＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――｜リアクション

＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――

「そういえば、貴方がたの中には石人形と戦った事がある者たちがいるのでしたね」
　ふと聞こえる冷たい声。いつのまにか、石人形の中から黒髪の少女が姿を現した。
「久しいな、帳」
　刀の言葉に、影の貴人が１人・帳（とばり）は「ごきげんよう」とそっけなく言った。

　その様子を、上空で見守る者がいた。日暮ねむるである。彼は鴉型の魔物を全滅させた後上空に待機していたのである。
（これ、話に聞いていた石人形だね。今姿を現した女の人が帳って人かな）
　ねむるは掌に炎を集め、静かに目を細める。だが、その前に武道が立ちふさがる。
「ねむるくーんっ！　ちょーっとタンマ！！」
「へっ？！　なんで？」
　武道の呼びかけにねむるは面食らう。帳はそんな武道の様子を怪訝そうに見、陽太もまた他のメンバーになにか話しているようだった。
　ねむるが降りてくると、陽太が眼鏡を正しながらこう言った。
「ちょっとこの人への攻撃はやめて欲しいな。彼女に聞きたい事がいろいろあってさ……」
「そういう事なら、僕は刹弦の方に行くよ。ほかの皆はどうする？」
　ねむるは１つ頷き、亮達に問いかける。と、清一郎は修と見合わせ肩を竦める。
「俺たちは後で行くよ」
「刹弦の方にはけっこう行ってるさかい、こっちの方で警戒しとくわ。なんやのこった魔物がこっちにこんとは限らんしな」
「俺は帳に言いたい事があるからここに残る」
　２人の言葉に、ねむるは頷く。だが、亮だけは違うようだ。彼は硬球とピッケルを拾うと刹弦の方に向かおう、と言った。
「行ってくる。そっちを頼んだ」
　亮の言葉に、武道たちは頷く。帳は警戒を解かずに一同の動きを見ていたが、立ち去るねむると亮の姿が吹雪にまぎれると小さくため息をついた。
「よくもまぁ、異界人の為に労を惜しみませんね」
　帳の問いかけに、武道は静かに微笑む。
「助けを求められたからね。それに、俺は影の貴人も助けたい」
　その言葉に、帳は「えっ？」と僅かに戸惑った声を上げた。

　武道と陽太は、帳の様子をかるく伺う。彼女は冷たい眼差しを向けているが、感情的になっていないようだった。刀は帳が何かしないか、警戒しているようだが清一郎は「こういうクールなお嬢さんもなかなかやな」と静観の構えだ。
（確か刀くんが、帳から何か受けているようだった。もしかして、帳は憑依や意識干渉ができるのか？）
　武道の顔を見、帳は不思議そうに首をかしげる。彼女は僅かに瞳を細め、ため息混じりに言う。
「さっきは道化てたけど、今は酷く真剣ね。道化は仮面なのかしら？」
「さ、どうかな」
　武道が静かにいい、眼鏡を正す。
「俺は、ただ皆を笑わせたいだけさ。影の貴人たちもね」
　武道の言葉に、帳は小さく笑う。だが、陽太がため息混じりに言葉を重ねた。

「正直この世界の内情がよく分かってないから、どっちが良いとか悪いとか判断がつきにくいんだ。今までの流れを見て行くと影の貴人や魔物は昔何かあって傷ついてる事が多いようだし」

　本当に倒さないといけないのは影側じゃなくて元々の原因を生み出した何かではないのか、と陽太が問いかける。２人の言葉に帳はその表情に警戒の色を浮かべ、僅かに身構える。
「英雄だっていう白虹が裏切ったとかそんな噂もあるしさ。帳さん、何か知ってるなら話を聞かせてくれませんか？」
「白虹の裏切り？　ふふ、確かにあの男は愛憐様を裏切ってるわね」
　帳はその言葉に、楽しそうに顔を綻ばせた。