＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――｜リアクション

＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――

「呉井先輩、それキープで」
　ふと聞こえた声。陽太が顔を上げると御剣刀がその結界を足場に跳ね、剣を振るう。澄んだ音を立ててぶつかったと思えば、石人形の関節が軋み始める。
（やはり弱点はそこか）
　刀はもう一度切りつけようと狙いを定めながら、確かに帳の気配を感じ取っていた。

　戦いは結局自己の押し付け合いだと思う。その自己を貫く為に力を強め、策を弄し、動く。その結果が相手のそれを上回る事で自己を貫ける訳だ。これもそういう類の物だろう？　互いに『嵐の国』への自己を貫く為にぶつかり合う……その源泉は

　刀は跳ねる。陽太が用意した結界を足場に、石人形の関節を狙って。陽太は水を周囲にまき、ブロック状にした結界を滑らせて石人形に当てる。バランスを崩した石人形が凍結した地面を滑り、そこをチャンスとばかりに清一郎が関節へハンマーを振り上げる。刀はもう１体の石人形を狙う。
　戦いながら尚、刀は心で呼びかける。
（憧れた一刀、それを振るう姿、その背中に憧れた。それに追いつき、追い抜く。その為に俺は走り続ける。他人からの意見なんか知るかよ。これは俺の道なんだ！　だから）

　――それをどうにかしたければ力ずくで止めろよ。

　石人形は、刀の体当たりではびくともしなかった。武道は白虎のもふもふ姿で楽しげに踊り、もう１体の気を引く。倒れた石人形は腕を砕かれながらも立ち上がり、陽太は何個かのブロック状結界を滑らせ攻撃する。
　武道が気を引いた石人形の足関節を狙い、白い物が飛んでくる。新田亮がろっこん『鬼人の体（サード・フォース）』の進化能力を使って投げた硬球である。
　だが、硬球は関節を砕くまでにいたらなかった。それを口惜しく思いながら亮は今度はどこからともなくピッケルを取り出した。
「だいじょーぶ！　おにーさんに気にせずおやりなさーい☆」
「はいっ！」
　亮は武道の言葉に頷く。武道はもう一度チャンスを作ろうと道化た動きをし、考察をめぐらせる。

（今回も、帳が操っているんだろう、少なくとも状況が確認できる所にいるはず。だけど姿がどこにもみえないな。もしや……）

　武道はわざと挑発するように虎の尻尾を揺らし、おどけてみせる。その後では陽太が水を再び撒き、石人形が派手に転ぶ。清一郎が叫び、ハンマーで足の関節を殴り、派手な音を立てて破壊される。
　その瞬間、もう一体が僅かに身じろぎした。武道ではなく、ハンマーを振るう清一郎へと向かっていく。
（ここだっ！）
　亮はもう一度ろっこんを使用し、進化能力で更に身体能力を底上げしてピッケルを投げる。と、僅かな音を立てて足関節を破壊した。清一郎を庇うように修が立ちはだかる。
「無茶すんなや！！」
「「大丈夫！」」
　清一郎が叫ぶも、修が駆け出し陽太が結界を張る。修は勢い任せに大剣を振るい、石人形が倒れる方向をずらした。
　刀は帳の気配を確かに感じながら石人形を見た。
「どっちかに、あいつは潜んでいる。たぶん……今倒れこんできた方だ」
「ふぅん？　直感なんか、それ」
　清一郎がそう問いかけたそばから、石人形は霧散しようとする。彼は修と頷き合うと「ゲートオープン」と唱えるとろっこん『自分だけの倉庫』を発動させ、石人形から毀れた大降りの破片を収納スペースへと仕舞い込んだ。