桜花寮、秋の一日｜リアクション

桜花寮、秋の一日

　御巫時子は、桜花寮の串田美弥子の部屋を訪ねて来ていた。
「御巫さん、こんにちは！」
「急でしたからお電話してからの方が良かったでしょうか？」
「ううん、平気だよー。今日はどうしたの？」
「もしお時間があるようでしたら、こちらを一緒に食べようと思いまして…」
　首を傾げる美弥子に、時子は両手で持っていた箱を胸の前に上げ、そのパッケージを見せる。
「ドーナツだ！　あっ、今お茶用意するから上がってくつろいでて！」
　目を輝やかせた美弥子は、時子をドアの内側へ入れてからぱたぱたと物をどかしたりコップを用意したりと動き回る。
「ちょっと今散らかっててごめんね！」
　そんな彼女の様子を微笑ましく思いながら、時子は部屋へ上がった。
「お邪魔します…。お構いなくて大丈夫ですよ」
　二人で席に着き、時子がドーナツの紙箱を開くとそこには１０種類ほどのドーナツが並んでいた。
「わぁ、いっぱいあるー！」
「放課後、桜台のドーナツ屋さんに寄ったらどれも美味しそうで多めに購入してしまいました。選べなかったので…」
　そう言いながら、照れ笑いを浮かべる時子。
「それから近くに桜花寮があるのを思い出して、美弥子さんにお裾分けできたらと…」
「そうだったんだ！　ふふ、私ってばラッキー。ありがとうね！」
　喜ぶ美弥子を見て、時子も笑みを返した。
「それでは、いただきましょうか」
「うん！　いただきまーす！」
　チョコがかかっているものや、クリームが挟まっているものなど、見るからに食欲をそそるようなドーナツばかりだ。
「どれも美味しそう！　これは選べないのもわかるわー」
「お好きなのをどうぞ。あ…この抹茶が練り込んであるものもおススメですよ」
「そうなんだ！　じゃあ……」
　美弥子は時子の言った抹茶ドーナツを掴み紙越しに取ると、それを半分に分け、片方を差し出した。
「はい、はんぶんこ！」
「まぁ…ふふ、ありがとうございます」
　美味しいドーナツを食べながら雑談を交わし、まったり、ほのぼのと時間が流れていく。
「最近ハマってるものねー。ちょっと前に流行ったドラマ曲かなー。クラリネットのソロ用楽譜が出ててね、買うっきゃないって思ったよー」
「音楽ですか。素敵ですね…」
「御巫さんは、何かハマってることある？」
「私は干し柿作りでしょうか？　沢山柿をいただいたので紐で吊るしてます。今度お持ちしますね」
「ほんと！？　あはは、食べ物もらってばかりになっちゃうねー」
「そういえば、もうすぐ寝子祭が始まりますね。準備も進んでるみたいですし」
「話を聞いてるだけでも、いろんな催し物が盛り沢山だよね。今から楽しみー！」
「そうですね…」
「はー、でもその後に期末テストがあるのかぁ」
「ふふ…。それを乗り切ればクリスマス、冬休みがありますよ。美弥子さんは冬休みの計画は立てられてるでしょうか？」
「ううん、まだぜーんぜん！」
　そろそろドーナツも食べ終え、お茶で口を潤す頃。窓の外に目を移せば、ひんやりとした空の色とは対照的な、暖かい色の葉がはらはらと落ちる。
「今年も後２か月。早いですね…」
「あんなにいろんなことがあったのに、あっという間だねー」
　ほのぼのと日常の出来事など話しているうち、時子は御暇する時間を迎える。
「御巫さん、美味しいドーナツごちそうさまでした！」
「こちらこそ、お話できてよかったです。美弥子さん、また星ヶ丘寮にもいらしてくださいね。ふらっと立ち寄っていただいても大丈夫ですよ」
「うん！　ありがとう！」