＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――｜リアクション

＜月華＞銀雷の夜　――嵐の国奪還戦――

承：立ちはだかる意志と突破する意志

「魔物はかなり減ったとはいえ、まだ少し残っているわね。警戒しておく事に越したことはないわ」
　仙藤紫の言葉に、八神修は「そうだな」と頷いた。その間にも椿美咲紀が負傷者の為に花を持って舞う。ろっこん『舞花の祈り』が発動すれば傷が音も無く治癒され、士気も回復していく。
　幸い、防寒対策をしていた者が多く、凍える者はいない。その上、少量とはいえ新田亮が用意した生姜湯も飲んだ者たちに効果を齎している。
「引き続き進軍。志波たちが石人形を相手している間に水晶の柱へ進め。恵御納さん、春賀、美咲紀はライメイさんを頼む」
「わかった」
　修はライメイを守っている３人にそう言うと水晶の柱へ向かおうとする魔物へと剣を振るう。そうしながらも石人形と水晶の柱へと向かっていく仲間達の姿へと祈りをこめた眼差しを向けた。
「上空からは紫が警戒してくれる！　撃ちもらした分はオレが切り捨てるから先へいけ！」
　ルーク・ポーラスターの言葉に支えられ、多くの者たちが石人形ないし水晶の柱へと走っていく。
　氷にも見えるほど冷たそうな水晶の柱。それを中心に吹雪が巻き起こり、石人形が前に立ちふさがる。
（その奥に、祠が……）
　春賀幽は手にした槍を握り締め、恵御納久隆と美咲紀を見る。と、２人ともまだ戦えるように見えた。確かに戦場を走り抜けただけあり、疲労は見える。だが、それ以上に心の強さが、目の輝きとして出ているように思えた。
「吹雪が強くなってきた。ここは結界の出番か……」
　久隆は呼吸を整えて手をかざし、結界を張る。
「みんな、ありがとよ。あと少しだ」
　ライメイの言葉に、僅かに頷くと、久隆は結果の中へみんな入るよう伝え、強風に負けぬよう歩き出した。

「これぐらいの量なら、オレ１人でもやれそうだ」
「無茶、しないで。私もサポートするから」
　ルークが剣を片手に笑えば、紫が掌に炎を集めつつ言う。鴉型魔物は全滅が確認された今、残っているのは豹型のみ。ルークと紫は頷き合うと襲い掛かってくる魔物とぶつかり合った。

　＊　＊　＊　＊

「ほ～ら、もふもふ捕まえてごらんなヒャァイ☆」
　志波武道は明るい調子で石人形相手に声をかける。そして、襲いかかろうとする所を避けてわきをすり抜ける。反対側ではもう一体に襲われた呉井陽太が「うへぇ」と声を上げて攻撃を避ける。
「また石人形かぁ。帳さんがどこかにいるとは思うけど……」
「その辺りは観察するしかないさ」
　陽太と武道は頷きあって注意を払う。陽太は召還した亀に「危険が迫ったら髪の毛を咥えて引っ張ってね」とお願いしつつ内心でため息をついた。
（攻撃をまともに喰らうと痛すぎるからね）
　振ってきた拳を結界で防げば、鈍い衝撃が伝わってくる。痛みは無いものの、やはりちょっと怖い。

「八神に聞いてんけど、黒曜石みたいな人形は前も出てきて帳とかいう女性が魔曜石とか言ってたらしいな。多分今回もそれやろう」
　ハンマー片手に須藤清一郎が言えば、掛け声と共に関節を攻撃する。八神修からは、武道たちも色々と予測などを聞いており、帳の叫びや魔物の結晶化などにも注意を払っていた。
「今のところ、どちらが帳かはわからないな」
「せやなぁ」
　修の言葉に清一郎は深くため息をつきながらハンマーを振るう。鈍い音が吹雪に混じり、それでも清一郎は何度も振り下ろす。それにあわせ、修も大剣を振り下ろす。
「危ないっ！」
　陽太が結界を張り、２人を庇う。間一髪の所で攻撃を免れた２人は陽太に礼を述べながら額の汗をぬぐった。

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