ちゃよなら、寝子祭！｜リアクション

ちゃよなら、寝子祭！

【りにゃるおにごっこ】

　さて、そんなこんなで阿鼻叫喚の状態になりつつある家庭科室の片隅で。

「……また“しんこん”』の仕業（ちわざ）か。恐（おちょ）ろしい……」

　幼児化した八神修は「むむむ……」と難しい顔をして唸っていた。
　修もまた文化祭の出し物のために講習に参加していた生徒の一人だった。
　彼は記憶も思考力もある程度保っていたが、やはり幼児なのでサ行がときどき上手く言えてなかった。

（確（たち）か前にもこんなことがあった……。これはたぶん白沢せんせーのろっこんのえいきょうだ。だったらせんせいのお腹をいっぱいにすれば元に戻るかも……）

　修は一つ頷いて、冷蔵庫の中においしそうなプリンがあることを確認すると、生クリームを手に走りまわるあやこちゃん（白沢絢子）と仙藤紫のもとへ、てちてちと走っていった。
　絢子はそんな彼にきらきらと邪気のない瞳を向けて、
「んん？　あなたもおはなにクリームつけたいの？」
　と、訊いてくる。
「よし、じゃあにんげんぱふぇの５にんめは、きみにきめた！」
　と、喜び勇んで生クリームを近づけてくるのは、あやこと一緒にいた紫だった。
「……ちょ、ちょっとまて！　そ、それよりもおなかはすいていないか？」
　修は両手を前に出してくて人間パフェ攻撃を回避しつつ、二人にそんなことを訊いた。
「ううん」
「ぜんぜん」
　あやこと紫は同時にふるふると首を振った。
「……ちょうか」
　修は残念そうに「そうか」と言ったつもりだったが、やはりサ行が上手く言えてなかった。
（どうやらお腹は空いていないらしい。だったら、軽く運動をすれば――）
　修はそう考えて次の提案に移る
「だったら、おれとおにごっこをしてあそばないか？　ごほうびのプリンもあるぞ」

「「おにごっこ！？」」

　修の言葉に、あやこと紫は物凄く食いついた。

「はーい、やりまーす♪　らんらんるー♪　でも、"おにごっこ"ってどんなあそび？」

　あやこはよくわからないのに激しく同意した。

「わたし、しってる！　ぜんこくのやがみさんがたいへんなめにあうあそびだ！」
「そ、それはちょっとちがう……！」

　紫の微妙に危険な発言に、思わず叫ぶ幼い修だった。
　と、そこにどこからともなく"おにごっこ"の言葉を聞きつけた子供がやってくる。
「おにごっこか。おれもまぜてくれよっ！」
　五歳児になった楢木春彦はやる気満々で参加宣言をしながら、ひょいと自然な動作であやこちゃんの持っていたクリームをすくいとって舐める。
「ちょりーすっ！　おれもおにごっこやりたいっす、ばびゅーーんっ！」
　と、チャラい幼児のたいようくんこと南波太陽も参加を表明。もちろん彼も生クリームはちゃっかりひとくち。
　そうしてどんどん生クリームが目減りしていき、
「なまクリームがたりなくなったらまたつくればいいじゃないか！　おれもおにごっこするぞ！」
　と、御剣刀がマリー・アントワネットっぽく言いつつ、さらに生クリームをぺろりする。
　さらには、
「はいっ！　あかりもプリンたべますなのっ！」
　と、微妙に話を聞いているのかどうか怪しい橘明里もやってきて、どうやら役者は揃ったらしい。

「よし、じゃあはぢめよう。ぢかんは５ふん。タッチされたら、"おに"はこうたい。おわったらみんなでオヤツにちよう。あ、なんばせんぱいはおんなのこにカンチョーはなち（無し）ですから」

「ええっ！？　がびーーんっす！」

　修の一言に「がびーん！」と声に出して太陽がショックをうけたところで、ついに"おにごっこ"がスタートすることとなった。