ちゃよなら、寝子祭！｜リアクション

ちゃよなら、寝子祭！

【"おままごと"と"たんけん"】

　光の魔法少女『くう』こと浮舟久雨と、闇の魔法少女『りぃ』こと葛城璃人の二人の戦いはダイナミックに続いた。
　しかし、頃合いになったあたりで、『くう』がふらりと膝をつく。
「ぐああぁ！　やはり、わたしでは、だめなのか……？　しかし、このままではうちゅうが……」
　そこで久雨はチラッと『ゆーや』こと吉野夕弥を見やる。
「とうさん……にげて……」
　ばたり、とやっぱり口で言って、『くう』はその場に倒れた。
　それに、
「ふふ、あはははは！　やったのです！」
　と、そこで『りぃ』はいかにもな悪役っぽい高笑いをした。
　そこで、
（あ、くーちゃんが負けちゃった！じゃあ僕の出番だー！）
　と、『ゆーや』がガバッと起き上がる。
「ああっ……！　よくもくーちゃんを！　こうなったら、おひさまの"まほーしょーじょ"、ゆーやがおあいてだー！」
「これで世界はりぃのもの……って、な、なにぃ！？」
　夕弥のノリノリの演技に、璃人もイケイケのオーバーリアクションで応える。
　ちなみに男性である夕弥が魔法少女を演じることについては、もはや今更誰も突っ込まなかった。
　本人でさえ「ん？」と一瞬首を傾げるも、「まぁ、いいや」とアッサリ流すレベルである。イッツァネココークオリティ。
「いくよ！　おひさまのちからをかりて、いま、ひっさつの、サン・しゃもじ・あたぁぁっく！」
　夕弥はしゃもじを額のあたりにあててキリッと決めポーズを取ると、そのまま何もない空間に向かってとび蹴りをした。
　もちろん本当にあたると痛いからであって、これは当たったという設定である。
「くっ……負けたの、です……がくっ……」
　お日様の魔法少女『ゆーや』の必殺のしゃもじアタックに、闇の魔法少女『りぃ』は為すすべもなく倒れた。もちろん「がくっ」は口で言ったのは言うまでもない。
　それから『ゆーや』は慌てて、愛する娘である『くう』のもとに駆け寄った。
「くーちゃんしっかりするんだ！　しんじゃだめだ！」
『ゆーや』が涙声で『くう』を抱き起し、その名前を呼ぶ。
「……とー……さん……？　そのすがたは……？　そうか……。でんせつの、まほーしょーじょ、とは……とーさんのこと……だったのだな……」
『くう』が消え入りそうな声で父を見て言った。
　それからふっと息を漏らして笑い、安心したような顔をして目をゆっくりと閉じる。
「……わたしのかわりに、どうかうちゅうを……まもってくれ……さよ、なら……とう、さん……がくりっ……」
　そして、「がくりっ」とはっきりとした声で言ってから、首の力を抜いた。
「……そんな……くーちゃん……くーちゃああああああん……！」
『ゆーや』が悲痛な声を家庭科室に響かせた。
　それは迫真の演技で家庭科室にいたほとんど全ての子供達が一瞬だけこちらを見た。
　が、すぐに、
（ああ、そういう設定なのか）
　と、理解して、それぞれの作業に戻った。
　変なところだけ、妙に聡い幼児達であった。
　そして、数秒の余韻のあと。

「「「いぇーーーいっ！」」」

　ガバッと死んだふりをしていた久雨と璃人が起き上がり、泣いたふりをしていた夕弥と満面の笑みで熱いハイタッチを交わした。

「やったな！　ゆーや！　りぃ！」
「おもしろかったー！　りーちゃんもくーちゃんもすごかったー！」
「さすがりぃたち！　完璧なおままごとだったのです！」

　三人はとてもやりきった笑顔で、お互いの健闘を称えあっていた。
　実際、彼ら彼女らの演技は本当に迫真のものであった。
　ただ一つだけ突っ込むべきところがあるとすれば、これは"おままごと"なのだろうかということなのだが――。

　それもまた神魂の仕業――ということにしておこう。