招かれざる客　～異世界からの侵略者～｜リアクション

招かれざる客　～異世界からの侵略者～

▼蜘蛛の王

　普段はどちらかというと引っ込み思案で、大人しい北原みゆきがコスプレ部に所属している事を、知っている人はどのくらいいるのだろう？
　ともあれ間近に迫ったネコミケに向けて作った、女騎士の衣装のチェックをしていたみゆきは、その瞬間テオによって転送させられていた。
　勿論、女騎士の姿のままである。
「あれ？　ここ、シーサイドタウン」
　そして蜘蛛――まもののむれ！
　極めつけに巨大な繭が張った観覧車には、映画やアニメで見るような、テンプレートっぽい魔王の格好をした青年が！

「あそこにいる人が元凶なのか……！　あの人もコッチ系の人かなぁ？　引きつけ合う者……これも運命ね」
　きっとテオも、それを知って呼び出したのだろう。
　一人で納得すると、みゆきはお手製のロングソード（模造品だがソレっぽく見せる為に加工してあるため、叩かれるとそれなりに痛い）を、かっこよく抜き放った。
「異世界から悪い魔王が攻めてきた……私の出番ね！」
　悪しき魔王を打倒するため、全人類の願いと命運を掛けて、いざゆかん！
　ロングソードで群がる蜘蛛をいなしながら、みゆきは大観覧車に向けて進撃を開始した。

「あらまあ、魔王様に会えるなんてこの島は面白いですわねぇ。折角なので、楽しませていただきますわぁ」
　この夏、寝子島高校に編入してきたばかりの芸術科の２年、毒島虹子は気品の漂う見た目とは裏腹に、したたかだった。
　蜘蛛達が動くものや、音に反応している事に気付くと、屈みこんで拾い集めた小石をポケットに詰める。
　そうしてロングソードを振り回しながら、進撃中のみゆきの後ろをついていく。
「丁度良かったですわぁ、あの賑やかな方の後ろをついて参りましょう」

　不審な動きを見せる虹子を、何気なく見やっていた人物がいた。
　仮面の始末人、灯斗南だ。
　自宅でくつろいでいた彼だが、あくびまじりの眠そうな目で辺りを見回すと、ろっこん【イグニッションハート（点火する心）】の発動条件を満たすため、愛用の白に赤く炎のシンボルが刻まれた仮面で素顔を隠すと、始末人モードに移行した。
「街に蠢く怪物と、異世界から来た魔王か。退治するしかないだろ、うん」
　平凡な赤毛の少年は、足音もなく先を行った二人の後を追う。
　決して、ついでに女の子の前でカッコイイところを見せたい、とか思っているわけではない。多分。
　斗南の手の中に、炎が生まれる。
　彼はそれを遭遇した蜘蛛に浴びせながら、先を行った彼女らに気取られないよう周囲を殲滅しつつ、観覧車まで追従する事にした。

「おまえは別のチャンネルの人間？」
　みゆきは観覧車の根元まで辿り着くと、普段は人前では出さない大声で、青年に向かって尋ねた。
　だが、ハタと考え込む。
「うーん。今のは『貴様……異界の者か？』の方が良かったかも」
　逡巡する、みゆき。こだわり、大事。

「？　よく聞こえないが、何だお前は」
　青年が尋ね返す。
「我が名は女騎士ノーラ・ブランネージュ。お前と同じ、この地に降り立った異界からの使者」
「なんと！　そうだったのか……俺はマル……じゃなくて、魔王ワルコ！」
　みゆきは思わず噴出しそうになるが、せっかくの魔王と女騎士の対峙シーン。
　唇を噛み締め、ぐっと堪えた。
「魔王ワルコ……受けて立つわ！　人々の心の中に愛と勇気がある限り、私は負けない！」
　ビバ、お約束。今のみゆきは、輝いていた。
「アハハハ、面白い！　女騎士ノーラか、こっちへ来て見ろ」
「望むところよ！」
　みゆきは素直に挑発に乗ると、蜘蛛の糸を伝って、うんしょこらしょと上を目指し始めた。

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