今日だけだが、楽しんで欲しい」
　屋台の主曰く、真珠雪はほんのり輝くだけではなく寒さも吸収するのだと言う。それ故に、初雪の日はこうして祝い、屋台を出すのだとか。お代のいらない日という事で心から頭を下げて礼を述べていると……背の高い須藤清一郎と出くわした。
「須藤さんも、縁日ですか？」
「まぁ、な。なんか普段と違ごうて見えて、より綺麗に見えたわぁ」
　清一郎はうっかり時子をナンパしようとしたらしいのだが、傍らで見ていたであろう八神修はその様子にくすくす笑っている。
（危ない、危ない。普段より大人っぽく見えたんは『星ランタン』の所為なんやろか……）
　清一郎は内心で苦笑しつつも、修を伴って「ほな、またな」と屋台から離れていった。時子はくすり、と笑って２人の背中を見送った。
　清一郎は「あぁ、焦ってもうた」と呟きながらも辺りを見渡す。基本的に白っぽい髪の人々……どうやら白虎族というらしい……が多い中、彼は内心でにぃ、と笑う。
（色んな別嬪さんがぎょうさんおるなぁ……。一夜のアバンチュールとしゃれ込みたいわぁ）
　そんな事を思いながらも声をかけようとするが、傍らに恋人か夫だろう男がついている者が多い。彼らは決まって清一郎に無言の圧力を掛けてくるのだ。たまに男性を連れて居ない者もいるが、彼女たちは清一郎の言葉に「かわいいわね」とか「もう少し大人になってからになさいね？」と相手にしない。
（わ、わいに魅力が無いんか……！？）
　愕然とする彼に声をかけたのは、煙管を手に持った銀髪の老翁だった。
「お主、玄武族じゃろ？　その様子だと元服前とみた。白虎族の娘は凛々しく強い男に惚れるでのぉ、そのようなナンパでは靡かんのじゃ」
「なんやて～っ？！」
　再び驚く清一郎に、様子を見ていた修は必死に笑いを堪えていた。そんな様子の２人に老翁は助言する。確かに２人とも見目は良い。だが、白虎族のお姉さま方からしてみればまだ精悍さが足りないようだ。
「そっちのお主は朱雀族じゃろう。そなたが白虎族の娘に惚れられるようになりたいならば、相当鍛えねばならぬぞ？」
「あ、ありがとうございます。ですが、俺たちは玄武族でも、朱雀族でもありません。地球から来たのです」
　修の言葉に、老翁は目を丸くし、楽しげにほっほっ、と笑う。そして、これでも食べて元気を出しなさい、とおいしそうな卵の煮物をくれるのだった。
「く～っ！　こうなりゃ屋台の食べ物を買い占めてヤケ食いしたる……」
「無茶するなよ？」
　清一郎がぐすん、とした様子で呟き、修はほっこりとした気持ちで卵の煮物を食べるのであった。

陽太が他の仲間の様子を見つつのんびり屋台を回っていると……祭の風景を撮影している小日向つばめと出くわした。
「先生♪　何かいいもの撮れました？」
「陽太くんも縁日に来てたんだねー♪」
　つばめは上機嫌で手を振る。そして、早速取れた光景を陽太に見せてくれた。無邪気に笑う子ども達、お酒を酌み交わしながら語らう大人達、屋台を回る寝子高生など、実に楽しそうな光景が浮かび、陽太も表情が柔らかくなる。