＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――｜リアクション

＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――

転：声よ、届け、大切な君へ

　――刀たちが石人形と戦っている頃。

　石人形との戦いの場を、どうにか切り抜けたライメイ一行だったが、吹雪と積った雪に足をとられそうになっていた。それでも、彼らは歩みをとめるわけには行かない。
（ここさえ通り抜ければ）
　祠まではあと少しである。だが、雪の所為で思うように進めない。防寒対策をしている者たちが多かった他、手を打っていない者たちへもカイロが配られていたため、寒さで動きを鈍らせる者は少なかった。

「真央ちゃんたちは水晶の柱破壊に行くのだ。久隆ちゃん先輩、幽ちゃん、美咲紀ちゃん、
ライメイさん頼んだのだ。巧ちゃん先生もそっちいくのだ？」
　後木真央の問いかけに、牛瀬巧は笑顔で頷く。
「後木さんたちも気ぃつけてな。　ライメイさんたちはワシらで祠に連れて行くさかい、君たちが助けたい人を、ちゃあんと助けてこい」
　巧の言葉に、真央は力強く頷いた。

「あと、少し……」
　春賀幽の言葉に、恵御納久隆が「そうだな」と相槌を打つ。椿美咲紀は吹雪にポニーテールを煽られながら、雪に埋もれた祠を見、思わず口をあけた。
「雪を退かさなくてはならないのです。えーっと、えーっと……」
　何か使えるものがないか考える美咲紀だったが、彼女ははた、と自分の姿を思い出して顔を赤くした。
（今の私は、朱雀族だったのです……）
　そんな姿にライメイたちは優しい微笑を零した。

　＊　＊　＊　＊

　――やっぱり、刹弦だったか……。

　恵御納夏朝（夏夜）は、水晶の柱の中で眠る影の貴人の姿に眉を顰めた。彼女の目の前では、真央が柱に触れ、出入り口のようなものを探しているようだった。しかし、それに該当するような物が無かった。
「これ蓋がないのだ。どうやって出し入れしたのだ？　こうなったら……！」
　真央は手首にはめていたバングルをナックルのように持ち、水晶の柱に叩きつけようとした。だが、そこに待った、の声がかかる。
「後木、危ない！」
　声の正体はサキリ・デイジーカッター。彼は魔物がある程度片付くと水晶の柱へ飛んできていた。
（最初は吹雪に押し流されそうになったのは秘密だよ）
　内心でそういいながらも、彼は手にした双剣を朱雀族の力で白熱化させ、その上でろっこん『斬空赤刃』を発動していた。

　双剣の１つは水晶に突き刺し、もう一方でろっこん発動。だが、柱に大きな皹が入るだけで破壊には至らない。

「刹弦殿も、やはり我々の障害となるのだろうか？　だが……」
　
　優木遥斗は、悲しげに呟く。水晶の中の刹弦は、とても悲しげに見たからだ。
（まさか、無理やり……？！）
　遥斗は疑問を胸に仕舞い込み、扇子を取り出す。志波武道から借りた、吹雪を操る物だ。
「刹弦の扇が、ここにある。吹雪を操って少しは作業をしやすいようにできないか試してみようと思うが、凍えたらすまない」
　遥斗が慎重にそういえば、サキリがにこっ、と笑う。
「僕、朱雀だし皆を暖める術は一応あるよ。大丈夫。思いっきりやっちゃって」
「そうなのだ。真央ちゃんたち、ちょっとの寒さでへこたれないのだ！」
　真央も拳を振り上げてGOサイン。夏夜も頷き、遥斗は静かに頷いた。
　扇を天に翳し、深呼吸。そして、水晶の柱を見つめ、ふわり、と腕を動かした。すると、吹雪もそれに合わせて動き出す。
「おお！　これはいけるのだ？」
　真央が期待の篭った眼差しを向けるも、操れる吹雪の範囲は半径４，５メートルが限界のようだ。祠までは至らず、その道のりを少し楽にする程度だろうか？
（もしかしたら、元の持ち主でない為に力を十二分に発揮できない……とか？）
　遥斗は扇を手に吹雪のコントロールをしながら、そんな風に実感する。
　その間にもサキリはもう一度ろっこんを使い斬りつけ、真央がバングルを手にはめて殴りかかる。水晶の柱に入った皹は大きくなるも、まだ破壊できそうに無い。