◆招かれざる客
「マルコさんか。へえ、新卒で魔王に……大したもんだねえ」
渡した名刺を、ためつすがめつ。いかにも小物っぽいバケモノが顔色を伺っているのは、俺ではなく明らかに先代の大魔王の方で。
「まあ、頑張って。期待してるからさあ」
言葉とは裏腹に、俺の名刺をおざなりにズダ袋に捻じ込む小物。
早速、自信をなくした。
「何か魔王としてうまくやっていく、アドバイスとかないですかねぇ? 例えば先輩はどんな悪事を働いたんすか?」
挨拶まわりの帰り道。
おでん屋台で、もち巾着をつつきながら問えば、先代は重々しく頷いた。
「うむ。余はまず人間共の酒税を800%にしてやったぞ」
「800%? 随分高いですねぇ……?」
首を傾げる俺に、先代は笑う。
「マルコよ、キサマは若いからピンとこぬであろう。そこが余の手よ。年を取り、酒なしでは生きていけなくなればなる程、この手法はジワジワと効いてきよるわ」
「な、なるほど! 他にもありますか?」
期待をこめて見つめれば、先代はまんざらでも無さそうに唇を歪めた。
「それから、ツチノコの里を先ぶれなく市場から消してやったぞ」
「ツチノコの里? ああ、例のチョコレート菓子ですか。つまらない派閥争いが絶えないって言う……」
ううむ、意味が分からない。先代は、なぜそんな事を?
頭を抱えていると、先代はフフンと鼻で笑う。
「つまり人間共に争いの種を蒔いて、我々の戦力を削る事無く、きゃつらの力を削ぐのだ」
「!!! そっか、さすが先代、悪の見本っすね!! やるぅー!!!」
「先代、今日はありがとうございました! 俺、頑張って皆に恐れられる凄い魔王になります!!」
悠々と立ち去る先代を見送って、俺は決意を新たにしたわけだけど……。
ぶっちゃけ、何をしていいのか分かりません。
「俺が魔王に採用されたのって、体力がバカげて高いからだったんだろうなぁ……」
はあ、なりたいなぁ……オンリーワンのすっげえ魔王に。
とにかく何か魔王として、行動を起さねば。
「そうだ、いきなり本番もなんだし。実行に移すのは、他の世界で練習してからにしよう、そうしよう」
思い立ったが吉日。
俺は空間転移魔法で時空を捻じ曲げると、さっそく別の世界に転移した。
所変わって。
寝子島、夜のシーサイドタウン。
「うッ!? 何だアリャ!!?」
スケボー片手に、
三ツ瀬 銀次郎は思わず声を上げた。
シーサイドタウンは、混迷していた。
ランドマークである観覧車に、突然巨大な繭が出来、そこから多数の蜘蛛が生まれてきたからである。
張り巡らされた蜘蛛の糸を伝って、やつらは進撃を開始した。
突如 起こった甲高い悲鳴に、銀次郎は女性に襲いかかろうとしていた蜘蛛を蹴り飛ばした。
不思議な事に、蜘蛛は銀次郎の蹴りを食らうと、そのまま霧散して跡形も残らなかった。
「……!?」
「あの、ありがとうございます……」
「ちっ、さっさと行っちまえよ」
礼を言う女性に、唇を尖らせながら、しっしと手を振ったところで、
テオドロス・バルツァが世界を切り分けた。
『なんだ、あいつ? 時空が捻れてる影響で、余所者が紛れ込んだか? まあいい、てめえら出番だぜ』
「お、おい。何なんだよ、アレ! どうすりゃいいんだ?」
『うむ……あの蜘蛛どもが出てきた繭に、人型の生物がいるのが見えるか? 多分あいつが元凶だ。説得するなり、倒すなりして追い返して来い。蜘蛛はさして強くねえし、てめえらだけでどうとでもなるだろ。どうにかなるまでは、俺がこの空間を維持しといてやる。じゃあ、後は頼んだぜ?』
「あ? ちょい待てよ、コラ!! って、行っちまったか。仕方ねえな、こいつらぶっ潰して、ボスらしきヤローに説教くれてやるか。ああ、面倒くせえ!」
一方、観覧車のフレームの上に胡坐をかいて、マルコは首を捻っていた。
「うーん……やっぱ、マルコって名前にイマイチ迫力がないかな……。今度から、ワルコって名乗るか……」
メシータです。
異界からやって来た魔王が、悪の限りを尽くそうと、シーサイドタウンを襲っています(棒)。さくっと解決してきてください。
尚、テオが気を利かせて世界を切り分ける時、皆さんをシーサイドタウンに転送してくれているので、皆さんは夜のシーサイドタウンで何をしていて巻き込まれた等のロールをしなくてOKです。
■場所・状況
テオによって切り取られた世界の、夜のシーサイドタウン。
照明が多数あるので、明るいです。
観覧車に巨大な繭があり、蜘蛛がそこから無限に出てきています。
また、蜘蛛の糸のようなものが張り伸ばされています。糸は強度があり、体重が重い人が乗っても、千切れません。粘着性はありませんので、移動に利用する事が出来ます。
ゴンドラは糸の影響で、動いていません。
NPCマルコを倒すor話をするには、蜘蛛をどうにかしつつ、近づく必要があります。
■NPC
・マルコ
異界からやって来た、魔族の青年。
彼の世界では、魔族がモンスターを使役して、人間を支配しています。
外見は人間とあまり変わらず、見た目も悪くないのですが、頭が弱いです。
言葉は通じるので、ご心配はいりません。話が通じるかは、アクション次第です。
蜘蛛を使役する事が出来ます。
攻撃すれば普通にダメージを与えられますが、非常にタフな上、時間経過と共に肉体を再生する能力があるので、倒すには骨が折れるでしょう。
空間転移魔法を習得しています。
・蜘蛛
マルコに使役されている、蜘蛛たち。
自動で動くものや、騒ぐものに襲い掛かります。
糸を吐いて、対象を捕縛したり、移動したりします。
マルコが傍に居る場合は、その命令に従います。
・テオ
皆さんに問題解決を丸投げして、立ち去りました。
すでに現場には居ません。
・犬飼 未央(いぬかい みお)&ルクス
水の立方体を召喚する事が出来る、もれいび。皆さんのサポートをします。
ルクスは犬の幽霊です。
どちらも必要がなかった場合は、登場しません。
以上です、お気に召されましたら。