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陸上部
:スポーツテストのできる喫茶店、校庭(第1グラウンド)&仮設テント
大きめの仮設テントが設営された。学校の備品の机や椅子で喫茶店の雰囲気を作り出す。調理場に当たるところは机を合わせてカウンターに仕立てた。上にはドリンク用のジャグが二つ。少し間を空けて炒め物専用のホットプレート、簡易コンロ、スムージー用のミキサーと小型の電子レンジは下のバッテリーボックスに繋がっていた。
手前のグラウンドでは
志波 拓郎
がスポーツテストの用意に追われていた。ブルーシートを等間隔で並べる。置いていたライン引きで立ち幅跳び用の白線を引いた。少し間隔を空けて反復横跳びの三本線を正確に描く。五十メートル走のコースは専用のメジャーを使って計測。スタートラインとゴールラインにしっかりと白線を引いた。
桐野 正也
は副主将として細かいところに目を光らせる。テントの支柱を握って軽く揺すった。全てを試すと握力計を手に取る。自身で握って不具合がないかを調べた。
正也はグラウンドの方に目を向けた。
「志波、用意は出来たか」
「はい、こちらは、終わりました…」
「そうか、あとは――」
正也は周囲に目をやる。校舎の方から青いジャージを着た
十文字 若菜
がゆっくりと歩いてきた。
「十文字さん、手伝おうか」
若菜はホワイトボードを押していた。声の方向に明るい笑顔を見せる。
「大きさはあるけど大して重くないんだよ」
テントの横まで自力で押し切った。
若菜はジャージの前を少し開けて背筋を伸ばす。身だしなみを気にするようにサイドテールを結び直すと、ホワイトボードに貼られたデモンストレーション係の記録を眺めた。
「漏れはないみたいだね」
「自称、調理場主任の俺様の登場だぜぇ」
ボサボサ頭の
宇佐見 望月
がにやりと笑ってやってきた。自信に満ち溢れた態度が頼もしい。
若菜は明るく返した。
「ついに本番だね」
「そうだな! 俺様の腕が鳴るぜ!」
早速、望月は調理場に立って諸々の確認を始めた。
食堂を出た
楢木 春彦
は発泡スチロールの箱を両手に抱えて歩いた。大きさの割に足元はしっかりとしている。
目の前を等身大の猫が猛烈な勢いで横切った。
「後木、なんで猫の着ぐるみなんだ?」
春彦は足を急がせた。増えてきた人を避けながら仮設テントまで発泡スチロールの箱を運ぶ。
後木 真央
は猫の着ぐるみを脱いだ。部活動のTシャツにエプロンを付けた姿に早変わりした。額には気合を窺わせる赤いバンダナを巻く。
「後木、気合入ってんなー。宇佐見先輩、頼まれた材料は邪魔にならないところに置いとくっすねー」
「お、助かるぜ。調理の三人が揃ったんで渡しておくか」
望月は二人に折り畳んだ紙を差し出した。
最初に真央が内容に目を通す。
「料理の手順がわかり易く書いてあるのだ♪」
「え、そんなにわかり易いかな」
望月は締りのない顔で落ち着きがなくなる。
「先輩、もじもじするくらいならトイレに行った方がいいっすよ」
「トイレじゃねぇよ。ようは誰が途中で抜けても、その紙を見ればある程度はカバーできると思うんだ。有効に使ってくれ」
「了解っす」
「わかったのだ。これから真央ちゃんは食堂にクーラーボックスを取りに行ってくるのだ」
「俺様はライスバーグに挟むキンピラを炒めて解凍するぜ」
望月はフライパンを簡易コンロに乗せた。先程、運ばれてきた箱から材料を取り出す。
春彦はエプロンを付けて接客に備えた。
結梨亜・カールシュテイン
は第一グラウンドを訪れた。手帳を開いて周囲の様子を書き込む。
「興味深い出し物ですね」
「挑戦するにー」
陸上部のユニフォームを着た
七音 侑
がハードル競技並みの速さで素っ飛んできた。首に下げたストップウォッチが胸元で揺れている。手には記録用紙とペンが握られていた。
「これも取材の為です。無理のない初級でお願いします」
結梨亜はにっこりと微笑んで初級に挑む。侑に連れて行かれた先で握力計を渡された。
「これを握ればいいのですね」
結梨亜は深呼吸をして数字を見ながら握ろうとした。すると侑がやんわり止めた。
「気持ちはわかるんだけど、肘は曲げないで握ると力が出るよ」
「そうなんですか。さすがは陸上部の方ですね」
「そういうウチも握力はあまりないんだけど……」
「では改めていきますヨ」
全力で握った。酸っぱい梅を食べたような表情で結梨亜は震え、瞬時に脱力した。
「どうでしょうか」
「おー、二十七キロ。何かスポーツでもしているの?」
「トロンボーンのおかげ?」
結梨亜は首を傾げながら笑った。
「次の立ち幅跳びは前に行くイメージね。後ろに重心があると倒れて記録が短くなっちゃうから気を付けてね」
「取材で走り回った足を見せます」
スタートラインの線に立ち、両腕を何回も振って跳んだ。侑はメジャーで速やかに距離を測る。
「あのー、もう少し跳んでいませんか」
「足を前にやるタイミングが遅くて、ここでちょっとね」
侑が指差したところを見ると地面に擦れたような跡があった。結梨亜は額に手の甲を乗せて空を見上げる。
「記録は一メートル十九、ってことで。最後は上体起こしだよ。ルールは横になってから説明するね」
「わかりました」
結梨亜はブルーシートの上に仰向けになった。侑は軽く両膝を曲げさせて片手で抱え込む。もう一方でストップウォッチを手にした。
「腕は胸の前で十字に組んでね。起き上がった時に両肘を自分の太腿に付けるようにして。これで一回になるんだけど、戻る時にシートに背中が付いていないと無効になるよ。時間は三十秒、始めてもいいかな」
「いつでもどうぞ」
ピッと短い音がして上体起こしが始まった。結梨亜は金髪の髪を振って懸命に回数を重ねる。ストップウォッチの止まる音がして力尽きた。両腕を広げて胸を大きく上下に動かす。
「二十六回、良い記録だよ」
「きっと、トロンボーンの、おかげです」
「そうかもしれないにー」
侑は頷いて結果記録表を手渡した。それを手に結梨亜は仮設テントに向かう。
「スポーツテストの疲れはサービスの
蜂蜜レモン
な」
楢木 春彦
が笑顔で待っていた。
「ありがとうございます」
結梨亜は小さな紙コップを受け取り、一気に飲んだ。何回か傾けて春彦の顔を見詰める。
「この量じゃ足りねぇってか? やっぱ注文して貰わねーとさ。つーことで注文いっとく?」
メニューを見せると結梨亜は『野菜のシフォンケーキ甘酒クリーム添え』と『豆腐スムージー』を注文した。
その選択に満足したのか。春彦は笑いながら説明を始めた。
「シフォンケーキにはニンジンやホウレンソウが練り込んであるんだぜ。掛かっているクリームはコクのある動物性だ。だからってカロリーの心配はいらないぜ。甘酒の麹の甘さで砂糖を減らしたヘルシー仕上げで味も抜群なんだぜ」
「それは凄いです。新聞ネタとしても美味しいです!」
結梨亜は疲れを忘れたかのように手帳に書き込んだ。テントの中の喫茶店で再び味に驚いて幸せな時間を過ごした。
南校舎と第一グラウンドに挟まれた辺りで
鴇波 羽衣
が宣伝に励んでいる。
「こちら『スポ魂喫茶アスリート』です! スポーツテストまで出来る喫茶店で~す! スポーツの秋、ちょっと身体を動かしてみませんか~」
身体よりも大きな陸上部の旗を振って遠くの方までアピールした。
耳にした
曖浜 鴻
が立ち止まる。
「スポーツテストか…悪くねぇな」
「喫茶店なら、ご飯も食べれそうだねぇ」
曖浜 瑠樹
は繋いだ手を軽く振った。鴻は視線を下げて微笑む。
「スポーツテストはどうする?」
「面白そうかなぁ」
「そうか、決まりだな」
二人は挑戦者の顔付きになった。
猫又 翔琉
は歩きながらやたらと髪を掻き上げた。
「俺も思ってたんだよなー。定番の喫茶店だけじゃなくて、祭りに相応しいどっかを見て回りてぇなーって。そしたら空音ちゃんが陸上部に誘ってくれただろ? 張り切らないわけにはいかないぜ!」
「あたしは陸上部のマネージャーだからね! 準備には参加できなかったけど、応援はしたいもんっ! あとは気晴らしに走るのもいいんじゃないかな」
横にいた
桃原 空音
が頭頂から飛び出た毛を揺らして言った。翔琉は視線を斜め下に向けて底意地の悪い笑みを浮かべた。
「空音ちゃんは走り易そうな身体をしてるもんな。そんなサイズじゃ胸とか揺れないんじゃないか?」
「触って確かめようとするんじゃない!」
そろりと伸びてきた手を宙で叩き落とす。空音は顔を横に向けて堂々と言った。
「誘う相手を間違えた気がするのだ!」
「ま、そんなところも空音ちゃんのチャームポイントだよな」
悪びれる様子もなく翔琉は笑って話を流した。
ポニーテールに止まった赤い蝶のようにリボンが緩やかに羽ばたく。
篠原 翠響
は後ろ手に組んで軽やかに通りを歩いた。黒い瞳は出し物だけではなく、周囲の人々にも向けられる。中に仮装した人物が紛れていた。大正時代の衣装の寸劇には足を止めて楽しんだ。
前方で青い部旗のような物が振られていた。陸上部の宣伝の声が聞こえてくる。
翠響は第一グラウンドに足を向けた。仮設テントの近くにホワイトボードがあった。貼り出された記録や内容に目をやる。
「記録を抜いたら蜂蜜レモンとおからクッキーをプレゼントだよ」
接客に回っていた
十文字 若菜
が笑顔で声を掛けてきた。タダか、と翠響は呟いて自身の服に目をやる。
「運動には不向きな服だから、ジャージとか借りられると助かるんだけど」
「替えはないかな」
「真央ちゃんは替えを持っているのだ!」
テントの調理場から
後木 真央
が大きな声を出した。ホットプレートのライスをフライパン返しで引っくり返す。
若菜は、本当に、と喜びの声を上げた。
「本当なのだ。そこにあるのだ」
真央の視線の先には猫の着ぐるみが置いてあった。若菜は微妙な笑みで言った。
「これを着たら余計に記録が悪くなりそうだね」
「若菜ちゃんセンパイ、おネコ様パワーを信じるのだ」
「真央ちゃん限定のご利益だね」
若菜は翠響に揉み手をしそうな顔で聞いた。
「どうしようか」
「私はこのままでもいいわ」
翠響はリボンを解いた。アップにして結び直す。
「スポーツテストを始めたいと思います。参加者の人は集まってください!」
七音 侑
の呼び掛けに人々がグラウンドの中程に集まってきた。
志波 拓郎
は目で人数を確認。次の段階に入った。
「…上級のテストを、受けられる皆さんには…怪我をしないように、柔軟体操をしていただきます。アキレス腱を、しっかり…伸ばしてください…」
拓郎が手本を見せて参加者が後に続いた。デモンストレーション係の者も行う。
冴木 竜司
は少し目を血走らせてストレッチに励む。まるで信念であるかのように早口で呟いていた。
「YESロリータNOタッチ」
視線の先には普段着の翠響がいた。気にすることなくストレッチを続けた。
「それでは、五十メートル走を行います…」
拓郎のあとで竜司は参加者に向かって声を上げた。
「俺はデモンストレーション係の一人、男性用守護者の冴木竜司だ! フフフ、この俺の記録を越えられるかな? 諸君、楽しみにしているぜ!」
「やってやろうじゃねぇか」
曖浜 鴻
は白いジャケットを脱いだ。厚い胸板がTシャツを押し上げる。浅黒い二の腕は編み込まれた太い鋼線のようだった。
側にいた
曖浜 瑠樹
は手を挙げてぴょんぴょんと跳ねる。
「オレも挑戦するよぉ」
「うにっ、ちょっとキミには冴木先輩の記録は無理じゃないかなー」
侑は中腰になって微笑み掛ける。瑠樹は柔らかい表情で胸を張った。
「平気だよぉ。オレは魔王ヤガミをやっつけた小さな勇者だからねぇ」
「んー、そうなんだにー」
困った笑みで口調までおかしくなった。
黙って聞いていた
猫又 翔琉
は不敵な笑みを浮かべる。
「ふふふ、何を隠そう、俺は普通科にいながら運動は得意なんだぜ? 特に走る競技はな!」
「下着泥棒のおかげで逃げ足が速くなったのかなぁ?」
傍らにいた
桃原 空音
は黒い笑みを見せた。翔琉は余裕の表情で頷く。
「なかなかの変化球だが、俺はしっかり受け止めたぜ! 嫉妬した空音ちゃんは俺に下着を盗んで欲しいんだな!」
「誘う相手を完全に間違えたのだ!」
「まあ、そういうなよ。クラスメイトで同じ出し物を、そうだ! ホラー喫茶の宣伝を兼ねて背中に看板を付けて走ってみるか」
「看板を背負うって、それギャグ?」
空音は遠くを見るような目で言った。
「ふふふ、皆が俺様の姿に目を奪われるし、喫茶店の宣伝にもなってきっとモテる! よーし、やるぞおおおおお!」
興奮が頂点に達した。そこに拓郎が声を掛ける。
「…危険な行為は、禁止で、記録なしに、なりますよ」
「そりゃ、そうだ。真面目に走るんで、ヘヘ」
笑顔を忘れない翔琉であった。
五十メートル走のスターターは拓郎が務める。ゴールラインの計測には侑が就く。
最初に鴻がスタートラインに立った。
「位置に付いて」
鴻は動かない。ゴールラインを見据えていた。
「用意…」
足と手を後ろに引いて構える。
「スタート!」
鴻は重い一歩を踏み出し、徐々に足の回転を上げていく。その途中でゴールに達した。
計測していた侑が、あー、と声を漏らして記録用紙に書き込む。
瑠樹の番となった。最初から構えて立つ。スタートの声で飛び出した。わー、と声を上げて少し蛇行しながら走ってゴールした。
侑は微笑みの中、記録用紙に数字を書いた。
翠響がスタートラインの際で靴先を調整する。竜司は締りのない顔付きで見ていた。同性もあって侑も注目した。
スターターの声に従って翠響は走り出す。頭をあまり動かさないで腕を振る。特徴のない走り方でゴールラインを越えた。侑はストップウォッチのタイムを見て、ほっとしたような表情を浮かべた。
「俺の華麗な走りでキャーキャー言わせてやるぜ」
翔琉は笑顔で周囲に手を振った。ウインクまでして女性の目に留まろうとした。
「…始めても、いいか」
拓郎の静かな問いに、いいぜ、と親指を立てた。
翔琉はスタートラインに片足で立つと両腕を広げた。その状態で時を待って走り出す。周囲に流し目を送りながらゴールラインの手前で跳躍した。侑は笑いを堪えて記録用紙に書き込んだ。
最後は空音で普通に構えて走った。ゴールした直後、少し赤い顔を翔琉に向けて叫んだ。
「猫又くんのせいで普通の走りが恥ずかしいんだよ!」
「……タイムも平凡だよね」
書き終えた記録用紙を見て侑は呟いた。
反復横跳びは淡々と進んだ。時間は二十秒と短く、地味な動きの繰り返しで盛り上がるところも無かった。その中、翠響は慣れた動きで好成績を叩き出し、僅かに侑の記録を上回った。
鴇波 羽衣
はトレイに乗せた蜂蜜レモンを参加者の元へと運ぶ。
「お疲れ様でした!」
労いの言葉を掛けて全員に配る。飲み終わるのを笑顔で待ち、羽衣は速やかに紙コップを回収した。
翠響はポニーテールに結び直す。羽衣はもう一つの言葉を口にした。
「おめでとうございます!」
翠響には反復横跳びの功績で
特典
が贈られ、その場で注文したフルーツジュースが無料となった。
適度な運動の後もあり、テントの中の喫茶店は人で溢れた。
鴻は注文を取りにきた
鴇波 羽衣
にヘルシー唐揚げと豆腐スムージーを頼んだ。瑠樹は味が気に入ったのか。真っ先に蜂蜜レモンを口にしてライスバーガーを追加した。
翠響はメニューを眺めていた。通り掛かった
十文字 若菜
を呼び止めて、豆腐パンケーキ蜂蜜ナッツ風味を注文した。
空音は喫茶店を利用しなかった。逆に目玉キャンディーを陸上部の面々に配って回る。
「1年1組も喫茶店をやってるんだよ! 運動で疲れたら遊びに来てね!」
「もう少しのんびりしようぜ」
「まだ喫茶店は終わってないんだよっ!」
空音は翔琉の背中を無理矢理に押して戻っていった。
続々と入る注文に調理場は慌ただしさを増す。主任を自称した
宇佐見 望月
は同時に幾つもの調理を担当して回るように動いた。
砲丸投げの姿を彷彿とさせた。
望月は簡易コンロの上のフライパンを適度に揺する。焼いた鶏の皮から油が染み出す。その間に状況を把握して厚めのビニール袋に適量のおかきを突っ込んだ。目に付いた拓郎を急いで呼び止めた。
「唐揚げの衣が切れたんだ。この袋ごと殴って衣にしてくれ。誰かの顔を浮かべれば憂さ晴らしにちょうどいいぜぇ」
「それも、いいか…」
拓郎は無表情でビニール袋を殴った。何発も連続で入れておかきは粉砕されていく。恐ろしい一面を見たかのように制止の声が少し遅れた。
「ありがとな。助かったぜ」
望月は見事に砕けたおかきの中に下味を付けた鶏肉を入れて適度に揉んだ。それをフライパンに投下して表面を狐色に炒めていく。最後は蓋をして蒸し焼きにした。出来上がった唐揚げは紙の皿に手早く盛り付けた。少し無骨な見た目はとろみのある甘酢を掛けて品よく纏める。
「ヘルシー唐揚げの完成だ!」
羽衣が笑顔で取りに来て机に運ぶ。
望月は別のフライパンを持ち出し、豆乳を入れた。煮え立つ手前で酒粕を少しずつ入れて木べらで馴染ませる。適宜、調味料を追加して解したシラタキを入れた。手早く混ぜ込んで何回かフライパンを振って上下を入れ替えた。
「ここに卵が入ればなー」
思わず口にして、予算、予算、と自身に言い聞かす。
その時、ミキサーに目がいった。
「豆腐スムージーがあったんだ!?」
冷凍物を入れた発泡スチロールの箱を開くと冷凍フルーツが切れ掛けていた。おからクッキーの残量も僅かになっている。
隣にいた真央に切羽詰まった声で助けを求めた。
「真央ちゃん、クッキーがピンチなんだ。なんとか出来ないか」
「皆で準備した参加者用のクッキーが足りないのだ? わかったのだ、材料はあるからこっちで作るのだ!」
「ありがとな。あ、いいところに来た春彦ちゃん。大至急、食堂から冷凍フルーツを持ってきて欲しいんだ」
「大至急っすね。宇佐見先輩、任せてくださいっす」
楢木 春彦
は弾丸のように飛び出す。瞬く間に人混みへと姿を消した。
スポーツテストを終えて少し暇が出来た。侑はぶらぶらと歩いてホワイトボードの前で立ち止まる。見比べるような目の動きで何気なく呟いた。
「……きりのん先輩と冴木先輩、どっちが凄いのかなー」
「もちろん俺だ!」
耳にした竜司が自身に親指を向けて言い切った。
「若干、記録で差はあるかもしれないが竜司に負けた覚えはない」
桐野 正也
は副部長の威厳を前面に出す。当然、竜司も負けてはいない。正面から睨み合う。
「五十メートル走と言いたいところだが、俺が圧倒的に有利なんで上体起こしで勝負だ!」
「望むところだ。タイムなしの耐久戦で先にギブした方の負けな! 大勢の前で醜態を晒してやるぜ!」
「あのー」
侑を無視して二人は競うようにブルーシートで仰向けになった。雄叫びを上げながら上体起こしを始める。
竜司は快調に飛ばす。一気に回数で引き離し、精神的な有利に立とうとした。
「ふははは、桐野! 副部長の力はそんな程度か!」
「果てのない戦いで勝ち急ぐ愚か者が!」
正也は同じリズムを刻む。これ見よがしに笑って見せた。
二人は延々と回数を重ねる。滴るような汗でどちらも目が充血した。
「桐野、負けを認めろ。下手に粘るな」
「耳元で騒ぐな。見苦しい。ついでに腹筋切れろ」
幼稚な言葉でも遣り合う。
同じ陸上部に所属している
郡 トモエ
が近場で見ていた。二人の遣り取りを目にして少し引く。
「あれがデモンストレーションなら、うちは遠慮したいわ」
二人から徐々に遠ざかり、いいよね、と明るく言って賑わう場所を目指して歩いていった。
テントの喫茶店では注文した品が全員に行き渡った。
瑠樹はライスバーガーに齧り付く。口を動かしながら蜂蜜レモンを飲んだ。
「どれもおいしいねぇ!」
「そうか。俺のもいけるぜ。作り方を聞きてぇくらいだ。腹に余裕があればスイーツも頼むか」
鴻の問い掛けに、うん、と食べ終わる前に笑顔で答えた。
結梨亜・カールシュテイン
は手帳を開く。調理場にいた真央に質問して得た内容に目を向ける。
『ライスバーグのライスは前日に百五十個分を用意した。作り方は二リットルの円形のペットボトルを一センチ幅にカット。中にご飯を詰めてラップで包み冷凍した。
中に挟む豆腐バーグは豆腐と鶏ミンチで作られている。七味が効いた甘辛のたれを練り込んでいた。
おからクッキーは部活動に使う道具をモチーフにして個々にチョコペンで模様が描かれていた。三百食分は驚きの数である。
今回、使用した豆腐は六十丁にも及ぶ。その労力は想像を絶するものがあった』
「あとは帰って考えましょう」
結梨亜は平らげた紙皿やコップに向かって手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
笑顔で席を立つのだった。
その頃、ブルーシートでの戦いは終わりを迎えようとしていた。油が切れた機械のように二人は上体を起こす。相手を罵る元気もない。
正也は白目を剥いて口を開ける。魂が抜け出そうな程の死相に見舞われた。
最後は共に震えて上体が上がらず、後ろに倒れ込んだ。その姿で起き上がることも出来ない。竜司が顔を横に向けると正也は疲れた表情で笑っていた。
竜司は手を伸ばす。正也も震える手を引き摺る。二人の手は合わさって熱い握手を交わした。
「フッ、さすが副部長、やるじゃないか」
「良い勝負だったぜ。さすが、竜司だな」
ブルーシートに溜まった汗が二人を輝かせた。侑は近づいて上から覗き込む。
「あのー、そこまでやって身体は大丈夫?」
「俺は、あれ? 起きられない!?」
「竜司、冗談は、マジか!」
二人は裏返った亀のようにもがく。スポーツテストを受けに来た人々が三人の元に集まってきた。
神野 マキナ
と
葉月 朱真
は並んで歩いた。押し寄せる人波に朱真は翻弄される。時に飲まれて流されそうになる度にマキナが掴んで引き寄せた。
その都度、朱真は金色の髪を震わせて言った。
「わたしの身長は関係ないぞ。混雑が度を越えているのだ」
「わかっているよ。さすが葉月さんだね」
「少し引っ掛かる物言いだが、わかればいいのだ」
第一グラウンドが間近となった。先の方に仮設テントが見えている。接客で動いていた
十文字 若菜
と目が合った。マキナは顔の高さに手を上げた。
「マキナさん来てくれたんですね! 喫茶店の席は空いていますよ、こちらです。あ、いらっしゃいませ!」
「順番が逆だね」
そこに笑顔の
鴇波 羽衣
が駆け込んできた。
「マキナさん、いらっしゃい! 茶色のコートがカッコイイね」
「褒め言葉として受け取っておくよ。二人に紹介するね。こちらは葉月朱真さん、寝子高のOGでぼくの元クラスメイトだよ」
「紹介の通りだ」
途端に表情を引き締める。若菜と羽衣は簡単な自己紹介をにこやかに済ませた。並んだ二人を前にして朱真は羽衣に目を向ける。
「山椒は小粒でもぴりりと辛い。これからも強く生きていくのだぞ」
「え、えっとー、頑張ります!」
テントの席へと案内される途上で朱真は立ち止まった。
「このスポーツテストというのは何だ?」
横手にあったホワイトボードに目をやる。貼り出された紙の内容を読んで不機嫌な顔付きとなった。
「スポーツ関連にはろくな記憶が無いぞ……」
「ここで頑張れば良い記憶が作れるかもね」
マキナは気楽に笑って言った。
「わたしはスイーツの栄養価の方に興味があるのだ」
「惜しいな。運動すれば背が伸びるかもしれないのに」
マキナは一足先に席に着いた。遅れて朱真がちんまりと座る。小難しい表情にマキナは笑みを作った。
「小さい葉月さんも可愛らしくていいけどね」
「わ、わたしの成長期は終わっていない。これからだ」
「今後が楽しみだよ」
マキナは若菜からメニューを受け取った。個々に簡単な説明が書かれていた。
「フルーツジュースと野菜のシフォンケーキを注文するよ。葉月さんはどうする?」
「わたしは甘そうな豆腐パンケーキ蜂蜜ナッツ風味にしよう」
「急いで持ってくるね」
羽衣が調理場に向かうと若菜は丁寧に頭を下げた。
「マキナさん、朱真さん、ごゆっくりどうぞ」
二人が下がった後、マキナは想い焦がれるような表情を作った。
「甘酒のクリームは珍しいね。美味しいのなら自分でも作ってみたいな。その時は葉月さんにもごちそうするよ」
「甘めで頼むぞ」
朱真は青い瞳に希望を託して言った。
人々で賑わう中にいて
三宅 葉月
はスケッチブックを小脇に抱えて一人の時間を静かに過ごしていた。ゴシック調の服は全体が黒く、部分的に白い。フリルの重なりは重厚でいて歩くと軽やかに舞う。
気ままに歩いて目に留まったものをスケッチブックに描き出す。時に繊細に、時に大胆に。本人の表情からは伝わらない感情の起伏を絵が伝えていた。
ある一人の人物の動きに緑の瞳が同調した。左から右に流れて目が戸惑う。足早に歩く人物を見失ってしまった。
葉月は花壇の一部にふわりと腰を下ろす。スケッチブックを開いて絵を描き始めた。毅然とした横顔は先程の人物で服の細部まで再現された。
一人の男の子が足を止めた。葉月の横にきて絵を見る。
「お姉ちゃん、絵がじょうずだね。画家さんみたい」
「まだ画家ではないわ」
「じゃあ、絵かきさんだね」
男の子は自信たっぷりに言った。葉月は何も答えない。画家と絵描きの違いに内心で迷っているのかもしれない。
急に男の子はポケットを漁り始めた。取り出した金券のにゃっぽを笑顔で差し出す。
「ぼくの似顔絵を描いてよ」
葉月は受け取らなかった。男の子は手を引っ込めないでにこにこと笑っている。
「……そこに座って」
にゃっぽを受け取ると手前の地面を指差した。男の子は座って両足を胸に抱えて笑った。
「これでいいかな」
「そうね」
葉月はスケッチブックの頁を捲り、新たに描き始めた。何もない白い世界に座っている男の子が現れた。腕白な表情で両足を抱えている。走り出したい衝動を抑えているような姿に見えた。
「これで、どうかしら?」
男の子に描いた絵を見せる。姿勢を崩して四つん這いで近づいた。
「画用紙の中でぼくが走っているみたい!」
葉月は自作の絵と向かい合う。長い時間、男の子は白い世界に座っていた。その間に胸の中で好奇心が膨らみ、我慢の限界を迎える。あとは頭の中で男の子は元気に走り回った。
「本当ね。私にも見えたわ」
いつの間にか、通りの人の流れが悪くなっていた。男の子の後ろに列が出来ている。手には金券のにゃっぽを持っていた。新たに列に加わった若者が葉月を見てスマホを取り出す。何かを入力しているようだった。
葉月は男の子に絵を渡した。
「お姉ちゃん、ありがとう。大事にするよ!」
走り去る小さな後ろ姿を横目にして、次は誰かしら、と葉月は口にした。
多くの人が訪れて全てに対応した。葉月はゆらりと立ち上がる。少し疲れた表情で南校舎へと入っていった。
混雑する廊下の先に黒い絵を見つけた。近づくとそれは看板で箒に跨った魔女の切り絵になっていた。
葉月は導かれるような足取りで入っていく。黒い魔女に扮した
緋紅朱 赫乃
が静かに近づいてきた。
「…こちら、に、どうぞ……」
赫乃に案内された席は窓際の奥であった。葉月はテーブルのメニューを引き寄せて、星座セットと紅茶を注文した。
「私の星座は獅子座よ」
「…わかり、ました…少々、お待ち、ください……」
葉月はそっと目を閉じる。等身大の人形となって時を過ごす。
「……お待たせ、しま、した…」
赫乃の声で人形に生命が吹き込まれた。葉月は瞼を開けた。注文した品がテーブルに並んでいる。緑の瞳を横手に向けた。
その場に赫乃がとどまって顔を赤らめていた。
「……あ、あの、美味、しく、なる…呪文は…なくても、いい、ですか…」
「その方が魔女らしいわ」
赫乃は明るい表情で頭を下げた。
葉月は紅茶のカップに口を付けた。パンケーキをフォークで切り分けて食べる。
視線を上に向けた。蛍光灯に貼られた青いセロファンには白い星が描かれ、照明の光によって宇宙に流れた。
葉月は再び目を閉じた。顔がゆっくりと上向いて心持ち腕を広げる。
心は宇宙を旅しているのか。未知の何かを描くように微かに指先が動いた。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
黒羽カラス
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
学校生活
定員
1000人
参加キャラクター数
145人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2015年08月22日
参加申し込みの期限
2015年08月29日 11時00分
アクション投稿の期限
2015年08月29日 11時00分
参加キャラクター一覧
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