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【寝子祭】歌って踊って楽しんで
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<中庭メインステージ>
・
パフォーマンス大会
:ステージ上で、歌、踊り、一発芸など
北校舎の空いた教室に
冬月 詩歌
がぽつんと立っていた。心細い気持ちを紛らわすように適当に歩く。その足取りは重く、楽しいという雰囲気ではなかった。
「にっこりなの」
人差し指を立てて唇の端を上に押す。その姿でスキップして転びそうになった。
「……寂しくなってきたの」
頭の上に乗せていた
白猫の縫い包み
を下ろして胸に抱える。
「シロ、酒浸さんが来ないの」
話し掛けて白猫を耳元に近づける。ふんふん、と何度か頷く。そうなの、と話を進めたところで教室の扉が勢いよく開いた。
酒浸 朱蘭
が白い箱を二段重ねにして飛び込んできた。
「悪い悪い、こんなに遅くなるとは思わなかったぜ」
「悪い子なの。めーなの」
「ごめんな。そうそう、ようやく今日の舞台衣装が届いたんだ。あたしも間に合わないかと思ってヒヤヒヤしたぜ」
朱蘭は箱を机に並べて置いた。表面には名前が記されていた。
「あたしも初めて見るから楽しみだぜ」
自分の名前の箱を開けて倍の速さで閉めた。
心なしか息が荒い。酔っ払いとは別物の顔の赤さになった。
横で見ていた詩歌が少しひしゃげた箱を見る。
「中に赤いものが入っていたの」
「……あたしの見間違いじゃないんだな」
「私の箱も開けてみるの」
耳にした瞬間、朱蘭はぎこちない笑みで言った。
「これは舞台衣装だからな。普通の服より派手なのは仕方ないんだぜ」
「むぅー、そこまで心配しなくていいの。私は大人で高校生なの」
「高校生は大人じゃねぇだろ? お、おい、開ける時はゆっくりな。深呼吸をしながらだぜ?」
朱蘭は身悶えるような表情で行動を見守る。
詩歌の手で箱は開かれた。青い服が綺麗に折り畳まれた状態で収まっていた。頼りない紐のような物が見える。
「水着が入っているの」
「この季節にしちゃ、ちょっと肌寒い仕様だよな!」
朱蘭は表情で大いに笑った。隠れて目尻を指先で拭う。
「……この衣装は恥ずかし過ぎるの。ハードルが二十メートルなの」
詩歌は取り出した衣装を両手で掲げて震えている。慌てて朱蘭が説得に入った。
「で、でもさ、ドレスで演奏することを運営に届けて受理された訳だよな。今からの変更は絶対に無理だぜ」
「それでもこれは厳しいの~」
「じゃあ、弟子入りの条件になっていた約束を果たすぜ。それならいいよな、師匠」
詩歌は手にした衣装をじっと見る。少し口を尖らせて言った。
「緊張しなくなる方法って本当に効くの?」
「ウソじゃないぜ。まずは着替えてステージに立たないとな!」
「まだハードルは二メートルあるの」
むくれた顔で詩歌はもそもそと制服を脱ぎ始めた。その横で朱蘭も顔を赤くして衣装に着替える。
着替え終わった二人は汗拭き用のバスタオルを身体に纏う。
「楽器は持ったな。じゃあ、中庭のステージまでダッシュだぜ」
「寝子祭が運動会になったの」
頬っぺたを膨らませる詩歌を朱蘭が宥めた。
それなりに覚悟を決めた二人は教室を飛び出していった。
中庭のメインステージにはすでに多くの観客が集まっていた。ほとんどが立ち見で一部に設けられた椅子には年配者や子供が座っている。
夏神 零
は欠伸を噛み殺してステージに向かう。
「……さすがに、眠いでござるな」
潤んだ目を手で擦りながらステージの裏手に回った。
吉祥寺 黒子
と
壬生 由貴奈
が待機していた。
「夏神、始まる前にそれで大丈夫か」
黒子は白いボサボサの髪を指で梳かす。白い半袖シャツの胸元は大きく開いていた。チェック柄の短いスカートからは黒いガーターベルトが僅かに見える。
挑発的な格好を前にして零は朗らかに返した。
「少し眠気があるだけで体調に問題はないでござる」
「喋り方だけじゃなくて、そういうところも武士っぽいよな。それよりエントリーした奴はまだ来ねぇのか」
「何かあったのかなぁ。少し気になりますねぇ」
壬生 由貴奈
は緊張感のない声で周囲に目をやる。来ましたぁ、と明るい声を出した。
酒浸 朱蘭
と
冬月 詩歌
の二人がバスタオルを纏った姿で走ってきた。
「ごめんなさい、すぐに用意します」
「まだ方法を聞いてないの」
詩歌は朱蘭のバスタオルの一部を指で突っついた。
緊張している様子に黒子は笑って胸を張る。
「じゃあ、俺達は先にステージに行って場を大いに盛り上げておくか」
「大盛りじゃなくて小盛りでいいの」
「まあ、心配するな。悪いようにはしないぜ」
黒子はステージに向かった。
「心強い仲間を信じるでござるよ」
「そうですよぉ。でも気を張りすぎると疲れちゃうから程々にねぇ」
零の後に由貴奈が続いた。
二人は纏っていたバスタオルを脱いだ。
「詩歌、これを飲めば緊張はなくなるはずだ」
酒浸が手にしていたのは
瓢箪
であった。表面には朱で『水』と書かれていた。見るからに胡散臭い代物に詩歌は指差した。
「その中にはお酒が入っているの。時代劇で見たことあるの」
「これは酔える水で酒じゃない。だから合法なんだ。それにな、海外の演奏者も緊張を和らげる目的で酒を飲んだりするんだ。効果は絶対にあるぜ」
「……飲んでみるの」
「そうだ、その意気だ。あたし達の演奏を成功させようぜ!」
瓢箪の栓を抜いて詩歌に渡す。空いた小さな穴に口付けて一気に呷った。ラッパ飲み状態で、ぷっふぁー、と大きな息を吐く。
豪快な飲みっぷりに酒浸の目が泳いだ。
「詩歌、意識はあるな?」
「グルグルパワーなの!」
詩歌は腕をグルグルと回す。目もグルグルに回っているのかもしれない。瞬く間に興奮状態に入った。
酒浸も瓢箪の中身を飲んで程良く肩の力が抜ける。
ステージからは黒子の威勢の良い声が聞こえてきた。
「それじゃあ、そろそろ始めるぜ! 俺のように妖艶じゃねぇが、十分に目の保養になる美少女の演奏を堪能しな!」
拍手と歓声が沸き起こる。それがステージに立つ合図となった。
酒浸と詩歌は楽器を手にステージに上がった。歓声はどよめきに変わる。指笛が盛んに鳴らされた。記者として紛れていた
音無 文
も興奮した様子で手帳に書き殴る。
黒子も二人の姿にテンションが上がる。握ったマイクに吠えた。
「愛らしい美少女が本気になったぜ! ヘソが丸出しだ! この季節には寒過ぎる格好が見る者の心を熱くさせる心憎い演出だ! こりゃ、演奏に大注目だぜ!」
二人の胸は大きなリボンで隠されていたが肌の露出は激しい。スカートの丈は短い上に広がって赤と青の朝顔のようであった。
詩歌は赤ら顔で用意された譜面台の前に立った。斜め後方では心配そうな目をした酒浸がフルートを水平近くに掲げる。
詩歌はヴァイオリンに顎を乗せた。構えた弓がプルプルと震えている。僅かに弦に触れて嫌な音を立てた。がんばってー、と子供の声が飛んできた。応援の意味を兼ねた拍手が起こる。
詩歌は楽譜を見ながらヴァイオリンを弾き始めた。動作と同じで音が少し硬い。酒浸はフルートの音を重ねた。全体の音色が豊かになる。
観客のささめく声が消えた。伸びやかなヴァイオリンの音がフルートを引き連れて戯れている。
詩歌の身体が滑らかに左右に動いた。軽やかに踊っていた。フルートの優しい音がヴァイオリンに寄り添う。
酒浸は目を細めて楽譜を見た。フルートの音色に身を委ねた。
少し赤ら顔の二人は心を躍らせた。穏やかな余韻を残すように演奏を終える。
数秒の静けさが観客の拍手で打ち破られた。
黒子はマイクを強く握り締めて歓喜の表情で叫んだ。
「おいおいおい、初っ端から飛ばし過ぎだぜ! 司会の俺の血まで滾ってきたじゃねぇか! そんなセクシーな二人に盛大な拍手をよろしく頼むぜ!」
観客の熱狂に酒浸と詩歌はぺこりと頭を下げると、逃げ出すようにステージの裏手へと引っ込んだ。
酒浸は顔を紅潮させて詩歌を抱き締めた。
「詩歌、いや、師匠! 本当にありがとだぜ~~!」
「ちょっと苦しい、なの。でも、悪い気分じゃないの」
詩歌は赤い顔で酒浸の背中にそっと手を回す。
「さっさと制服に着替えて出し物を回るんだぜ! 宴会もいいよな!」
「グルグルになるから飲み過ぎには注意なの」
詩歌に窘められた酒浸は舌先を出して笑った。
ステージ裏では
篠崎 響也
がヴァイオリンを静かに弾いている。音の調律に余念がない。
「待たせたな」
神嶋 征一郎
が黒いヴァイオリンケースを持って現れた。響也の手が瞬間的に止まる。
「随分と古臭い格好だな。昔の書生みたいだ」
「その反応は見飽きた」
征一郎はケースを開いてヴァイオリンと弓を取り出した。手早く弾いて響也と短い音合わせをした。
響也はステージの方向を見た。
「じゃあ、行くか」
征一郎は無言で頷いた。胸中ではドイツ由来の幸運のおまじないを唱える。
トイ、トイ、トイ。
薬指が三回、弓のスティックの部分を叩いた。
二人の登場に拍手と歓声が起こる。若い女性達を中心に黄色い声が盛んに飛んだ。
黒子は自身を抱き締めるような格好でマイクに向かう。
「美形と美形の組み合わせの破壊力に若い女性は大変だ! 俺の身体も妙な感じで火照ってきたぜ! さあ、もっと俺達を燃え上がらせてくれ! バッツィーニの作曲、『妖精の踊り』で!」
突き上げた黒子の拳に女性達が狂乱の声を上げた。その凄まじい熱量に当てられた文が同じように叫んだ。
二人は同時に構えた。一瞬でステージは静まり返る。
響也の深呼吸が一つ。視線を征一郎と目を合わせた。弾ける音で弾き始める。
怒涛のように押し寄せる緊張と興奮が心の中を支配した。
指先に集中だ。間違いは許されない。練習の成果を見せるんだ。
弾きながら目が征一郎を捉えた。傲慢な顔で笑っていた。鋭い音を放って観客の心を切り刻む。
荒々しい挑戦者の目で響也は曲に打ち込んだ。
音の調和だ。あの時を思い出せ。神嶋の水色に俺の橙色を合わせるんだ。
まだ足りないぜ。流れるように、時には舞うように。妖精のように俺の音よ、軽やかに踊れ!
相棒の渾身の演奏に征一郎は音で応えた。
狂想的に音が躍る。怠惰な流れには妖しい魅力を垂れ流した。
青い炎が静かに燻る。そこに響也が音を叩き込んで火勢は一気に強まった。
技巧を尽くして弾く征一郎の目が優しくなる。心は穏やかな時を迎えていた。
これが共感覚の色彩なのか。楽しくて無心に弾いていた昔を思い出す。何故なのか、結城の姿がちらつく。曲のイメージのせいなのか。
思考が途切れた。二人の音が一斉に止まる。
呆けたような観客からパラパラと拍手が起こり、盛大な音へと変わった。
響也は空を見上げるような格好で息を弾ませている。
「成功だよな」
「拍手の通りだ」
征一郎は先にステージから下りた。響也が追い掛けて声を掛ける。
「一緒に弾けて楽しかった」
ステージ裏で征一郎が振り返った。
「自分も悪くはなかったぜ」
歩き出そうとした直後に響也は早口で言った。
「お前に貰った曲の深海。今度、聞いて欲しいんだ」
「篠崎の深海を期待している」
二人は別々の方向に歩いていった。
三人の司会がステージの端に集まる。
吉祥寺 黒子
が二人に顔を寄せた。
「どうするんだ」
「そうだねぇ。吹奏楽部の人達の用意が終わるのを待てばいいんじゃないのかなぁ」
壬生 由貴奈
は自身の提案に頷く。即座に黒子が反論した。
「待てねぇから聞いてんだよ。熱気が冷めちまうぜ」
「僭越ながら拙者が間を持たせるでござるよ」
夏神 零
は笑みを浮かべてステージの中程に立った。観客を見回すようにして一人の少女に目を留める。
「その鍛えられた身体を活かして飛び入り参加する気はござらんか」
「わたしのことよね?」
篠原 翠響
は自身を指差す。その通りと零は頷いた。少し考えている間に周辺のざわつきが大きくなる。
「やってもいいけど、ボールがいるわ。このくらいの大きさでいいわよ」
翠響は両手を使ってボールの大きさを表した。
「それならば用意できるでござる」
零は参加者の一人にパフォーマンスで使うバスケットボールを借りた。ステージ上で受け取った翠響は何度もボールを突いた。観客の中から、バスケットかな、と声が聞こえた。
直後に真上にボールを放り投げた。翠響は不規則な回転を繰り返し、片足を上げた状態で制止した。ボールは太腿と脇腹の間で受け止められた。予想を裏切る新体操の技に観客は惜しみない拍手を送った。
少し冷静になった文が手帳の内容を黙読する。
『ハイテンションの司会の声で現れた二人の美少女は、自分自身がプレゼントのようなリボンを巻いた格好で登場した。可愛い見た目ではあるが、キワモノの印象が拭い去れない。その中で演奏が始まった。良い意味で期待は裏切られた。観客をうっとりとさせる優しい音色であった。
次の二人は登場しただけで女性達から黄色い声が飛んだ。演奏はあまりに凄すぎて意識が途切れ途切れになって、ここはあとで書きます!
飛び入りの少女には驚いた。バスケットボールで新体操を演じて見せた。ボールを投げて回転技を入れたり、プリマのように足を開いて跳んだりと、ステージ上を伸び伸びと動き回る』
書かれた内容に文は、どうでしょう、と苦笑に近い顔で呟いた。
「見事ね」
森 蓮
に誘われた
芽森 菜々緒
は離れたところで翠響の動きを見ていた。異性との接触を嫌った結果である。
同じく声を掛けられた御陵 優妃は部屋で布団の中に包まっていた。寒さに耐えるかのように丸くなっている。たまに顔を出して潤んだ灰色の瞳を時計に向けた。
「……私には、無理…人が、たくさんいる、ところは、まだ……」
布団を頭から被る。その姿勢でいつの間にか浅い眠りに就いた。
若者に交じって
架神 十字
が先を急ぐ。仕事の合間を縫って来たのか。グレーのスーツをかっちりと着こなしていた。汗ばんだ顔で眼鏡を押し上げて歩いた。
目印となる噴水の向こうに大きなステージが見えてきた。観客の数も相当であった。その中に恰幅の良い
吉田 熊吉
を見つけて声を掛ける。
「お久しぶりです」
「これは先生、もしかして森の演奏を聞きに来たのですかな」
「はい、そうです」
二人の話を側で聞いていた日光瀬 きららが好奇の目を向けてきた。
「先生は高校の先生ではありませんね」
「お前はいきなり何を言い出すんだ。先生に失礼だろうが」
「何故ですか。わたくしは知りたいのです。疑問が目の前にあるのに無関心を装って無視しろとおっしゃるのですか」
「俺はそんなつもりじゃなくてだな。その、あれだ」
考えながら言葉を選んでいるのか。熊吉の話は要領を得ない。代わって十字がにこやかな顔で答えた。
「僕は精神科医で森さんに誘われて演奏を聞きに来ました。これであなたの疑問は解決しましたか。それでは今度は僕の疑問に答えてくれませんか」
「いいですよ。わたくしが答えられる範囲になりますが」
「あなたの名前を教えてください」
きららは笑みを作った。
「面白い切り返しですね。わたくしは日光瀬きららと言います。飽くなき知識の探究者を自負しています」
「それでは出会いを祝して僕が日光瀬さんに二重傾聴の話をしましょう」
「それはどのようなものですか」
きららは熊吉を押し退けて迫ってくる。十字は嬉しそうな笑みで語り始めた。
「言葉としては『存在しないが暗示する』という考え方です」
「先生、またややこしい話ですか」
熊吉が困ったような表情で顎鬚を撫でる。きららは目を輝かせて、それで、と先を促した。対照的な二人に十字は微笑んだ。
「例えば吉田先生が生徒に不満を持っていたとします」
「俺を例えに使わないでくださいよ」
「授業中に私語は許されるのですか」
きららの強い言葉に熊吉は何か言いたそうにして口を閉じた。
「例えですよ。話を戻します。不満を持っている吉田先生をコインの表側と仮定します。今度はコインを裏返して『何がより好ましいのですか』と存在しないが暗示している旨を聞くことで行為の主体性が見えてくるのです」
「今回は少しわかり易いですな」
熊吉の言葉にきららが僅かに反応した。今回? と疑問符を口にした直後に十字は話を重ねた。
「実際、来談者がある人との関係に腹を立てていて、一方である出来事には全面的に満足している等、往々にあることです。感情のコインは表裏一体なのです」
「他の話はありませんか」
きららは未知の知識をせがんだ。十字は、そうですね、と何かを思い付いたような表情を浮かべる。
「外在化の対話で『人が問題なのではなく、問題が問題だ』という金言があります」
「なぞなぞみたいな」
「興味深い話です」
きららは熊吉の言葉に被せるように言った。
「例えば日光瀬さんが自分の知識欲について話す際、問題になるのは『日光瀬さんの行動』ではありません。当事者の問題を切り離して考えて『あのような行動』を起こさせた原因を問題とするのです。そうすることで当事者は被害者の観点で問題を客観視できるようになります」
「わたくしは今のままでいいと思っていますよ。話としては面白いですが。他にも関連するような話はあるのですか」
「校長室で文芸部の皆さんが主催している『賢者の館』に僕の書籍がありますよ」
「それもまた興味深い話ですね」
きららが口にした時、近くにいた
神木 直樹
が声を掛けてきた。
「そろそろ演奏が始まるみたいだね。眼鏡の先生、聞かれる前に答えるけど、僕は神木直樹。森君の誘いに乗った一人だよ」
「そうでしたか。それでは皆さんと一緒に演奏を楽しむとしましょう」
十字はステージの方に目を向けた。
ステージの袖から一列になって吹奏楽部の部員が登場した。各自が楽器を持っている。大太鼓は複数で運んだ。最後に
森 蓮
がヴィオラを持って現れた。
大勢いる観客の中程で
野々 ののこ
が飛び跳ねる。
「蓮くん、ヴァイオリンがんばれー」
温かい笑いが起こる。蓮は用意された中央のマイクスタンドの前に立った。舞台の端にいた司会に目礼して観客の方を向く。
「これから吹奏楽部がリヒャルト・ゲオルク・シュトラウスの交響詩『ドン・キホーテ』を演奏します」
「風車に突っ込む人だよね!」
ステージの最前列にいた男の子が鼻の穴を膨らませて言った。側にいた母親がやんわりと注意する。
「その通りです。近世スペインの作家『ミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ』が小説として書きました。
内容を掻い摘んで説明しますと、主人公のアロンソ・キハーノは騎士道小説が好きで昼夜を問わずに読み耽っていました。その結果、現実と物語の区別が付かなくなり、ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャと名乗って旅に出るのです」
一気に話すと蓮は話を戻した。
「今回、皆さんに聞いていただく交響詩『ドン・キホーテ』にはチェロとヴィオラの独奏があります。
チェロがドン・キホーテ。ヴィオラが従者のサンチョ・パンサを演奏で表現します。後ろに控えた大オーケストラにドン・キホーテが立ち向かう構造です。私はヴィオラの担当でチェロは先輩に演奏をお願いしてあります。
吹奏楽部の皆さん、ありがとうございます。コンクールに出られない私に、このような大役を任せていただき、本当に感謝しています」
「なんで出られないの」
母親の手を掻い潜って男の子が聞いてきた。蓮は曇りのない顔で答えた。
「日本の吹奏楽コンクールでは、弦楽器のチェロやヴィオラは使用できない決まりになっているのです。その為、私の公演は限られたところになります」
蓮は観客に向かって一礼した。吹奏楽部の一員に加わると静かな出だしで演奏が始まった。様々な楽器が奏でる穏やかな時に観客も聞き惚れる。
冷静なチェロの音が突然に騎士道に目覚めて激しさを増す。
ヴィオラは慌てた調子を表現して諭すように続く。
全体の音が重なって雄弁に人生を語り、最後は行進するような力強さで華々しく終わった。
夜海霧 楓
は暇を持て余して適当に歩いていた。出し物を目にしても立ち寄らずに素通りを繰り返す。
その時、合奏を耳にした。楓は眼鏡の奥の目を細める。聞きながらステージに近づいていった。
「イベント会場か」
観客の最後尾で僅かな時間、演奏を聞き入った。終わるや否や撤収となった。広々としたステージの中央には新たに司会の一人が立ち、観客に向かって飛び入り参加を呼び掛ける。
その声に引き寄せられるかのように楓の上体が前に傾く。一歩、前に出した足は踏ん張って見えた。実際に心の中は揺れていた。
人目を気にしないで歌いたい。しかし、男の格好だと絶対に目立つ。歌声が女性なのは俺も認めている。性別まで怪しまれて警護に支障が出るのはまずい。
そうだな。男装女子という手があるか。転校して間もない。名前は楓で中性的だ。学校に知り合いも少ない今がチャンスだ。
楓はハンチング帽を脱いだ。髪の毛を存外に掻き毟って念入りに前髪を下ろす。ギリギリの視界を確保して青いニット帽を被った。
人が変わったように観客の中を突っ切った。飛び入り参加だ、と言ってステージに飛び乗った。
吉祥寺 黒子
は持っていたマイクを楓の方に傾けた。
「どんな一発芸でも構わないぜ」
「まあ、なんだ。適当に歌うぜ」
「中央のマイクスタンドを使うんだぜ」
「悪いな」
男装女子の設定は少し崩れていたものの、黒子のおかげで目立たなかった。
楓は静かに歌い始めた。観客には最初、それが歌とはわからなかった。澄んだ高音に鳥達が囀る。仲間と思ったのかもしれない。
声に力を入れて初めて観客は理解した。呆然とした表情で、歌なのか? と自信のない声を漏らす。
流れるような高音に自然の息吹を感じる。聞く者の心が洗われるかのように表情が穏やかになった。
突然、歌が途切れた。観客の態度で楓は自覚したのだ。
「えっと、じゃあ、これで」
楓は逃げるようにステージを下りた。走りながら心の中で自身を怒鳴り付ける。
無駄にハードルを上げておまけに目立って、何やってんだ俺は!
一度として振り返らずに講堂の方へと走った。
鴻上 彰尋
は身を低くして走り抜ける楓の姿を目にした。
楓さんなのか? さっきの歌声はもしかして――。
胸中で気にしながらも突っ走る子供達を追い掛けて南校舎へと急いだ。
最後の飛び入りは空手部で屋台の宣伝を兼ねた瓦割を披露した。その効果はあって観客の何人かは場を離れた。
音無 文
は八重歯を覗かせて手帳に書き込む。不平を漏らす腹を無視して記事に纏めていった。
・
クイズ大会
:真面目なクイズとパンツの色当てクイズの2種類
ステージに教室で使われている机と椅子が運び込まれた。観客の方に向かって横に並べる。
その間にマイクを持った
壬生 由貴奈
と
海原 茂
が腕を組んで立った。
「さぁ、クイズ大会のコーナーがやってきましよぉ。チャンピオンの挑戦権を賭けて戦うのはこの二人だよぉ」
ステージ袖から控え目に入ってきたのは
天之川 麗仁
で用意された席に着いた。
最後は
骨削 瓢
であった。身を屈めた姿で手を前に出し、通るよぃ、と道化のような足取りで椅子に座った。
由貴奈はマイクに向かってのんびりした声を出す。
「クイズは二種類ありますよぉ。お二人はどちらを選択しますかぁ」
実行委員の見回りを果たした
久良木 優菜
が足を止めた。
「クイズ大会ですか」
頭の中に内容を思い浮かべる。
確か真面目なクイズと下着の色当てでしたか。誰の提案なのでしょうか。とんでもない獣ですね。
挑戦者の二人は共に普通のクイズを選択した。優菜は、当然です、と口にした。
直後の茂の言動に眉根を寄せる。
「パンツの色当てに挑戦する者はいないのか」
「それはクイズではなくて、ただの当て物のような気がしますねぇ」
「そんなことはない。一瞬の洞察力と深い見識があって成立する立派なクイズだ」
「まぁ、選ばれなかったので仕方ないですねぇ。では、普通のクイズを始めますよぉ」
軽く流された茂は悔しさを噛み締めて黙るしかなかった。
「寝子島の狩猟期間はいつでしょうか」
ぼそりと優菜が呟いた。
由貴奈は間延びした声で一問目の問題を読み上げる。その途中で瓢が瞬時に答えた。
「正解ですよぉ。でも、よく最後まで聞かないでわかりましたねぇ」
「今日のあっしの頭脳は冴えているのさ」
「ふーん、それならうちも本気を出しちゃおうかなぁ」
「……全くわかりませんでした」
優菜は拳を小さく握る。挑戦者の一人のように悔しさを表情に滲ませる。
二問目は物理の問題で麗仁が正解となった。三問目は化学。連続で答えて引き離しに掛かる。
「あっしの負けでいいよぃ」
瓢は笑って立ち上がる。
突然の試合放棄に優菜は困惑の色を隠せない。何故、と口走って動向を探るような目付きになった。
瓢は側にいた由貴奈の耳元に口を寄せる。相手にだけ聞こえる声で言った。
「問題用紙を盗み出したからばれたのかい?」
「それも一つの要素ですねぇ。決定打は一問目が引っ掛け問題で、最後まで聞かないと答えがわからないからですよぉ」
「解答権を得てから考えるってパターンもあるよぃ」
由貴奈は楽しそうに笑った。
「早く答え過ぎたのですよぉ。そこでうちが頭の中で問題を作ってみましたぁ」
「あっしの完敗だねぇ。おたくのような曲者の方がパンツの色当てに向いてるよぃ」
「そんな趣味はありませんねぇ」
瓢は嘲笑に似た笑みで去っていった。
「何がどうなってそうなるのですか!」
優菜の耳には何も聞こえない。ステージの上で二人が楽しそうに会話している姿が全てであった。
最後はチャンピオンの茂と挑戦者の麗仁の一騎打ちとなった。
「行きますか」
優菜は疲れ切った顔で歩き出した。
その後、あっさりと勝負は決まった。時間が押しているという理由で一問目が最終問題となり、博識で勝る麗仁が勝利を収めた。
景品は茂から直々に渡された。
「おちこぼれ姫シリーズ一式を贈呈しよう。受け取るがいい」
「……はい、ありがとうございます」
旅行ガイドとは思えない装丁に恥ずかしそうな表情で受け取った。
・
シャウト大会
:2つのテーマの一方に沿ってマイクで叫ぶ
城山 水樹
はOGとして寝子祭を純粋な気分で楽しむつもりだった。
何故か表情は暗い。出し物を回る程に活気を失っていく。俯き加減で歩く姿は小さく見える。人波に消えてしまいそうであった。
水樹は赤いレザーコートの合わせ目を両手で寄せて強く握る。寝子祭は過去の出来事をまざまざと頭の中に思い出させた。
一年の時、クラスの出し物はホラーハウスだったわ。私は口裂け女の配役に決まったのよね。演技に磨きを掛けて当日に臨んだわ。それはもう大盛況であの時の気分の高揚は今でも胸を弾ませる。幼稚園児は大泣きで腰を抜かした子供もいたわね。そう、それが原因で先生に酷く叱られた。口裂け女が子供のご機嫌取りをする方がおかしい、っていう私の主張は通らなかったのよね。
でも、良いこともあったわ。人生で二度目の恋が実ったのよ。ホラーハウスの準備の時に一緒になった彼との距離が急速に縮まったわ。元々が意識してたから恋人関係になるのは早かったよ。その年のクリスマスに誰もいない彼の家で私の初めてをあげたわ。ま、三年生の夏休みの終わりまでのお手軽な恋だけどね。
二年の時の前夜祭は良かったわ。ミスコンの水着部門でまさかの優勝だからね。思い返せばあれが一つの起点になるわ。人に注目されて、それが病み付きになったのかな。大学に入っても派手なことがやめられなかったわ。その年に友達と遊びに行った渋谷でモデルにスカウトされて、今の自分を作る切っ掛けになったのかもしれない。
それで今は……。
「私らしくないわね」
少し顔を上げた。それに伴って背筋が伸びる。少し明るさを取り戻したように見えた。
そこに横から声が飛んできた。
「そこのお姉さん、ストレスで死にそうな顔してるぜ! ここで声をぶちまけて、すっきりしていこうじゃないか! きっと気分は今日の空のように晴れやかになると思うぜ!」
吉祥寺 黒子
の挑発的な台詞に水樹は足を止めた。
「生意気な後輩ね」
水樹は黒い髪を靡かせてステージに向かう。観客は慌てて左右に逃げた。間に合わない者は胸を押し付けられ、弾け飛ぶように避けた。
ステージの黒子は腰を折り曲げて迎えた。
「さすが寝子高のOGだぜ! 見せ付けてくれるじゃねぇか!」
「段差があるわね。ちょっと胸を貸しなさいよ」
「手じゃねぇの、ひゃっ!?」
水樹は黒子の胸を掴んでステージに上がった。
「ぼけっとしない。次はマイクよ」
「あ、どうぞ」
「それで何を叫べばいいのよ。早くしないと危ない三文字を叫ぶわよ」
黒子は慌て気味で説明した。二つの叫ぶテーマを聞いて水樹は一つを選んだ。
「少し気合を入れるわ」
着ていた赤いコートを脱いだ。南国を思わせる肌の露出に男性の観客は沸きに沸いた。
その中、水樹は大きく息を吸い込んだ。豊満な胸が迫り出し、観客は吸い寄せられるように前傾姿勢となった。
「私の中で未だに癒えない失恋の傷を乗り越えてー、新たな恋を見つけるわ! 只今、絶賛恋人募集中!!」
あまりの声の大きさにハウリングを引き起こす。本人は至って爽やかな顔で黒子にマイクを軽く投げて返した。
「あなたの言う通りね。すっきりしたわ」
水樹は笑いながらウインクをした。
その他の細々としたイベントを経てステージは最後を迎える。
人混みの中、
乃木 成美
が頻りに右目を動かす。左目には黒い眼帯が付けられていた。仮装と思われているのか。周囲で気にする者はいなかった。
「賑やかだね」
嬉しそうな顔で歩いていると人の頭越しにステージが見える。右目が大きく開いた。何かを納得するように頭が上下に動く。
「鳴さんのライブだよ」
急いで向かおうとして立ち止まった。少し踵を上げて周囲に目をやる。
「ないか」
成美は来た道を途中まで引き返した。記憶を辿るように歩いて屋台に行き着く。
「ジュースを貰えるかな」
「幾つにします?」
そこで成美は声を詰まらせた。
――軽音楽部は何人いるんだ!?
「じゃあ、十本で」
適当に買ったものの、かなりの出費となった。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
黒羽カラス
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
学校生活
定員
1000人
参加キャラクター数
145人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2015年08月22日
参加申し込みの期限
2015年08月29日 11時00分
アクション投稿の期限
2015年08月29日 11時00分
参加キャラクター一覧
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