this frame prevents back forward cache
0
0
はじめての方へ
ヘルプ
ログイン
\ オーバータイム!/
種族
学年:職業
00月00日生 00歳
AAA000000
ホームトップ
おしらせ
新着通知
はじめての方へ
遊び方
世界設定
キャラクター一覧
キャラクター検索
キャラクター作成
らっポ
チケット
コミュニティトップ(検索)
コミュニティ一覧
公式コミュニティ一覧
公開トピック一覧
コミュニティ書き込み検索
シナリオトップ
シナリオ一覧(参加受付中)
シナリオ一覧(すべて)
リアクション一覧
ゲームマスター一覧
ゲームマスター検索
イラストトップ
イラスト一覧
イラスト検索
イラストレーター一覧
イラストレーター検索
自作イラスト一覧
アイテム一覧(検索)
マイリスト一覧(検索)
寝子島(全景)
寝子島(地図)
寝子島(セカンドマップ)
寝子島高校
【寝子祭】歌って踊って楽しんで
<< もどる
1
…
14
15
16
17
18
…
22
つぎへ >>
・
演劇部
:演劇「不思議の国のアリス」、講堂
「掛け持ちだから、ちょっとお願い」
「気にしなくていいよ」
1年4組の皆は口々に言って
恵御納 夏朝
を快く送り出した。
道を急ぐ途中、夏朝は宣伝に打って出る。
「1年4組では『星空と魔女の領域』という喫茶店をしています。魔女達が提供する素敵なサービスをご堪能できます。講堂では大胆なアレンジを施した『不思議の国のアリス』を四回に渡って上演します。個性豊かな部員の活き活きとした演技にご期待ください」
子供には内容を易しくして語って聞かせた。
「……間に合うかな」
不安を口にして夏朝は講堂へと突っ込んでいった。
諸々の仕事から解放された
夏神 零
が武道場の前をゆっくりと通り過ぎる。頭が軽く左右に振れて背中の三つ編みが気だるげに揺れる。自身が揺り籠となって眠気を誘発しているようであった。
目だけを動かして講堂を見た。少し遅れて足が止まる。
「確か……」
言葉の続きは胸の裡で語った。
ナスティ殿から演劇を観に来て欲しいと誘われていたでござるな。二役を演じるのであったか。
拙者は体育祭の応援に
複数の役
を演じたでござる。衣装を早くに着替える方法は伝授したが、如何な結果になるであろうか。
滞りなく進む事を祈りながら観るでござるよ。
「少々、遅れたでござるが」
零は神妙な顔で歩き出した。
講堂に用意された椅子のほとんどが人で埋まる。整理や誘導を任された者達が連携して空席の数を大声で伝えた。
舞台の裾から
ナスティ・クローヴァ
が客席を窺う。儚げな灰色の瞳が誰かを探すように動いた。入り乱れる人々に目は翻弄された。
――零さん。
求めていた人物の名を胸中で呟く。その一言が切っ掛けとなり、溢れる想いが静かに胸を満たしていった。
私は衣装のことで悩んでいました。その時、零さんに教えて貰いました。
早着替えの技術を習得する為に私は練習に励んできました。
そして今回、私は二役に挑みます。スケートの舞台とは違う試みに胸が高鳴ります。
零さんも私と一緒に楽しんでくれますか?
この講堂のどこかに来てくれていることを信じて――。
「私は頑張ります」
ナスティは生気の籠った表情で舞台に備えた。
用意された客席は埋まって満席となった。講堂に上演時間を知らせる音が鳴り響き、辺りは緩やかに暗くなる。天井裏の放送室から専門のナレーションが告げた。
「只今より演劇部による創作劇『不思議の国のアリス』を上演致します。上演中は視界が悪くなりますので移動の際は十分にお気を付け下さい。それでは最後まで、ごゆっくりとお楽しみ下さい」
自然な色の照明で舞台が照らし出される。背景に緑の丘が描かれていた。青い流れが見て取れる。水のせせらぎが小川であることを伝えた。遠くでは鳥の囀りが聞こえている。
舞台の右寄りには大きな木がある。その根元にアリス役の
桃川 圭花
がエプロンドレス姿で退屈そうに座っていた。メガネかけてる、と客席の暗がりから声が上がった。
「眼鏡を掛けたアリスなのよ♪」
圭花がアドリブで答えると少しの笑いが起きた。
間を空けずに声がする。
「大変だ、大変だ。時間がない、急がないと遅刻する」
舞台の裾から飛び出してきたのは
ナスティ・クローヴァ
であった。かわいい、と観客から声が掛かる。白い髪を頭頂で二つに束ねてウサギの耳に見立てていた。茶色のコートを羽織り、手には大きな懐中時計を持っていた。通称、時計ウサギである。
「本当に時間がない。早く行かないと大変なことになる」
懐中時計から目を離して再び走り出す。先にはベニヤ板で作った書き割りがある。客席からは盛り上がった土の一部に穴が開いているように見えている。
「近道の穴に飛び込むんだ」
ナスティはウサギらしく、手前でぴょんと跳ねて書き割りの裏に身を隠す。しゃがんだ姿で速やかに舞台の裾へと移動した。
木の根本にいた圭花が勢いよく立ち上がる。舞台の中央に立つと照明が消えてスポットライトに切り替わった。
「今の白いウサギは何? 人間の言葉を喋っていたわ。皆も聞いたよね?」
訴え掛ける表情で観客に向かって両腕を広げた。小さな子供達の声が一丸となって、聞いた、と瞬時に返ってきた。
「あの不思議なウサギは、あの穴に飛び込んだのよね」
指差すと書き割りが光で照らされた。スポットライトを受けた状態で圭花が近づいていく。手前で止まると腕を組んで、うーん、と唸るような声を出した。
再び観客に向かって声を上げた。
「ねえ、皆も考えてよ! あの白いウサギを追い掛けて、この穴に入った方がいいと思う?」
暗がりに向かって個別に指を差す。返ってきた声の大半は穴に入ることを勧めた。中には穴を埋めるという突拍子もない意見が含まれていた。
「そんなことしたら話が終わっちゃうよ~」
圭花の情けない声に笑いが起こる。
「でも、気になるわ」
腕を組んだまま、舞台上を歩き回る。大きな独り言は続く。
「大きな懐中時計を持って、急がないと遅刻する、なーんて言いながら穴の中に飛び込んでいったわ。どこに向かって、何に遅刻するのか、凄く気になるわ」
同意する声が客席から上がる。時間と共に観客も馴染んで舞台の一部に成りつつあった。
「悩んでも仕方がないわ。勇気をもって穴に飛び込めばいいのよ。あのウサギみたいに!」
圭花は自身の頭に両手を添えてウサギの真似をした。
「私は行くわ! 不思議な穴の世界へ!」
圭花は果敢に穴の中へと飛び込んだ。
舞台の照明が一斉に消えて暗転した。次の場面に備えて黒子達が動き出す。
観客席でトワの上体が走っているように左右に動く。隣の彰尋の袖を掴んで引っ張った。
「トワもwhite rabbitいる いっしょに snakeするデス」
「そうだね」
舞台と一体になった演出に彰尋の声も弾んだ。
程なく舞台の中央に立った圭花にスポットライトが当たる。足元には小さな青い扉があった。
圭花は扉を上から見て言った。
「ウサギはこの先に行ったと思うんだけど、今の私だと通れないよね?」
観客の方に困った様子で顔を向ける。通れない、と一斉に声が上がった。その通りと言わんばかりに圭花は大きく頷いた。
「どうにかして通れる方法を見つけ出さないと」
中腰の姿勢になった。手探りの状態で周囲を調べる。今度はしゃがんで四つん這いになって探す。その間に青い扉の後ろに隠した赤黒い小瓶を掴む。
「あ、小瓶を見つけたわ! これを飲んだら扉を通れるようになるんだわ! そうよね?」
圭花は観客に向かって小瓶を見せつけた。赤黒い色に否定の声が多く集まった。
「え、そうかな? 色は悪くても飲めるかもよ?」
悲鳴に近い否定に圭花は、うんうん、と頷いて耳を傾けた。
「私が何も考えていない子供ねー。んー、子供ではあるけど」
圭花は握っていた小瓶を高々と上げた。表情が自ずと引き締まる。
「この舞台では私がヒロインよ! 皆を代表する子供だよ!」
そうだ、と一人の声が上がる。賛同する声が続いて大きなうねりとなった。
「私は立ち止まらない! どんなことにも強い心で向かっていくよ! だって私は皆の代表のアリスだから!」
大きな声援の後押しで圭花は小瓶の蓋を開けた。トマトジュースにイカスミを混ぜた液体を一気に飲んだ。
舞台は暗闇に包まれた。数秒でスポットライトが結果を告げた。
大きな青い扉を背にアリスが悪戯っぽい笑みで立っていた。
「あの小瓶のおかげで小さくなれたわ。さあ、不思議の国の住人に会いにいくわよ」
たくさんの声援を受けた。圭花は声のする方向に手を振った。徐々に明度が落ちて舞台はひっそりと場面を変える。
舞台の中央に書き割りに描かれた大木が現れた。横に伸びる太い枝の上にはチェシャ猫役の
恵御納 夏朝
が着ぐるみ姿でいた。全体の柄は蛍光色のオレンジと白の縞模様。尻尾まで同じで横向きで丸くなっている。実際は絵の裏に置かれた脚立の上に乗っていた。
「夏朝ちゃん、可愛いわ~!」
「理沙、落ち着こうか」
暗がりからの声は両親であった。気付いた夏朝は小さく咳払いをした。間を空けてにやにや笑いを浮かべる顔を観客に向ける。
「やぁ、ボクはチェシャ猫だよ。キミが迷子のアリスだね」
そこで客席から疑問の声が上がった。夏朝は動じることなく笑って聞いている。
「アリスの名前くらいは知っていて当然さ。猫は噂話が好きだから、いろんなところを歩いているのさ。この寝子島にもたくさん猫がいるよね?」
いる、いるよ、と方々から声が集まった。夏朝は笑いながらも誇らしそうに顔を上げる。
「あの猫達もキミ達の名前を噂で聞いて知っているのさ。このボクのようにね」
不満と喜びが混ざったような声を夏朝は笑って聞いている。いつの間にか身体を揺すってリズムを取り出した。
「キミ達の声で身体がムズムズするよ。少し踊ってもいいかな」
いいよー、と子供の声で大合唱。陽気な音楽が流れてきた。夏朝は大きく身体を揺らして歌い始める。
「ボークはチェシャ猫、不思議な存在さ。自由に身体を消せるんだ~♪」
夏朝は脚立を下りて書き割りから顔を出す。
「こーこにいると思えば~、あっちにいるよ」
舞台の右を差して引っ込むと、示した方向に縞模様の手が現れた。黒子の一人が瞬間移動の演出を引き受けていた。
「こーこにいると思えば~、向こうにもいるよ」
歌に合わせて手が反対を示した。すると舞台の左から尻尾が突き出され、ゆらゆらと揺れる。
「あーとは陽気に踊るだけさー♪」
書き割りの大木と脚立が黒子の手によって運ばれた。夏朝は舞台の上で陽気に踊る。時にフラメンコのような振付で観客を沸かせた。
最後は踊りながら舞台の左端に消えて急いで着ぐるみを脱いだ。それを反対側の右端に滑らせるようにして投げた。
「アリス、行き先を選ぶ時間だよ。右に行けば帽子屋のお茶会さ。左は三月ウサギの家だね。アリスはどっちに行くのかな?」
観客の声は二つに分かれた。なるほど、と夏朝は声だけで反応した。
「アリスは帽子屋を選ぶんだね」
夏朝の笑い声を合図に舞台は暗転した。
トワは浮いていた腰を下ろした。隣にいた彰尋に目をやる。
「アキヒロはチェシャキャット できるマスネ」
「演じてみたいけど、どうかな」
「できるマス!」
トワの励ますような声に彰尋は、ありがとう、と口にして微笑んだ。
舞台の中央には白いテーブルクロスを敷いた食卓が用意された。正面を向いて並んで座る二人がいた。
最初に帽子屋役の
壬生 由貴奈
が立ち上がって前に出た。小さな緑のシルクハットが斜めになって頭に乗っている。衣装はライトグリーンと白を基調にしたメイド風であった。胸元には赤いリボンをあしらう。
「やぁ、キミがアリスだねぇ。お名前は聞いていますよぉ。私はしがない帽子屋でございます」
続いてナスティが跳び出した。一人二役で頭には黒くて長い耳が付いた頭巾のような物を被り、紺色の背広を着ていた。
「キミがアイスかい。冷たくて甘そうな顔をしているじゃないか」
三月ウサギらしいおかしな物言いに、ちがーう、と元気な声が重なった。
「アイスではなくてアリスだよぉ。キミは相変わらずだなぁ」
「わかった、わかった。アイスを茶会に誘ってアリスを食べよう」
「逆だよ。キミは本当にやりそうだから怖いねぇ」
どこか調子の外れた漫才に笑い声が上がる。椅子から転げ落ちるような音まで聞こえてきた。
由貴奈とナスティは元の席に座り直した。
「アリスは前の席にどうぞぉ。ここには美味しい紅茶とクッキーがありますよ」
「その通り、遠慮しないでカプチーノを飲みなよ」
「カプチーノなんかないよぉ」
由貴奈がのんびりとした調子で返した。突如、ナスティは腹を抱えて笑い出す。
「紅茶っていう名前のカプチーノかと思ったよ」
「勝手にヘンなものを発明しないでよぉ」
奇妙な遣り取りで講堂には笑い声が絶えない。一定の間を空けて由貴奈が前に顔を突き出した。
「このお茶会が気に入らないと。いつまで続くかって? ずっと続くのですよぉ」
「ほら、アリスは不満な顔してないでアイスを食べなよ」
「キミはアイスのことを忘れなさいよぉ」
噴き出すような声のあと、由貴奈が真面目な顔で前を見た。
「お茶会が長いと困るのですかぁ。大きな懐中時計を持った白いウサギを探しているんですねぇ。教えてもいいですが、ここで問題ですよぉ。鴉と書き物机が似ているのは何故ですかねぇ」
「英語版の言葉遊びだよね」
「キミがまともなことをいうと反対に怖さが倍増しますよぉ。え、アリスは答えがわかったのですか?」
由貴奈は片方の耳を観客席の方に向けて頻りに頷く。焦れたような声が観客席から次々に飛び込んできた。
「なるほど、アリスはパワフルですねぇ。これ以上、ガタガタ抜かすとティーポットに詰め込むぞ、ですかぁ。私は眠りネズミではないのですが、それは勘弁して欲しいですねぇ」
由貴奈は静かに立ち上がる。ゆっくりと歩いて舞台の際に立った。
「仕方ない、白いウサギの向かった先を教えましょう。その前に良いことを教えてあげますねぇ。アリス、あなたの道は一つですよぉ。刺激的な選択がいいかもしれませんねぇ」
舞台が徐々に暗くなる。闇の中で由貴奈の声が静かに語り掛ける。
「お気を付けて、可愛いお嬢さん」
黒子によって書き割りが運ばれてきた。急いで繋ぎ合わせると横に相当に長くなる。用意が終わると暗い状態でナレーションが入った。
「ここは森の奥深くにある牢獄です。ハートの女王に刃向った重罪人が収監されている場所。その中には、ハートの女王からタルトを盗んだ罪で囚人となったハートのジャックの姿もありました」
舞台が光に照らし出される。横長の書き割りには鈍色の鉄格子が描かれていた。その前にはハートのジャック役の
天之川 麗仁
が項垂れた姿で立っていた。白黒のボーダーは見窄らしい囚人服で両方の拳を握り締めて震えている。
麗仁は急に頭を上げた。観客に声の限りに訴える。
「僕は自分の為にしたんじゃない!」
ピアノの鍵盤を激しく叩くような音が響いた。静かに鍵盤を叩く音に歌声を合わせる。
「タルトはただの菓子ではない。国民の涙と汗で出来ている」
麗仁は観客席に向かって掌を勢いよく突き出し、半身に構えて広い舞台の隅々まで歩いた。ピアノの旋律は転調して明るい調子となった。
「独裁者の女王は欠伸交じりにタルトを食らう」
歌詞に合わせて麗仁はタルトを食べる真似をした。気の緩んだ観客席から微かな話し声が聞こえる。
鍵盤を叩く音が激しく、連弾のように複雑な要素を絡めた。
「国民の努力は一瞬で失われた。僕はそれが許せない。女王からタルトを奪って反旗を翻した」
舞台の中央で両腕を広げた。十字架となって高らかに歌い上げる。
「全国民よ、今こそ立ち上がるのだ」
懸命に役に打ち込んだ姿勢に観客は拍手を送る。
その最中、大人数を思わせる足音が聞こえてきた。金属を打ち合わせるような音に、革命軍の襲撃だ、と叫ぶ声が合わさった。勝ち鬨のような声と共に舞台の端から大勢の武装した人間が駆け込んできた。
中の一人が麗仁の前に恭しく進み出て片膝を突いた。
「勇気ある貴殿の行動に感銘を受け、我々は馳せ参じました。どうか、革命軍の指導者として導いて下さい」
「熱い志は受け取った。皆で行こう、女王のいる王宮へ!」
麗仁は大勢の部下の先頭に立った。その場で足踏みを始める。木々を描いた書き割りを黒子が移動させて歩いているように見せた。
進む方向に時計ウサギに扮したナスティが見え隠れする。白ウサギだー、と観客席が俄かに騒がしくなった。
「大変だ、急がないと遅刻する」
気に掛けないでナスティは舞台の袖に引っ込んだ。
「そこの白いウサギ! ちょっと待って!」
革命軍の後ろから圭花が追い付いてきた。スカートを翻して走る姿にアリスコールが起きる。
「任せてよ。私は皆の代表なんだから」
圭花が革命軍を抜き去ると後方から由貴奈が現れた。ティーカップの紅茶を飲みながら、面白そうだから付いていくよぉ、と間延びした声を出した。舞台裏で早着替えを終えたナスティは黒いウサギの格好で付いていく。
間もなく舞台は暗転してナレーションが入る。
「ハートの女王は不思議の国の偉大なる支配者で酷い独裁者。彼女はいつも暇を持て余していました。暇潰しに召使いや兵隊の首を刎ねます。タルトを飽きるまで食べて時間を食い潰していました。今は玉座に座って退屈な日々に不満を募らせています」
舞台の中央の少し高い位置に玉座が置かれ、そこにハートの女王役の
最上 るるか
が頬杖を突いて気だるげに座っていた。真紅のドレスは豪華で血のように赤い。頭頂部の横の辺りをシニョンで丸く結われ、煌びやかなティアラを嵌めていた。
玉座の周りには警護を兼ねた奇抜な格好の者達がいた。周囲に対して警戒の目を怠らない。
るるかは大袈裟な溜息を吐いた。
「あーあ、何か面白いことでも起きないかなぁ」
その言葉に居合わせた全員が首を竦めた。るるかは鼻で笑う。
「アンタ達の首を刎ねて何を面白がればいいのよ。なんなら、試しに刎ねてみる?」
全員が震えるように頭を振った。
「ただの冗談じゃない。この世界ってなんでこんなにフツウなんだろう」
すると観客席から、普通じゃない、という声が沸き起こる。るるかは嘲笑うような顔で手をひらひらと振った。
「皆、よく考えてみてよ。どれだけ刺激的なフシギだって、それが毎日だったら飽きちゃってフツウに思えるよね?」
迷うような声の中、賛成する声が優勢となった。るるかは満足そうに頷いた。
「そうなのよ。だからフツウになったフシギに価値はないのよねぇ。あーあ、面白いことが向こうからドドドーってやってこないかなぁ」
るるかは動きを止めた。微動だにしない状態でナレーションの出番となった。
「アリスにとっては夢と冒険で一杯のワンダーランド。しかし、ハートの女王にとっては退屈な日常でした。そこに革命軍とアリス達が押しかけてきました」
舞台の上はたくさんの人間で溢れた。狼狽える警護の者達とは違ってるるかは楽しそうな笑みを浮かべて宣言した。
「ハートの女王の権限で裁判を始めるよ!」
舞台の左右から巨大な書き割りが斜めの形で押し寄せる。それぞれにはトランプの兵士が大群で描かれていた。あっという間にアリス達は舞台の中央に押し込まれた。
「そこにいるアリスに聞くよ。アナタのフツウを教えてくれる?」
圭花は睨み付けるような目で言った。
「毎日を当たり前のように過ごすことよ。同じ日は一度も無くて、本当はいろんな不思議があるはずなのに気にしないで生きるなんて、私には考えられないわ」
「それなら向こうの世界でフシギを見つければいいのに、時計ウサギを追い掛けてこんなところまで来ちゃったわけね」
るるかはトランプを手にしていた。一枚を詰まらなそうに投げる。同じ動作を繰り返して全てを周囲にばら撒いた。
「ワンダーランドを騒がせた罪でアリスは有罪よ。罰でハートの女王になってよね」
その判決に革命軍は喜んだ。圧政から解放されると笑顔になった。しかし、アリスは否定の意味で顔を振った。
「ハートの女王の言う通りね。私は元の世界で不思議を見つけるわ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。あたしは向こうの世界に行くって決めてるんだから」
るるかは立ち上がるとティアラを外して玉座に置いた。シニョンを手で崩して長い髪になった。その状態でドレスを脱ぐと観客席から驚きの声が上がる。
「アリスと同じ姿になってあたしは向こうの世界に行くわ。さあ、トランプの兵士達よ。アリスの首を刎ねるのよ!」
トランプの兵士の書き割りとアリス達は揉み合いになった。騒乱を極める中、徐々に舞台は暗くなっていった。
先の展開を予想する声で観客席がざわつく。
舞台は燦然と色を取り戻した。緑の丘や小川の流れが見える。元の世界に戻っていた。
舞台の右には大きな木があり、根本には青いエプロンドレスを着た人物が背中を見せて座っていた。
観客席の暗がりから不安そうな声で、アリス? と呼び掛ける。次第に声が集まってきた。
呼ばれた人物は立ち上がる。少し両腕を広げて静かな笑い声を漏らした。
突如、舞台の光は奪われ、ナレーションが語り出す。
「ワンダーランドからアリスは無事に元の世界に戻って来られたのでしょうか。それとも――」
含みを持たせた状態で『不思議の国のアリス』は終演となった。
夏神 零
は紙袋を手に楽屋裏に当たるところを訪ねた。制服姿の
ナスティ・クローヴァ
を見つけると声を掛けた。
「ナスティ殿、お疲れ様でござるよ」
「あ、零さん。私達の劇はどうでしたか?」
「全員が役に成り切っていて見事だったでござるよ。ナスティ殿の早着替えも鮮やかで拙者が指摘する部分はなかったでござる」
零の言葉にナスティは頬をほんのりと染めて、ありがとうございます、と控え目な笑みで頭を下げた。
「その紙袋は?」
ナスティは人差し指を立てて口元に持っていく。
「忘れておった。これは差し入れでござるよ」
「ありがとうございます。こ、これは肉まんっ! 本当に貰ってもいいのですか!?」
「もちろんじゃ。その為に買ってきたのでござる」
ナスティは肉まんから目を離した。零に青い瞳を向けて問い掛ける。
どうしてここまでしてくれるのですか? 零さんの行動を好意と受け止めても――。
「ナスティ殿、拙者の顔に何か付いておるのかのう?」
無表情で返されてナスティは力なく笑った。肉まんを取り出して端に齧り付く。
「……肉まん……大好きです」
伏し目がちの声に零は微笑んだ。
「喜んで貰えて拙者も嬉しいでござるよ」
メインステージの手伝いに回ることを伝えて零は講堂を出ていった。
<< もどる
1
…
14
15
16
17
18
…
22
つぎへ >>
このページにイラストを設定する
シナリオ
シナリオトップ
シナリオ一覧(参加受付中)
シナリオ一覧(すべて)
リアクション一覧
ゲームマスター一覧
ゲームマスター検索
シナリオご利用ガイド
グループ参加ご利用ガイド
シナリオタイプのご案内
【寝子祭】歌って踊って楽しんで
シナリオガイド
リアクション
参加キャラクター一覧
コメントページ
ダイアリー一覧
シナリオデータ
担当ゲームマスター
黒羽カラス
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
学校生活
定員
1000人
参加キャラクター数
145人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2015年08月22日
参加申し込みの期限
2015年08月29日 11時00分
アクション投稿の期限
2015年08月29日 11時00分
参加キャラクター一覧
もっと!