＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――｜リアクション

＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――

　遥斗は、柱を見上げる。大きな皹が入った柱には浄化の光だろうか、青白い光を放っている。だが、開放にはまだ何かが足りない。遥斗は何が足りないのか解らず、表情を険しくした。
「刹弦殿、迎えに来たぞ！　今、そこから出す！　聞こえるか、刹弦殿！」
　遥斗の呼びかけで、ねむるは我に返る。どうやらうとうとしていたらしい。彼は首を振り、歯を食いしばる。
（眠気を堪えるだなんて今に始まった事じゃないだろう？　踏ん張るんだ！）
　ねむるは呼吸を整え、もう一度熱を高める。柱から水が流れ続け、徐々に小さくなっていくように見えた。だが……。
「刹弦の顔色が青白い？　それに、なかなか破壊できないのだ？」
「呼びかけろ！　呼びかけ続けるんだ！！」
　焦る真央の肩を亮が叩き、彼は拾ったピッケルを投げつける。
「呪皇は月華世界を無茶苦茶にしようとしてる。それは知ってるだろう？　瑠香さんが転生した時の為にも、俺達に協力して月華世界を守る方が良い！」
「１人ずつ少しずつ、ゆっくり寂しさ辛さを解いて行こうなのだ。刹弦の気持ちが解けるなら、愛憐さんの気持ちも解けるかもしれないのだ！」
　真央が亮に習い、再びバングルを手に殴りかかる。そしてちらり、と仲間を見た。魔物との戦いなどで力を使っていたサキリやねむる、祈りをこめて力を放つ夏夜の顔に疲労が見えた真央はぐっ、と拳を握り締めた。
（真央ちゃんはまだいけるのだ。でも、夏夜ちゃんたちが……）
「後木ぃ、他のメンバーも下がれぇぇ！」
　そこに、清一郎の声が響き渡る。同時に、金色の光がそこに迫っていた。麒麟族の瞬発力を生かし、治癒能力を同時発動させて突貫してきた修である。清一郎が結界で吹雪から修を庇い、ここまで走ってきたらしい。
　残り数メートルという所で清一郎が離れる。修は大剣を振り上げた。
「『分解』はちょっと怖いよ！　刹弦さんまでやっちゃうかも～」
　ねむるのアドバイスに、修は僅かに頷く。そして、気合と共に大剣を柱へと振り下ろす！

（この一撃で、決める！）
　修が叩き付けた大剣が、青白い光を取り込み、金色に変えて柱へと逆流させる。柱に突き刺さったサキリの剣がするり、と音を立てて滑っていく。
（今だ！）

　――アオーンッ！

　夏夜が大きく息を吸い、力を振り絞って天へと咆える。同時に、まばゆい光が辺りを照らした。
　やがて、光がやんで全員が目を開く。最初に何かに気づいた遥斗が扇を懐に仕舞い、走り出す。そこに居たのは、漸く息を吹き返した刹弦だった。遥斗は倒れそうになった彼を受け止めた。
「大丈夫か？」
　修が治癒能力を発動し、刹弦に問いかける。夏夜とサキリ、亮、真央、清一郎が駆け寄れば、刹弦は僅かに苦笑する。
「すまない。……迷惑をかけた。でも、こうでもしなければ、星華が代わりになっていた。あの子が、消えてしまうところだった」
　その言葉を聴き、夏夜の表情が凍る。不思議に思った他の面々だったが、夏夜は頭を抱える。
「どうしたんだ？」
「どうしたもこうしたもない！　伝令、伝令だ！」
　亮の問いかけに、夏夜は焦った様子で叫ぶ。

　――星華が同種の柱に入れられれば……呪いか、魔物の強化が、多発する！

　夏夜の叫びに、修は「ありえるな……」と僅かに息を飲んだ。

　＊　＊　＊　＊

　石人形の戦いが落ち着いたように見えたものの、水晶の柱は中々壊れていないようだ。吹雪は強まり、久隆の結界と美咲紀の炎でどうにか進める具合だった。
（魔物の気配は今のところ無い。けれども、この雪は……！）
　僅かに眠気が襲ってくるものの、幽は首を振って払った。
（皆、大丈夫なのか？）
　ふと、彼が離れて戦うであろう面々の事を考えたその時、吹雪がやむ。そして、まばゆい光が溢れ……空いっぱいに指笛の音が響いた。