ちゃよなら、寝子祭！｜リアクション

ちゃよなら、寝子祭！

【"ぎゃっぷ"にもえろ】

"三つ子の魂百まで"という諺がある。
　なるほど、確かに神魂現象で幼児化した子供達の多くは百までと言わずとも"現在"の彼らの面影を強く残している。だが、他方、一目見ただけでは現在の姿から想像もつかないような姿・性格をしている者達もまたそこにはいた。

「きゃははは！！　みてみて、あやこちゃん！　にんげんぱふぇのかんせいー！！」

　仙藤紫は典型的な後者の側の人間だった。
　いつもは落ち着いた知的美人といった印象のはずの紫は、いまやすっかり見た目も中身も四歳児になり、あやこちゃんこと小さくなった白沢絢子とともに生クリームをみんなにつけてまわっていた。
「あははっ！　みんな、わたしのぱふぇをみろぉっ！」
　と、家庭科室系暴れん坊少女と化した紫は大声ではしゃぎ、
「わー！　ゆかりちゃんしゅごーい！」
　それにあやこはキラキラした瞳で拍手喝采を送る。
　そんな感じで、一人、また一人と子供達が人間パフェにされていく。

　　　＊　＊　＊

「……なんだ、これ？　こどもになってる？」

　小さくなった御剣刀（記憶健在）は幼くなった声と顔で小さく首を傾げた。

「これもまた"しんこん"のしわざか……って、はなになまクリームつけられたっ！？」
　そんな刀が、紫＆あやこの人間パフェ攻撃の餌食にされることはある意味で当然の成り行きとも言えた。
「な、なにするんだよっ！？」
　と、もちろん刀は抗議の声をあげるのだが、やはり声変わりしていない甲高い声ではいまいち迫力に欠けるのか、紫とあやこは「きゃー！」と嬉しそうな悲鳴をあげて逃げるばかりだ。
「ああ、にげられたっ……！？」
　思わず叫ぶ刀。慌てて二人を捕まえようとするが、二人は逃げ足がすごく速くてそれもかなわない。
「まったく……。まあ、いいや。とにかくもとにもどるためにがんばらないと――」
　刀はそう言いながら、ほとんど反射的に鼻につけられた生クリームをひとくち舐めて、

「うん、あまい！」

　と、思わずその甘さに舌鼓を打った。
　そして、刀は事件解決のために――

「まって、せんせい！　もっと、クリームちょうだい！」

　――というよりも、むしろもっとたくさん生クリームを食べるために全力で駆け出してしまうのだった。
　いつもは事件解決のために頑張る彼もやっぱり神魂には勝てなかったのかもしれない。

　　　＊　＊　＊

　さて、その一方で、ここにも一人、現在からは想像もつかない姿になっている子供がいた。

「ううっ……うぐっ……うぅっぁああああああーーーん！」

　家庭科室のただなかで大声で泣き叫んでいる女の子――羽生碧南である。
　現在はバスケ部所属で、１８０ｃｍの長身を持つ快活美少女のはずの碧南であったが、じつは幼い頃は意外と泣き虫であったのだ。
　肉体への影響はともかくとして、精神や頭脳への影響は人によって個人差があったが、こと碧南に至っては何もかもが完全に五歳児に逆行していた。
　記憶も失い五歳児状態で知らない人ばかりの空間に放り込まれた格好の小さなみなちゃんは、
「きゃははっ！　ぱふぇふたつめかんせいー！」
　と、紫に人間パフェにされかけたり、
「ろけっとばばばびゅーーーんっ！」
　と、調子に乗り出した南波太陽にカンチョーをされそうになったりで、

「うぅっぁああああああーーーん！」

　もう完全にパニック状態のギャン泣きモードであった。
　このまま教室にいたら大変なことになると子供心に悟った碧南は家庭科室からの脱出を決意する。
　しかし、見ての通り、家庭科室は幼児で一杯で、脱出は一筋縄には行きそうになかった。

　はたして幼い碧南は逃げ延びることができるのだろうか？