●●●地球人の意地●●●
　下水道の戦いは勝ち続けてきたものの、本拠地にいたのは一人だった。
　皆、情報からそれが把握できていたが、ほかの足止めとも言える襲撃を受けていた。

「待たせたな」
「待たせちゃいました」
「無事ですか？」

　だが、彼らはたどり着き、ザ・ストレイトは持ちこたえたのだ。
　ネズミの後ろから到着した刀、円、梢はタイミングが一緒だった。
　すでに弱ってはいるものの、敵を関知し、ネズミはタックルをする。

　しかし、梢が持っていたライトでの無力化を行ない、刀が切りつける。
　円は動けなくなっていたもう一方のネズミにとどめを刺す。
　梢は堅く目をつぶりたい気持ちを抑え、しっかりと見る。
　そして、ネズミの亡骸を蝶と化す。

「見た顔がいるネェ！？　死体を消すなんて、おもしろい術も持ってるのカイ？」
「うるさい口だな。いろいろと聞きたいことがあるんだ、そっちを話してもらおうか」

　形勢不利も厭わず、笑い出すピエロに不快感を示す刀。
　刀もコロシアムに召還された一人だ。
　だからこそ、ピエロがこちらにきた理由を知りたいのだろう。
　ピエロはマンホールを食べていたネズミに指示を出して降りて来させる。

「解ってるんだぞ！　この前のネズミの大軍も君の仕業だな！」
「おやン？　知らないけど、僕のせいにしてもいいヨ！　僕は楽しめるから、ネ！」
「あれっ、違う？　うっそだー！」

　ぶつぶつという円だが、なおも笑うピエロ。
　ダイナミックなフツウがピエロのせいだと思ってたが、当てが外れたらしい。
　両手を叩き、ネズミの攻撃を開始しようとするピエロ。
　だが、気配に気づき、後ろに衝撃波を放つ。

「うぉ！？　気づかれてたのだ！？」
「だから突撃だって言ったのに」
「武井が悪いな、石を蹴っただろう」
「誰が原因でもいいから、さっさと行け！」

　暗闇だったからか、幸い誰にも当たっていなかったようだ。
　真央、大介、修、巴も大きな怪我もなく、ピエロに到着したようだ。
　修は不潔な場所だからかすごく不機嫌な様子だ。

「また会ったな」
「クッフフ、いやぁ、やっと見つけたヨ！　やっぱり君たちはここにいたんだネ！」
「真央ちゃんもいるぞー！」

　修も真央もコロシアムに参加していた。
　だからなのか、ピエロは見つけた途端、嬉しそうに揺れている。
　なんとも不気味な行動だ。

「あんたとは縁はないが、がっぽりとしたバイト代の為だ。
　さっさと倒れてくれないかい」
「ンー、イイネッ！　その感情、僕は好きだヨ！」
「あたしはあんたの事どーでもいいけどね」

　巴も金属バットを構える。
　油断ならない相手なのは理解している。
　タイミングを誤れば先ほどの衝撃波の餌食だろう。

「お前みたいなのがいて、おマンマが食えてんだ、とっととぶっ飛ばす」
「…ハッハァン？　お父さんだネェ？」
「あ？　何言ってやがる？」

　ピエロはにたりと笑い、両手を叩く。
　両面に一体ずつ向かわせるが、円と修のライトで目を焼かれる。
　ザ・ストレイトが腹に攻撃をたたき込み、刀が手を切る。
　真央と巴で左右から金属バットで攻撃し、大介も腹に攻撃をたたき込む。
　それぞれ有効打となり、ネズミ達は怯む。

　しかし、それだけではなかった。
　ピエロは両手を『鳴らし』両方のネズミの首を飛ばす。
　うまく切れた切り口からは噴水のよう血が飛び出てもれいび達に浴びせる。

「…っぁああああ！」

　怒りのホウコウはピエロの上から聞こえた。

なぜこうも、命は弄ばれなければならない！
彼らは彼らの営みの中、フツウに暮らしているのに！

　魂の叫びにも似たその声とともに上からネズミの死体が降り注ぐ。
　梢自身も殴ろうとするが、防御結界に押し退けられてしまう。
　真央がとっさに指示を出しがおーがクッションになり、梢のダメージなくなる。

「続くぞ！」

　ピエロとの距離を一気に詰め、続いたのは刀だ。
　突きの要領で刃を持ち、速さを攻撃力に乗せ、防御結界に阻まれる。
　しかし、それまで終始笑っていたピエロの笑顔が凍る。

「屋敷野、御剣！　避けろ！」

　修はピエロの上部のコンクリートを黙視し、ブロック大の岩を作り出す。
　修のろっこん【分解】でコンクリートを荒く分解したのだ。
　自由落下の法則で、ピエロの防御結界へと落ちてくる。

「チッ」

　ピエロが舌打ちをし、衝撃波で岩を迎撃する。
　その間に距離をつめた真央と巴、円で防御結界を殴る。
　場所は先ほどからの攻撃で把握していた。

「滅殺なのだっ！」
「壊れな！」
「たまご爆弾！」

　円の攻撃でピエロの顔は歪む。
　もっとも、ほかの人たちも同じように歪んでいた。
　防御ために衝撃波を使うのはイヤなのだろうが仕方なし使うピエロ。

　梢が真央を、修が巴を、刀が円を退避させ、その場のネズミ達を盾代わりにする。

　衝撃波の硬直を狙ってザ・ストレイトと大介は防御結界を殴る。
　ピエロの前と後ろ。
　悔しそうなピエロの顔をザ・ストレイトは目の前にしていた。

「武士は傷を負っても汚名を濯ぐんだよ」
「クソガぁあああ！」

　防御結界が破られ、怒り顔になったピエロはザ・ストレイトの腕をつかむ。
　その意味に気がついたのはザ・ストレイトと刀だ。
　不思議と振り切れるほどの力であったが、その一瞬があればピエロには事足りた。

　ピエロは指を鳴らす。
　ザ・ストレイトの腹の前で。
　辛うじて腕を腹の前に持ってこれていたザ・ストレイト。
　それでも腹や胸は衝撃波によって切り刻まれる。

　刀はほんの一瞬、【加速】を使っても間に合わなかった。
　だが、その勢いを殺さずにピエロの腹を指していた。
　鈍い音とともに壁に撃ち付けられるピエロ。
　怒りに歪んだままだったが、壁の中へと溶け込んでいってしまう。

　同時に下水道の幅が戻り、マンホールも貫通しなかったからか、元通りになった。
　ネズミも通常サイズに戻っていたが、ザ・ストレイトの傷など、
　もれいびそれぞれの状態は戻っていない。

「大丈夫ですか！？」

　梢が駆け寄り、みた感じ出血が多い。
　致命傷にまではなっていないものの、早期治療が求められることは変わりない。
　急がねば、と全員で地上の病院を目指す。

　こうして、寝子島防衛線は戦術的に見れば防衛成功であった。