＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ

●帰還

　帰りの道行きは全く穏やかなものだった。
　元気を取り戻した九月がトランペットを吹き、みなは軽やかな調べに合せて歌ったり踊ったりした。
　とてもいい風が吹いていたので、利平はほとんどの時間、帆をいっぱいに開いたままにした。小麗はそれを手伝って駆けまわる。
　仄と此方は交代で見張り台に登り、舵は梨香と修が交代で取った。
　未月やマウルが魚を取ると、エヴァが丸焼きにし、時子が捌き、佳奈や真央が大いに食べた。
　疲れたりかすり傷を負った者は医務室を訪れ、なぎさや美咲紀の治療を受ける。
　サキリはふたたび船内鍛冶屋をはじめ刀はそこに入り浸った。
　夏朝や豪は荷物の片づけを手伝い、焔と海も持ちだした武器を船倉に元通り整理して仕舞う。
　梢と瓢はボグルを交えて時折愉快な追いかけっこに興じ、飛鳥は遠巻きにそれを楽しんでいる。
　さゆるは甲板でぼんやり海を眺め、蛇那伊はひとり静かに中国武術の型を熟す。

　みゆきは甲板でリンコと話していたあやめを呼び止めた。
「鬼崎さん、いろいろ疑ってすみませんでした。今までの無礼を謝ります。これでおあいこってことで」
　早口にそう言うと、みゆきは一礼してその場を駆け去る。
　わだかまりは急には解けないかもしれないけれど、とりあえずの一歩だ。
　見送ってあやめはリンコに向き直った。
「それで。いつの間にか船に乗ってたリンコさん、これからどうするつもりなんです？」
「どうしようかしら。もうシーノには戻れないわねぇ」
　と、そのとき、海を見ていたリンコが急に笑い声を上げた。
　水平線の遙か彼方、点のような白い船がぽつり、波に見え隠れしている。
「あらん、見て？　シーノの船よ。あっちも無事だったみたい」
　白い点は見る間に小さくなってゆく。船の航路は真逆のようだ。
「どうやら道は分かれたようね。あたしは、梨香について行くわ」

　その梨香は、シーノを脱退することに決めたらしい。
　宝の島を見つけるという目標は達した。リアージオと気が合わないこともわかった。
　もう梨香には、シーノに留まる理由がないのだった。
　ブリジットと能美子と円はそれを聞くとようやく梨香と本当の仲間になれた気がした。

　――ところで、海の底からこの世界に戻る時、捨てなかった宝がある。ジュニアスに預けられた＜宝の匣＞だ。桜庭円は元は神落つる島のものだったというこの匣をどうしても持ち帰らなければならない気がして、しっかり抱いて放さなかったのだ。
　円はみんなと相談して、この匣を梨香に預けることにした。

「これはまだ、きっとボクらの手に余る。もしこのまま手元に置いておいたら、うっかり開けたくなるかもしれない。噂を聞きつけて開けてみようと思う人が出るかもしれない。だから、隠しておいてほしいんだ。ボクたちも知らない場所に」
　これたしか寝子島書房の本で読んだんだけど、と円は笑う。
「秘密って言うのはたった一人だけが知っているから秘密でいられるんだって。二人以上の人が知ったら、それを秘密のままにしておくのは難しいって。――だから、ボクたちは知らない方がいい。宝の島をずっと追い求めていたのは梨香センパイだから、センパイは秘密を守れる人だと思うから、信じて任せるよ」
　梨香は匣を受け取ると言った。
「その信頼に応えるわ。そしてもしいつかこの匣が必要なときがきたらあなたたちに分かるようにしておくわ」
　晴海飛鳥が梨香と握手する。
「シーノを離れてどうするつもりだい？」
「そうね。すこし身辺を整理してから考えようと思うけれど……たぶん、宝探しは辞められないわね。リンコも私も。トレジャーハントが身体に沁みついてしまってるんだもの。その道で、出来ることを探すわ」
「そうかい。梨香くん、つれない君の幸運を祈るよ」
「ありがとう。長い旅に付き合ってくれて。あなたにも、みんなにも心から感謝してる。だから私からも祈らせてもらうわ。幸運あれ！　そして……ふふ、こんな冒険のあとでおかしいけれど、」

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