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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
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あなたの見せる過去
薄暗い部屋に安らかな寝息が聞こえている。同じ調子を繰り返す中で音は先細り、急に息を吸い込んだ。
深倉 理紗子は怯えた表情で目を開けた。もがくような手で上体を起こし、枕元の携帯電話に目をやって項垂れた。
「……なにしてるのよ」
理紗子は自身の額に手を当てる。病院の激務で体調を崩し、三週間の療養を余儀なくされていた。
ゆっくりと後ろに倒れ込む。理紗子は再び瞼を閉じた。眉根が少し寄る。すぐに起きてカーテンを開けた。暖かい光に全身が包まれる。
「眠れないのなら、散歩もいいよね」
二十分で支度を終えた。水色のブラウスに白いコートを羽織って理紗子は足早に出掛けていった。
街の人々の流れに乗って理紗子はキャットロードを歩いた。時間に追われることなく、ゆっくりと店舗を見て回る。
ロッジ風の店の前で足が止まった。自然に頭が傾いて顎先に指を添える。
「こんなところに……」
不思議に思いながらも中に入っていった。
教室は女子中学生の声でかしましい。日頃は口煩い担任も大目に見て粛々と成績表を渡していく。全員に行き渡ると夏休みの過ごし方を説き、ホームルームを終えた。
解放された喜びは教室に溢れ、瞬く間に外へと流れていった。残りは数人となり、最後に理紗子が残った。席に着いたまま、渡された成績表を開く。細々とした点数の他に全学年の順位が発表されていた。
「……七番ね」
頬杖を突いた。憂鬱な目で各教科の点数を見ていく。
「家に帰りたくないよ……」
理紗子には先の展開が読めていた。優秀な兄と姉を引き合いに出され、父親に罵倒されるのだ。奮起させる為と頭では理解していても、考えるだけで胸の一部が縮こまって痛みを引き起こした。
「でも、帰らないと」
理紗子は重い腰を上げた。諸々の荷物を持って、とぼとぼと歩いて廊下に出た。知り合いに出会うことなく、下駄箱で靴に履き替えて外に出る。
「今日も暑いね」
空いた手で自身に風を送りながら正門へと向かった。程なく水浴びをするような音を耳が拾う。金網の向こうで水飛沫が上がった。プールサイドで準備運動に励む部員の姿が目に留まる。
「部活があるじゃない！」
緑色の沈んだ目に瑞々しさが戻る。理紗子は水泳部の部室へと走り出した。
スクール水着になった理紗子はとにかく泳いだ。クロールに専念して伸びやかなクイックターンを幾度となく決める。果てのないゴールを目指していた。
その中、他の部員達は自身に課したノルマを果たし、次々とプールから上がっていく。何人かは理紗子に声を掛けた。本人の耳には届いていないのか。力強く水を掻いて泳いでいた。
西日が空の雲をほんのりと焦がす。プールサイドで休んでいた理紗子は飛び込み台に移動した。
少し膝を曲げて構えると全身が細かく震えた。構わずに水面に向かって頭から飛び込んだ。きめ細かい空気の泡を突き抜けて水中を進む。浮上しようと手足を動かした。とても緩慢で何故か底の方に沈んでいく。
口と鼻から大量の空気が噴き出す。身体が反転してゆらゆらと揺れる緋色を目にした。
――このまま、死んじゃうのかな。綺麗だから、いいか。
意識は安らかな眠りに就いた。
理紗子は咳き込んだ。不快な水の音がして緋色が視界に飛び込んできた。とても鮮明で力強い。傍らには白衣を着た校医が笑みを浮かべていた。
「よく帰ってきたわね」
「ただいま」
ぼんやりとした意識で答えた。その時、サイレンの音が耳に届く。こちらに近づいているようだった。
「とても、眠い……」
理紗子は瞼を閉じた。
間もなく救急車が到着した。寝入る理紗子を救急隊員がストレッチャーに乗せて病院に搬送した。
その日は大事を取って病院で一泊することになる。
白い空間で理紗子は丸椅子に座っていた。少し考えるような仕草で過去に思いを馳せる。
「あのことが切っ掛けで、わたしは医師という仕事を意識したのかもしれないわ」
「その意志を貫いてお客様は見事に想いを果たされたのですね」
後方に控えていたタキシードの人物が畏まるような姿で口にした。
理紗子は儚い笑みで立ち上がる。くるりと向きを変えて言った。
「病院に次姉がお見舞いに来た時のわたしは不安が零れそうになって、医者になれるかな？ なんて聞いていたのよ。それに今だってわたしは――」
「立派なお医者様です。早く体調を回復させて困っている人々を助けてあげてください」
清々しいまでの笑顔を受けて理紗子は、そうね、と答えて言葉を続ける。
「白い服を着た人って優しいのね」
「お客様は白衣を着ていらっしゃいます」
「……わたしは患者さんを助ける、医者だから」
理紗子は自身の言葉に照れ臭そうに笑うと、振り返ることなく帰っていった。
深倉 理紗子は怯えた表情で目を開けた。もがくような手で上体を起こし、枕元の携帯電話に目をやって項垂れた。
「……なにしてるのよ」
理紗子は自身の額に手を当てる。病院の激務で体調を崩し、三週間の療養を余儀なくされていた。
ゆっくりと後ろに倒れ込む。理紗子は再び瞼を閉じた。眉根が少し寄る。すぐに起きてカーテンを開けた。暖かい光に全身が包まれる。
「眠れないのなら、散歩もいいよね」
二十分で支度を終えた。水色のブラウスに白いコートを羽織って理紗子は足早に出掛けていった。
街の人々の流れに乗って理紗子はキャットロードを歩いた。時間に追われることなく、ゆっくりと店舗を見て回る。
ロッジ風の店の前で足が止まった。自然に頭が傾いて顎先に指を添える。
「こんなところに……」
不思議に思いながらも中に入っていった。
教室は女子中学生の声でかしましい。日頃は口煩い担任も大目に見て粛々と成績表を渡していく。全員に行き渡ると夏休みの過ごし方を説き、ホームルームを終えた。
解放された喜びは教室に溢れ、瞬く間に外へと流れていった。残りは数人となり、最後に理紗子が残った。席に着いたまま、渡された成績表を開く。細々とした点数の他に全学年の順位が発表されていた。
「……七番ね」
頬杖を突いた。憂鬱な目で各教科の点数を見ていく。
「家に帰りたくないよ……」
理紗子には先の展開が読めていた。優秀な兄と姉を引き合いに出され、父親に罵倒されるのだ。奮起させる為と頭では理解していても、考えるだけで胸の一部が縮こまって痛みを引き起こした。
「でも、帰らないと」
理紗子は重い腰を上げた。諸々の荷物を持って、とぼとぼと歩いて廊下に出た。知り合いに出会うことなく、下駄箱で靴に履き替えて外に出る。
「今日も暑いね」
空いた手で自身に風を送りながら正門へと向かった。程なく水浴びをするような音を耳が拾う。金網の向こうで水飛沫が上がった。プールサイドで準備運動に励む部員の姿が目に留まる。
「部活があるじゃない！」
緑色の沈んだ目に瑞々しさが戻る。理紗子は水泳部の部室へと走り出した。
スクール水着になった理紗子はとにかく泳いだ。クロールに専念して伸びやかなクイックターンを幾度となく決める。果てのないゴールを目指していた。
その中、他の部員達は自身に課したノルマを果たし、次々とプールから上がっていく。何人かは理紗子に声を掛けた。本人の耳には届いていないのか。力強く水を掻いて泳いでいた。
西日が空の雲をほんのりと焦がす。プールサイドで休んでいた理紗子は飛び込み台に移動した。
少し膝を曲げて構えると全身が細かく震えた。構わずに水面に向かって頭から飛び込んだ。きめ細かい空気の泡を突き抜けて水中を進む。浮上しようと手足を動かした。とても緩慢で何故か底の方に沈んでいく。
口と鼻から大量の空気が噴き出す。身体が反転してゆらゆらと揺れる緋色を目にした。
――このまま、死んじゃうのかな。綺麗だから、いいか。
意識は安らかな眠りに就いた。
理紗子は咳き込んだ。不快な水の音がして緋色が視界に飛び込んできた。とても鮮明で力強い。傍らには白衣を着た校医が笑みを浮かべていた。
「よく帰ってきたわね」
「ただいま」
ぼんやりとした意識で答えた。その時、サイレンの音が耳に届く。こちらに近づいているようだった。
「とても、眠い……」
理紗子は瞼を閉じた。
間もなく救急車が到着した。寝入る理紗子を救急隊員がストレッチャーに乗せて病院に搬送した。
その日は大事を取って病院で一泊することになる。
白い空間で理紗子は丸椅子に座っていた。少し考えるような仕草で過去に思いを馳せる。
「あのことが切っ掛けで、わたしは医師という仕事を意識したのかもしれないわ」
「その意志を貫いてお客様は見事に想いを果たされたのですね」
後方に控えていたタキシードの人物が畏まるような姿で口にした。
理紗子は儚い笑みで立ち上がる。くるりと向きを変えて言った。
「病院に次姉がお見舞いに来た時のわたしは不安が零れそうになって、医者になれるかな？ なんて聞いていたのよ。それに今だってわたしは――」
「立派なお医者様です。早く体調を回復させて困っている人々を助けてあげてください」
清々しいまでの笑顔を受けて理紗子は、そうね、と答えて言葉を続ける。
「白い服を着た人って優しいのね」
「お客様は白衣を着ていらっしゃいます」
「……わたしは患者さんを助ける、医者だから」
理紗子は自身の言葉に照れ臭そうに笑うと、振り返ることなく帰っていった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2015年07月30日
- 参加申し込みの期限
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- 2015年08月06日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2015年08月06日 11時00分
