夢で会えたら｜リアクション

夢で会えたら

【１２】いざ、真剣勝負！

　気づいた時、御剣刀は胴着をまとって祖父の道場にいた。
　手には、最近使うようになった『刃引き刀』が握られている。
　つと前を見れば、そこには同じように胴着をまとった祖父が立っていた。
（そうか。噂の夢を見ることに、成功したんだ）
　その姿に、刀は思う。
　彼は、祖父の剣に憧れて、剣術を始めた。
　師匠となった祖父は、自分の技を全て彼に伝えようとしてか、とても厳しかった。
　対して彼も、その祖父に応えようと懸命で、祖父の死後も一人、修行に打ち込んだ。
　寝子島に来てからは、ろっこん絡みの事件で剣をふるうことも多く、おかげで腕は上達しているとの実感がある。
　このまま祖父から教わった剣術を極め、更に自分の剣術を作って行こうと、彼は更なる修行を続けた。
　その結果を、祖父に見てもらいたいという思いが、彼の中にはあった。
　そんな時、夢の噂を聞いたのだ。
　試してみる価値はあると、さっそくやってみた。
　その結果、今この夢の中にいる。
　刀は、改めて祖父を見やった。その手に握られているのは、真剣だ。
（ああ、そうだ。それしかないよな）
　彼は、思わず目を見張ったあと、小さくうなずいて胸に呟く。
「一を殺すことで十を生かす剣術、その腕を真にたしかめるなら、それだよな！」
　声に出して叫ぶと、彼は刀を抜いて構えた。
　それを見て、祖父も抜刀すると構える。
　しばしの間、二人は睨み合った。
　互いの視線と気配を読む。肩やつま先のわずかな動きも見逃さないように、息さえひそめて相手を観察する。
　相手の重心のバランスに目を配り、間合いを測る。
（動きを、その出始めを感じろ。それよりも先に斬れ、一刀で殺せ）
　かつて、祖父に言われたことを、刀は胸の中で繰り返し、自分自身に言い聞かせた。
　あたりに緊張の糸がピンと張りつめ、相手の呼吸音さえ聞き取れるほどの静寂が道場内を満たす。
　その瞬間、刀は一気に間合いを詰めると、構えた獲物をふるった。
　だが、同時に祖父もまたこちらに切りつけて来る。
　一瞬の白刃のきらめき――そして、目の前は暗転した。

　荒い息と共に目覚めて、刀は深く息を吐き出した。
　視界に映るのは自室の天井だったが、夢の中で最後に目にしたものもまた、道場の天井だった。
「あー……クソッ、斬られた！」
　夢の中の出来事を思い出し、彼は悔しげな声を上げる。
　互いに互いを切りつけたものの、祖父の刃の方がわずかに早かった。夢でなく、現実での対峙だったなら、彼は文字通り切られていただろう。
「まだまだかよ。遠いな」
　ぼやいたものの、最後に見た祖父の顔は笑んでいた。
「少しはやるようになったか。だが……まだまだ修行が足りんな」
　とでも言いたげな顔だった。
　それを思い出し、刀は苦笑すると身を起こす。
「うし、剣術の練習に行くか」
　呟いて、慣れた仕草で用意を整え、部屋を出る。向かう先は、いつもの練習場所――寝子島神社だった。